海外派遣スタッフ体験談

日本で備えた知識と技術で初の活動参加

長谷川 直義

ポジション
麻酔科医
派遣国
イエメン
活動地域
アルカイダ
派遣期間
2016年6月~2016年8月

Qなぜ国境なき医師団(MSF)の海外派遣に参加したのですか?

麻酔科医として、紛争地での医療に携わりたいという思いがあり、実践的な医療をおこなうことができると思ったため、参加しました。これまで、海外での医療活動の経験はなかったのですが、MSFは紛争地における医療行為の歴史があり、日本からの参加者も多くいたこと、説明会も丁寧であり、応募しやすい状況でした。

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?

麻酔科医が担う仕事に関連するMSFの資料、プロトコルに目を通したほかに、特別な準備はしていません。派遣までに日本で備えていた知識、技術をもって臨みました。それでも、登録から派遣までの期間が短かったため、出発直前は準備不足という不安はありました。

語学については、応募をする前からオンライン英会話を続けているためか、派遣に耐えうる水準にはあると評価していただきました。これはうれしかったです。また、買い物に行き、持参していく日本食を考えたりもしました。ちなみに、海苔、梅干し、スナック菓子など持っていきました。

Q今までどのような仕事をしてきましたか? また、どのような経験が海外派遣で活かせましたか?

麻酔科医として特殊な経歴があるわけではありません。紛争や災害の医療に興味はありましたが、現実に携わる機会はありませんでした。

海外旅行の経験は役に立ったと思います。これまで40ヵ国以上を訪ねていますので、海外派遣自体には抵抗はありませんでした。

Q今回参加した海外派遣はどのようなプロジェクトですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
患者さんに神経ブロックを行う筆者 患者さんに神経ブロックを行う筆者

イエメンのアルカイダという町でMSFが運営する病院でのプロジェクトです。おもに外傷患者を対象としていますが、虫垂炎や帝王切開など一般的な疾患も見られました。

海外派遣スタッフは、外科医、看護師、麻酔科医で、ほかに現地スタッフの医師、看護師、麻酔アシスタントや通訳がいます。外傷では、紛争地特有の銃傷、地雷、爆発のほか、交通事故、熱傷、動物咬傷(こうしょう)といったケースも多いです。

Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか? また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?

勤務開始時は、イスラム教の断食月、ラマダン中でした。現地スタッフは昼間は食事はもちろん、水分もとっていないようです。入院患者も飲食しないですごせる人は、そうしているのが大変印象的です。通常の平日は、朝8時30分頃に病棟回診、その後手術となります。病院の規模が大きくなく、回診には、海外からの派遣スタッフ全員で参加する形でした。空いた時間があったら救急救命室(ER)の様子を見にいくこともありました。ERではERのドクター、ナースが初期治療を行います。

Q現地での住居環境についておしえてください。

個室を使用できますが、トイレ、シャワーは共同です。洗濯、掃除、食事は担当の現地スタッフがしてくれます。海外派遣スタッフは医療に集中できるような環境です。

Q活動中、印象に残っていることを教えてください。
輸血の必要な症例は多い 輸血の必要な症例は多い

おもな症例が外傷で、輸血が必要になることがあるのですが、供給されるのは全血(※)です。日本では赤血球製剤、血漿製剤、血小板製剤と成分に分けられて供給され、それぞれ保存方法も異なりますが、ここでは血液型判定、血液の保存など、現地でどのようなシステムになっているのかわからず、戸惑いました。

手術室には、血液型を判定するシート(実際に血液を混ぜて、その反応で血液型を判定する古典的な方法)があり、医師になってはじめてそのような方法での血液型判定をしました。血液の感染症検査は行われています。

麻酔に使用する薬剤が、現在日本では使用されないもの、日本に存在しないもの、濃度が違うものなどあるため、慣れるまでは注意を払いました。

  • すべての血液成分が含まれている血液。
Q今後の展望は?
一緒に働いた海外派遣スタッフとともに 一緒に働いた海外派遣スタッフとともに

さまざまな国から参加するスタッフとともに仕事ができたことで、自身の能力に自信が持てました。同時に、日本では最新の機器、薬剤をふんだんに使用することができる、すばらしい環境にあることが認識できました。とても貴重な経験ができ、今後も機会をみて参加できたらと思います。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

MSFは、現場のスタッフが快適に仕事ができるような環境を用意してくれます。参加に際し、麻酔科医の方は、日本で、MSFに向けて特殊な技術のトレーニングをする必要はありません。参加したいという意思があれば、コミュニケーションの問題もクリアできると思います。

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