海外派遣スタッフ体験談

専門性を活かしエボラ緊急対応へ参加

鈴木 基

ポジション
疫学専門家
派遣国
リベリア
活動地域
ロファ州
派遣期間
2014年10月~2014年12月

Q国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?

私は、熱帯地域での感染症の疫学を専門にしており、2014年3月に西アフリカでエボラアウトブレイクが発生して以来、現地での支援活動に貢献したいと思っていました。

具体的には、世界保健機関(WHO)が「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を宣言した8月はじめに、MSFのフィールド人事担当者に派遣を希望する旨を伝えました。医師ではなく疫学者としての派遣を希望したのは、いまの自分の専門性をより活かせると思ったからです。

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?

自分の本来の仕事でもありますので、国内外のエボラに関する情報を集めて、徹底的に頭にたたき込みました。現地入りする前に、ヨーロッパでMSFが行っているエボラ対策への派遣者を対象としたトレーニングを受けることができたのは、知識と実践を結びつけるうえで役立ちました。

Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか? どのような経験が役に立ちましたか?

MSFではこれまで内科医としての活動経験はありましたが、疫学者として派遣されるのは、今回が初めてでした。

現地ではWHO、現地保健省の専門家やほかのNGOと密接に連絡を取りながら活動し、ときにはMSFを代表して発言、行動することが求められました。もちろん、周囲と議論しながら方針を決めていくのですが、これまでの派遣経験を通じて「こういうときMSFならこう考える、こう行動する」という規範のようなものが身についていたことは大きかったと思います。

Q今回参加した海外派遣はどのようなプログラムですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
エボラ治療センターとスタッフ エボラ治療センターとスタッフ

ロファ州はリベリアの奥地にあり、ギニアとシエラレオネと国境を接しています。2014年3月に、ここでリベリア初のエボラ症例が発生して以降、MSFは現地の医療機関と協力しながらエボラ治療センターを運営していました。6月になってから症例数が急激に増え、8月には100人以上の患者が入院していましたが、10月には10人以下にまで減ってきていました。

エボラ治療センターは、20人の海外派遣スタッフと、400人以上の現地スタッフで運営されていました。医師や看護師からなる医療チーム以外にも、患者搬送チーム、健康教育チーム、心理ケアチームがありました。海外派遣スタッフは6週間で交代するため、チームのメンバーは週ごとに目まぐるしく替わっていきました。

保健省職員や現地スタッフへの技術指導を行った 保健省職員や現地スタッフへの技術指導を行った

私は疫学者として、現地保健省と協力しながら、エボラ患者に接触した住民を探し出して追跡すること、そして州内で発生する患者の情報を集め、保健省やWHOに報告する仕事をしました。派遣期間の後半には、関係者への聞き取りをおこない、最初のギニアからの輸入症例から感染が拡大した経路を特定する作業、保健省の職員や現地スタッフに対する技術指導を行いました。

結局、私が滞在中に新規症例数がゼロとなったため、MSFはロファ州での活動を現地保健省とほかの医療NGOに引き継ぎました。

Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか? また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?
エボラ治療センターの入り口では靴の消毒も行われる エボラ治療センターの入り口では靴の消毒も行われる

朝から晩まで、現地スタッフと一緒に、オフィスとエボラ治療センターを行ったり来たりしながら、情報の収集と報告を行いました。週の半分は、エボラ治療センターから車で2時間のところにある保健省に滞在して技術指導を行い、調整会議に参加してほかの関係団体と情報交換をしました。

現地保健省まで車で移動する 現地保健省まで車で移動する

6週間と派遣期間が短いため、限られた時間を無駄にしないよう、土日も休まず仕事をしていました。一度、海外派遣スタッフだけで集まって、きれいな星空の下で、プロジェクターを使った野外DVD上映会をしたのが数少ない娯楽でした。

Q現地での住居環境についておしえてください。
お米と野菜のおかずで昼食 お米と野菜のおかずで昼食

MSFが現地の宿泊施設を借り上げており、派遣スタッフにはひとり1部屋が割り当てられました。部屋は清潔で、派遣期間の後半にはシャワー、トイレ付きの部屋が使えました。

炊事、洗濯、掃除は、すべて現地雇用のスタッフがしてくれ、オフィスのある敷地に行けば、インターネットが使えました。アフリカの熱帯雨林のなかで、これ以上はない快適な生活環境でした。気を緩めることが許されない活動だけに、派遣スタッフのストレスを軽減するように配慮されていたと思います。それでも、同じ食事内容が続くと日本食が恋しくなるのですから、人間とは欲深い生き物です。

Q活動中、印象に残っていることを教えてください。

エボラ治療センターの外部でのエボラ感染を避けるために、海外派遣スタッフにはノータッチ・ルールが徹底され、握手やハグ、キスをすることは禁じられていました。欧米からの派遣スタッフのなかには、それをストレスに感じている人もいましたが、もともとそのような習慣のない私には不都合はありませんでした。

今回の活動を通じて、コミュニケーションにおける物理的な距離と、その文化による違いについて考えさせられました。

Q今後の展望は?
今回のアウトブレイクでは200人もの住民が亡くなった 今回のアウトブレイクでは200人もの住民が亡くなった

帰国後は、MSFの疫学部門(エピセンター)と共同で、住民教育や接触者追跡がエボラの制御にどれだけ有効であるのかを検証する作業に取り組んでいます。まだエボラアウトブレイクは終息していませんし、もう一度、現地入りしたいと考えています。今後も、疫学者として自分の専門を活かすことができるプログラムがあれば、ぜひ参加したいです。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

とにかく行きたい、と思い続けることが大切です。その次に大切なのが決断です。語学とか資格とかいろいろなスキルは、あとからついてきます。

海外ボランティアは若いときに行くものだと思っている方もいるようですが、年齢は関係ありません。むしろ困難な状況では、年長者の経験がとても重宝されます。遅すぎるということはありません。チャレンジしてください。

MSF派遣履歴

  • 派遣期間:2011年3月
  • 派遣国:日本
  • プログラム地域:宮城県仙台市
  • ポジション:内科医
  • 派遣期間:2003年5月~2003年9月
  • 派遣国:パレスチナ
  • プログラム地域:ガザ
  • ポジション:内科医
  • 派遣期間:2003年1月~2003年4月
  • 派遣国:スリランカ
  • プログラム地域:マドゥー
  • ポジション:内科医

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