事務局からのお知らせ

国境なき医師団における写真の使用について

2022年05月27日

国境なき医師団(MSF)は、この度、写真家集団マグナムフォトのカメラマンがコンゴ民主共和国で撮影した未成年者の性暴力被害者の写真について、オンライン記事から削除することを決定しました。

MSFの活動は、命の危機に瀕する人びとに医療を届けるだけでなく、現場で目撃する過酷な状況を国際社会に向けて訴えることも目的としています。証言活動にあたっては、取材対象者のインフォームド・コンセント(事前の同意)が必要であり、対象者に害を及ぼさない、身の安全という原則を尊重することが不可欠です。この度の写真には、懸念や批判も寄せられており、MSFは、取材対象者の同意が得られていたものの、性暴力被害を受けた未成年者が特定できる写真を公開したことは誤った判断であったと受け止めています。本件をふまえ、団体で議論し、撮影などに関するガイドライン見直しに着手しました。

 MSFインターナショナル会長
クリストス・クリストゥ

この度、MSFの広報活動において公開した未成年の性暴力被害者の写真についてメディア等を通じて抗議の声が上がり、問題が浮き彫りになりました。MSFはこれらの画像の公開が誤りであったことを認め、反省しています。MSFは、これらの画像を含め、配慮の必要性の高い写真をオンライン記事から削除し、より良い保護措置を講じるための一連の措置を取っています。

今回の件で、画像の収集と使用に関するガイドラインの不備と、世界各地に活動地や事務局を置くMSF全体でのガイドライン運用に一貫性がないことが明らかになりました。事態改善に向けて取り組み始めており、問題を提起してくださった方々に感謝しています。

改善の取り組みとして、制作ガイドラインに18歳未満の未成年者を保護するための明確な文言を追加しました。虐待や搾取の被害者である未成年者、または差別や偏見にさらされた未成年者の名前を変更するとともに、個人が特定されないよう画像を加工することを指示しています。また、未成年者が登場するコンテンツでは、未成年者本人からのインフォームド・コンセントを得ることはできない点を明確にしています。

この度の写真の場合、本人は撮影に同意し、医療・心理スタッフのサポートを受けながら、自分が受けた被害体験を話すために名乗り出ました。孤児であったため、支える親や保護者はいませんでした。MSFは、本人が未成年であることを考慮し、身元を保護するための措置をさらに講じるべきであったと認めています。

私は医師として、治療を受けている人びとを守る責任があることを強く認識しています。MSFは、人生で最も困難な時期にある人びとを診察します。暴力や虐待の被害者を人目にさらしたり、搾取したり、危険に追いやる行為は断じて避けなければなりません。そして、苦しみや虐待の証人となるべきMSFの重要な活動が、さらなる被害を引き起こさないようにしなければなりません。

MSFインターナショナル理事会には、MSFの施設で撮影され大手写真エージェンシーのウェブサイト上で販売されている写真についての懸念が公開書簡として届いています。中には、MSFの施設内で撮影された、極度の衰弱と苦痛にさらされた子どもたちの姿が「アートプリント」として販売されている写真も含まれていることが挙げられています。

MSFはこれらの画像の著作権を保有しておらず、写真エージェンシーによる画像の販売によって利益を得ていません。それでも、これらの画像が流通し、商業化されていることを強く懸念し、この問題に対処するために、写真業界の主要な関係者に働きかけを始めました。

MSFが外部メディアやコンテンツ制作者に活動地の訪問を許可したり、依頼するのは、MSFが援助している患者やコミュニティの現実を人びとに伝え、深刻な人道危機について認識を広めるためです。しかし画像の中には、患者やコミュニティの尊厳を守るという点で、十分な基準を満たしていないものがあります。

MSFの使命のひとつは、地域社会の医療ニーズを明らかにし、紛争や危機の影響を受けた人びとの声を広めることにあります。設立以来、MSFはジャーナリストや写真家とともに、この活動に取り組んできました。MSFは、患者やコミュニティと直接関わり、彼らが体験している現実を、広く人びとに伝えたいと考えています。MSFには、医療倫理に基づき「危害を加えない」という明確な義務があります。もし、人びとの尊厳と主体性を尊重できなければ、それはMSFの人道的使命の失敗でもあるのです。

MSFは2021年に、団体の視聴覚メディアデータベース(50年にわたる20万点近くの収集を含む)の全面的な見直しを決定しました。この見直しはいま進行中で、MSFのスタッフ、患者、コミュニティの表現、描かれている人びとの尊厳と配慮、ステレオタイプ化の危険性など、多くの側面を対象としています。2022年末までに完了する予定で、使用の制限、警告の追加、画像のアーカイブ化を行う際には関係するコンテンツ制作者や代理店に通知し、履行を求めます。

またMSFは、コンテンツ制作のガイドラインを、多様性・公平性・包括性(DEI)に関するMSF全体の新しいガイダンスに準拠させることも進めています。今後は、スタッフ、契約しているコンテンツ制作者、活動地を来訪するメディア関係者がコンテンツ制作ガイドラインやDEIガイダンスを徹底して遵守するための取り組みを強化していきます。また、フリーランス業者や代理店との契約方針・手続きも見直していきます。

2022年初め、MSFはコンテンツ制作者にキャンペーンや素材に関しての助言をする目的で、広報担当者とDEIの専門家で構成される社内グループを発足しました。今後は、配慮の必要性の高いプロジェクトには最初からこのグループが参加するなど、さらに活動を推進していきます。

医療従事者として、人道援助を届ける者として、また写真などを通じて証言する者として、さまざまな分野で活動するMSFにとって、内外からの抗議や指摘を受けることは非常に重要であると考えています。MSFの最終的な責任は、私たちが支援する人びとの健康と幸福を守ることなのです。

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