「お父さんは殺された。だから僕が働くんだ」 中央アフリカ、終わらない暴力の中で【前編】

2021年10月22日
銃撃を受けMSFの支援先病院に運ばれる青年 © Lys Arango
銃撃を受けMSFの支援先病院に運ばれる青年 © Lys Arango

「いつになったら安心して暮らすことができるのか──」

政府軍と武装勢力の間の戦闘により、多くの人びとが住む場所を追われている中央アフリカ共和国。全人口の約3分の1に当たる140万人以上が避難生活を送っている。状況の悪化により避難に次ぐ避難を強いられる人びとが、その思いを語った。 

避難民キャンプを追い出されて

家族を連れ避難先を転々とする<br> ユムサ・アギダさん <br> © Lys Arango
家族を連れ避難先を転々とする
ユムサ・アギダさん 
© Lys Arango
55歳のユムサ・アギダさん一家は、この7年で4回も住む場所を失った。

2016年、一家は中部ワカ州のバンバリにたどり着き、エレバージュ避難民キャンプで生活を始めた。

「ようやく安全を手に入れることができた」。そう安堵したのもつかの間、大統領選挙が行われた昨年末から、新たな暴力の波がこの国を襲った。今年2月には、政府軍と武装勢力の間で戦闘が激化し、エレバージュ避難民キャンプにある国境なき医師団(MSF)の支援先診療所がロケット弾を受け損傷。6月には、8500人の避難民が同キャンプから強制的に追い出された。キャンプのモスクや商店、MSFが設置したマラリア診療所など、あらゆる建物が焼き払われた。

ユムサさんの年老いた母親は、このような暴力的な状況に耐えられなかった。「私たちがキャンプから追い出された後、母は食事をとることも眠ることもできなくなり、ほとんど言葉を発しなくなりました。そして先週亡くなりました。埋葬したのはバンバリの墓地です。故郷から遠く離れた場所に埋葬するしかありませんでした…」

エレバージュキャンプを追われてから、ユムサさん一家が暮らしてきたのは、バンバリの中央モスクの敷地の一角だ。生活環境は過酷で、狭い部屋で大勢が密集して過ごすか、その場しのぎのテントで寝泊まりするしかない。雨期になると、状況はさらに悪化する。

「嵐が来ると、四方八方から水が入ってきます。テントは古くて穴が開いていて、地面はただの土なので、シェルターの中は泥だらけです」と、ユムサさん同様にキャンプから逃れてきた73歳の男性は話す。「何よりつらいのは、自分が役に立たないと感じることです。いま私たちは生活のすべてを支援に頼っているのです」  
避難した人びとが身を寄せるテント。雨期にはテント内は水浸しになる © Lys Arango
避難した人びとが身を寄せるテント。雨期にはテント内は水浸しになる © Lys Arango

友だちが撃たれた

8月半ば、牛の放牧からバンバリ市に帰って来たサレー・アブドゥレイさん(17歳)を、バイクに乗り武装した男が突然引き留め、銃撃。サレーさんは血を流して倒れまま、置き去りにされた。

その後、サレーさんは友人によってMSFの支援先病院に運び込まれた。医師らによって腹部からの弾丸摘出が行われ、容体安定に成功。しかし、脊髄の損傷が激しく、専門治療のため、空路で首都バンギへの移送が必要になった。

サレーさんが入院していた約10日間の間、ずっと友人が付き添っていた。夜は病院の外で寝るしかなくても、できるだけそばにいようと。サレーさんが首都に運ばれる時、空港で涙を流していた。

重症のサレーさんが治療を受ける間ずっと付き添った友人。サレーさんはこれから首都へ移送される  © Lys Arango
重症のサレーさんが治療を受ける間ずっと付き添った友人。サレーさんはこれから首都へ移送される  © Lys Arango

「僕の夢は大統領」 子どもたちの未来は

長引く紛争は、目に見えにくい心の傷も残してきた。顕著なのは子どもたちだ。バンバリ市街をさまよい、わずかばかりの生計を稼ぐためにコーラの実を売る幼い少年たち。大半は、2014年に武装勢力に襲われた近隣のリマ村の出身で、皆、片親か両親を失くしている。

そんな少年の一人、イドリサ君(10歳)は母親と弟とともに市の中心地で暮らす。

「お父さんが殺されて、お母さんはすごく悲しんで、ずっと泣いてばかりいます。だから、僕が働かなきゃいけないんです。朝の7時から夜の7時まで、一日中街を歩いてコーラの実を売っています。去年まで学校に通っていたけど、いま学校は閉まっています。紛争のせいで先生が皆、バンバリからいなくなってしまって、悲しいです。勉強しないと立派な人になれないのに……」

バンバリの子どもたちは幼くして多くの暴力の目撃者となり、保護者なしに街頭にいると武装勢力に勧誘される恐れもある。それでも、明るい未来への希望は捨てていない。

12歳のアマドゥ君は宣言する。「僕の夢は、この国の大統領になることです。困っているたちにお金をあげて、武器じゃなく商売で生活できるようにしたいです」 

父を失ったイドリサ君(左)と、将来の夢は大統領だと語るアマドゥ君(右) © Lys Arango
父を失ったイドリサ君(左)と、将来の夢は大統領だと語るアマドゥ君(右) © Lys Arango

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