コートジボワール:暴力の恐怖が残る国境地帯——避難生活を続ける人びとにさらなる援助を(6月9日現在)

2011年06月10日

大統領選挙後の対立が数ヵ月にわたって国内を荒廃させ、地域間の緊張関係や土地を巡る対立を激化させた期間を経て、国の西部では不穏な情勢がいまも続いている。暴力行為が沈静化してから数週間がたっても多くの村は空っぽのままで、住民は森の中に隠れるか国内のキャンプで避難生活を送り、または隣国リベリアで難民として暮らしている。しかし、彼らを支えるための援助活動は、両国の国境地域で最も危機的な状況におかれている人びとのニーズに、必ずしも対応できていない。


帰れない——森に隠れつづける人びと

コートジボワール西部のドゥエクエ、避難民キャンプ内にMSFが設置した診療所にて。 コートジボワール西部のドゥエクエ、避難民キャンプ内に
MSFが設置した診療所にて。

国境なき医師団(MSF)のコートジボワールにおける活動責任者、グザビエ・シモンはこう語る。
「避難した住民の多くは、残虐な暴力の被害を直接受けているか、または、他の人たちが切りつけられ、火を放たれ、殺害されるのを目撃しています。一部の人は、襲ってきた者たちは顔見知りだといい、彼らがまだ村の周りに残っているのではないかと恐れているのです。人びとは食事や睡眠を充分にとれず、不安や動悸(どうき)に苦しんでいると話しています。再び暴力や復しゅうに遭うことを恐れ、多くの人が隠れつづけることや難民として暮らすことを選択しています。また、単に帰る場所がない人たちもいます。家は焼かれ、農作物も根絶やしにされてしまったためです」

コートジボワール西部では、医療機関の多くがまだ機能していない。複数の援助機関が地域に入っているものの、その活動の大半は比較的大きな町や避難民キャンプに集中しているのが現状だ。そのため、国境付近、特にブロレキンとトゥレプルーの間の地域で森に隠れて暮らす人びとには、食糧やテントなどの住まい、医療など、命に関わる援助が充分に届いていない。

避難生活を送る人びとに援助を届けるために、MSFはコートジボワール西部と南西部の25ヵ所、リベリア側の国境沿いの20ヵ所に移動診療チームを毎週派遣している。5月にはコートジボワール西部の国境地帯だけで5000件の診療を行い、そのうち5分の1近くが森に隠れている人びとだった。現在、MSFはさらに多くの人に医療を届けるため、トゥレプルー周辺やブロレキンの南側にまで移動診療活動を拡大しつつある。しかしそれでも、これらの医療を受けられるのは森林地帯の周縁近くに隠れている人びとだけであり、森のより奥深くの人びとには届かない。

リベリア側でも援助が届かない危機

ドゥエクエ出身の兄弟、ピエール(15)とエヴァリス(10)は襲撃で両親を失い、リベリアの村落に自ら立てた小屋で暮らす。 ドゥエクエ出身の兄弟、ピエール(15)とエヴァリス(10)は襲撃
で両親を失い、リベリアの村落に自ら立てた小屋で暮らす。

リベリアには、これまでに10万人以上のコートジボワール人が国境を越えて逃げてきたと見られており、少数ではあるが現在も毎週難民が渡ってきている。MSFは、新たに到着する難民の治療を続けているが、何週間も森で過ごしていたために彼らの健康状態はかなり悪化している。難民の大半は、国境近くのリベリア人集落に散らばって暮らしている。これは従来から慢性的な食糧危機状態にあった地域である。しかし、公式な移転先として指定されていないニンバ州の複数の村をMSFが最近訪問したところ、難民と受け入れ先の住民の多くは、食糧や基本的な調理器具、住まい用の資材といった援助物資をまだ何も受け取っていないことが明らかになった。さらに、広い範囲に散らばったこうした難民たちに適切な援助を提供するには、大雨や、道路の状態の悪さ、壊れた橋などが妨げになっている。

人びとが安全のために選んだ場所に援助を

シモンはこう語る。
「暴力に追われた人びとが直面しているのは、容認しがたいほどの選択肢の欠如です。ハンガーギャップ*の季節が近づく中、リベリアにいる難民は、公式の避難場所に移動しない限り、命に関わる援助を受けられない恐れがあります。コートジボワール側では、森の中でおびえて暮らす人びとが、安全とは思えない故郷の村に食べ物や薬を求めて向かうという、苦渋の決断を迫られることもしばしばです。緊急援助は、人びとが安全のために選んだ場所に、こちらから近づいていくことが非常に重要なのです」

* ハンガーギャップ:収穫期の狭間で備蓄食糧が不足する時期、またはそのために起こる飢餓。

コートジボワールでもリベリアでも、雨期のためにマラリアの感染が拡大している。また、避難生活は健康状態にさらなる危機的状況をもたらす。両国の国境地帯でMSFが診療した患者の3分の1以上がマラリアであり、中には貧血を引き起こした重症患者もいる。リベリアのニンバ州にいる難民の診療では10人に1人が全身の痛みを訴えており、過酷な生活と心的外傷(トラウマ)の結果が身体に現れたものと考えられる。

MSFはこのほかにコートジボワールの経済上の首都アビジャンでも、緊急医療援助の提供を続けている。ここでは一般診療のほか、産科ケアや外科手術など救急医療を必要とする膨大な人数の患者に治療を行っている。今回の緊急援助を開始して以降、MSFはこれまでにコートジボワール国内で9万5000人、リベリアで2万7000人に医療を提供した。


※暴力に追われ避難生活を続ける人びとの声はこちらに掲載。

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