「酷寒の森で死なせたくない」ポーランド市民 ベラルーシから越境する難民を支援

2022年03月01日
暖を取るために抱き合う母娘。イラクから来たクルド人一家はポーランドに亡命を申請したが、立ち入り禁止区域に連れ戻された © Maciej Moskwa/Testigo
暖を取るために抱き合う母娘。イラクから来たクルド人一家はポーランドに亡命を申請したが、立ち入り禁止区域に連れ戻された © Maciej Moskwa/Testigo

森林に覆われた東欧ポーランドとベラルーシの国境地帯。ここから越境しようとする難民・移民がいまも絶えない。中東などからベラルーシを経由し、欧州連合(EU)の加盟国ポーランドへの入国をめざす人びと。だが、多くは酷寒の森で立ち往生し、昨年少なくとも21人が命を落としている。

ポーランド政府は2021年9月、ベラルーシとの国境付近に緊急事態宣言を発令し、援助団体などが立ち入ることを禁じた。国境なき医師団も数カ月にわたってアクセスを阻止され、今年初めに活動を引き揚げざるを得なかった。

水や食料、防寒着もなく、凍える気温の中で森に隠れる難民・移民の人たち。その支援は、事実上この地域に暮らす住民の手に委ねられている。越境者の命をつなぐ活動を行うボランティアの3人が、その困難や地域への影響を語ってくれた。

子ども5人を連れたイラクのクルド人一家は、ボランティア団体が到着するまでの20日間、食料もなく森の中で過ごしていた © Kasia Strek
子ども5人を連れたイラクのクルド人一家は、ボランティア団体が到着するまでの20日間、食料もなく森の中で過ごしていた © Kasia Strek

Q. 国境地帯で起きた危機、暮らしへの影響は?

一番の変化は、ここへ人が来るようになったことです。初めは「国境を越える人たちがいる」と聞き、写真を見ただけでした。この地域は沼地だらけで、人が通れる場所ではないからです。でも、実際にその沼地で何人も人が亡くなっています。

その後、非常事態宣言が出て、国境付近が封鎖されました。私は立ち入り禁止区域のすぐ近くに住んでいますが、区域内に住む友人は日々、武装した兵士が周りにいて大変だと思います。子どもたちは怖がっていますし。
──国境地帯の村の住民、ゾシアさん

難民を助けると、人身売買や密入国に関わっていると疑われるのではと不安

私たちの暮らしは一変しました。夜は寝付けず、神経が張りつめていて、難民を助けると人身売買や密入国に関わっていると疑われるのではないかと不安で……。それに、右翼団体の嫌がらせを受ける恐れもあります。

移動の自由が制限され、普段のように観光に出かけることもできません。それでも、家族の仲は深まりました。この問題をよく話し合っています。怒りもあるし、考え過ぎてしまいますが、妻と長男に支えられています。
──立ち入り禁止区域にある村の住民、マレクさん

朝、窓を開けると軍用車両が見えます。気の滅入る状況で、犬の散歩にもすべての証明書を携帯しなければなりません。どの宿泊施設も軍関係者で埋め尽くされ、家族や友人を招くこともできず……。国のなかでこの地域だけ切り離されてしまって辛いです。

──立ち入り禁止区域にある村の住人、シルビアさん

ポーランドの難民支援者に発見され、病院に搬送されるシリア出身の男性 © Kasia Strek
ポーランドの難民支援者に発見され、病院に搬送されるシリア出身の男性 © Kasia Strek

Q. 支援活動で困難に直面したことは?

あるグループを助けようとしていた時、どの人も健康状態がひどかったので、救急車を呼びました。もちろん国境警備隊が一緒に来ることは分かっていましたが、医療を受けさせないわけにはいかなかったからです。

到着したのは警備隊員だけで、私たちを脅し始めたのです。「ここにいるのは不法」で、私たちを「密入国業者」だと。難民の人たちに対しても、ひどい態度でした。

罠にはめられたような気分になり、恐怖を感じました。自分たちのことではなく、彼らが森の中へ押し戻されることが怖かったのです。
──ゾシアさん

国境警備隊にトラックに乗せられ、ベラルーシ国境の立ち入り禁止区域に押し戻される一家 © Maciej Moskwa/Testigo
国境警備隊にトラックに乗せられ、ベラルーシ国境の立ち入り禁止区域に押し戻される一家 © Maciej Moskwa/Testigo

「テロリスト支援だ」とか「ポーランドに不利益をもたらす行為だ」と非難されました。森でごみ拾いをしていたら軍人に拘束されて尋問された人や、家に卵を投げつけられた人もいます。右翼活動家らが、難民を助ける人たちの家の前に集まり、威嚇してきたこともあります。
──マレクさん

Q. 必需品配布などの活動に対して、地域住民の反応は?

村の人たちは口伝えで私たちの活動を知っています。聞いてはいませんが、どう思われているかは想像がつきます。一方で、素晴らしいサポートもありました。多くの友人が活動を支えるために駆けつけてくれたのです。大勢で一緒に森へ入り、身動きできずにいる人たちに支援物資を渡しました。

森へ助けに行く時、自分は一人ではないと感じる──それは私にとって重要なことです。一人ではなく、大勢の仲間を代表しているのだと思えるからです。
──ゾシアさん

地元の住民は、国境警備を支持する人と、無関心ではいられない人に分断されてしまいました。軍は、誰もが何も語らず、大人しく見て見ぬ振りをすることを望んでいます。
──シルビアさん

警備隊が難民を立ち入り禁止区域へ戻す準備をする間、暖を取れるよう寝袋を掛けるポーランド人ボランティア © Maciej Moskwa/Testigo
警備隊が難民を立ち入り禁止区域へ戻す準備をする間、暖を取れるよう寝袋を掛けるポーランド人ボランティア © Maciej Moskwa/Testigo

Q. この危機に対してなされるべきことは?

最も重要なことは、政府が難民を(ベラルーシ側へ)押し戻すことを止めること。そして、法律を改正し、目を覚ます必要があります。
──ゾシアさん

どの国の人であろうと、困っている人を助けたい

政府と国境警備隊には、必要とする人びとへの支援を行うことを許可する決定をしてほしい。それから、地元住民に対する移動制限や、国境地帯の極端な軍事化を止めてもらいたい。森の中で誰ひとり亡くなってほしくないのです。

どこの国の人であろうと、困っている人を助けたい。私たちはある価値観のなかで育ってきて、その価値観に従って生きていかなければなりません。困っている人を助けることはその一つです。
──マレクさん

いわゆる“人道回廊”が必要です。それに、いま何が本当に起きているのかを国内外に知らせるためのサポートも。権力者や命令する立場にある人たちは、移民を人間として、尊厳と敬意をもって接しなければなりません。
──シルビアさん

※プライバシー保護のため仮名を使用しています。

ポーランドの衛生兵によって病院に運ばれるシリア人男性(41歳)=2021年11月 © Kasia Strek
ポーランドの衛生兵によって病院に運ばれるシリア人男性(41歳)=2021年11月 © Kasia Strek

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