海外派遣スタッフ体験談

この病院が「最後の砦」 鎌で切られた重症患者も:吉野 美幸

2018年12月11日

吉野 美幸

職種
外科医
活動地
中央アフリカ共和国
活動期間
2018年7~9月

Q国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?

前回の南スーダン派遣の終了時に、今回のオファーがありました。MSF日本の理事会に出席する予定があったため、日程を調整してもらい、出発することができました。 

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか?どのような準備をしましたか?

前回派遣から帰国して約1ヵ月後に今回の派遣に出発しました。その間に学会発表を2つ完了させ、(今回はフランス語圏の活動のため)忘れていたフランス語も思い出すように復習しました。 

Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか?どのような経験が役に立ちましたか?

これまで2回、同じバンギの活動に参加したことがあります。病院が移転していましたが、旧病院に勤めていたスタッフも多く、みんなが「ミユキ、お帰りー!」と元気に声をかけてくれたのがとても嬉しかったです。 

Q今回参加した海外派遣はどのようなプロジェクトですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?

手術中の筆者(写真左)© MSF
手術中の筆者(写真左)© MSF
中央アフリカ共和国の首都バンギにある外科病院での勤務でした。旧病院より規模はやや小さく入院病床は約60床で、手術室2室、回復室1室、外科と整形外科病棟、集中治療室(ICU)がありました。外来部門では救急室、レントゲン、術後フォロー、性暴力被害のケアなどが設置されていました。

症例は銃創、ナイフやマシェット(大きな草刈り鎌)による損傷が多く、その他に交通外傷も多くみられました。また国内の他のMSF病院や他NGOからのコンサルトも受けており、この国の「最後の砦」のような役割の病院でした。車にひかれて横隔膜が破れた患者や、腸チフスが穿孔(せんこう)してひどい腹膜炎になって運ばれてくる患者もおり、一筋縄ではいかない手術が多かったです。
 
手術で使う縫合糸の整理箱を手作り © MSF
手術で使う縫合糸の整理箱を手作り © MSF
海外派遣スタッフは、外科医1人、整形外科1人、麻酔科医2人、病棟医師、看護師長、医療チームリーダー、薬剤師、理学療法士、アドミニストレーター数人、ロジスティシャン数人がいました。 
Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか?また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?

日曜は同僚とブランチを楽しめた © MSF
日曜は同僚とブランチを楽しめた © MSF
毎朝7時30分からICU回診、その後病棟回診をしてから、手術室で予定手術を1日5件程度行いました。その間に救急室からコンサルトがあり、緊急手術が入ることもしばしばありました。また術後患者のフォローに呼ばれたり、性暴力の被害患者の診察にもあたったりすることもありました。

任期の前半は午後5時頃には手術が終わることが多く、比較的のんびりしていましたが、後半になって忙しくなり、毎日のように夜間に緊急手術をしている週もありました。日曜日には予定手術は入れず、緊急対応のみとし、同僚と食事に出かけたりして気分転換をすることができました。
 
Q現地での住居環境について教えてください。

夕食前に仲間と軽い晩酌も  © MSF
夕食前に仲間と軽い晩酌も © MSF
病院とつながった宿舎に約10人、車で3分の別宿舎に約8人の海外派遣スタッフが生活していました。個室には蚊帳付きベッドと机・椅子があり、共用スペースのテラスではみんなで食事したり、夜におしゃべりしたりしていました。

個室には扇風機があり、快適に過ごせました(今年のこの時期は東京都の方がバンギより気温が高かったです)。シャワーは水のみ、トイレはなんと水洗(ペーパーは流せないけど)でした。
 
オープンエアーのリビング © MSF
オープンエアーのリビング © MSF
ハエと蚊が非常に多く、食事の時には片手にフォーク、片手でハエを追い払いながら食べることもよくありました。無数に蚊に刺され、しかもたまに蚊帳の中にまで蚊が侵入してくることがあり、深夜に蚊と格闘したこともあります。マラリア予防薬は必須でした。 
Q活動中、印象に残っていることを教えてください。

現地スタッフの知識・技術レベルやモチベーションは人それぞれで、新しいことを学ぶのに貪欲な人もいれば、できるだけ仕事をやりたくない、さぼりたい人もいました。日本人の感覚では通用しないことも多く、上手くなだめたり褒めたりしながら、良い雰囲気で手術ができるように心がけました。

ある日、別の病院から瀕死の状態で搬送されてきた患者さんがいましたが、その時はチーム全員が一丸となって迅速に対応し、幸い救命することができました。チームワークの大切さを改めて感じた瞬間でした。
 

Q今後の展望は?

少し休んでから日本での仕事に復帰します。プライベートでもいろいろと変化を予定しているので、臨機応変に対応しながら、次の派遣を狙っていくつもりです。 

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

MSFの海外派遣への参加スタイルは人それぞれ違います。年に1ヵ月だけ参加する、ずっとMSFのフィールドを渡り歩く、また海外派遣以外でもオフィスで後方支援をしたり、ボランティアで広報活動をしたりと、関わり方は多種多様。自分のキャリアや家庭の状況などと相談しながら、無理なく、細く長く続けていくのも一手です。自分に合ったスタイルで、参加を検討されてはいかがでしょうか。 

MSF派遣履歴

  • 派遣期間:2018年5月~2018年7月
  • 派遣国:南スーダン
  • プログラム地域:オールド・ファンガク
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2017年8月~2017年9月
  • 派遣国:中央アフリカ共和国
  • プログラム地域:バンガッスー
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2017年6月~2017年8月
  • 派遣国:コンゴ民主共和国
  • プログラム地域:ルチュル
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2017年4月~2017年6月
  • 派遣国:イラク
  • プログラム地域:ニネワ県カイヤラ
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2016年8月~2016年9月
  • 派遣国:中央アフリカ共和国
  • プログラム地域:バンギ
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2016年6月~2016年7月
  • 派遣国:コンゴ民主共和国
  • プログラム地域:ルチュル
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2016年4月~2015年5月
  • 派遣国:イエメン
  • プログラム地域:アデン
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2015年8月~2015年9月
  • 派遣国:中央アフリカ共和国
  • プログラム地域:バンギ
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2015年6月~2015年7月
  • 派遣国:コンゴ民主共和国
  • プログラム地域:ルチュル
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2014年7月~2014年8月
  • 派遣国:パレスチナ
  • プログラム地域:ガザ
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2014年4月~2014年6月
  • 派遣国:パキスタン
  • プログラム地域:ハングー
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2013年6月~2013年10月
  • 派遣国:アフガニスタン
  • プログラム地域:クンドゥーズ
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2013年4月~2013年6月
  • 派遣国:パキスタン
  • プログラム地域:ハングー
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2012年8月~2012年9月
  • 派遣国:パキスタン
  • プログラム地域:ハングー
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2012年6月~2012年7月
  • 派遣国:パキスタン
  • プログラム地域:ハングー
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2012年4月~2012年5月
  • 派遣国:ナイジェリア
  • プログラム地域:ポートハーコート
  • ポジション:外科医

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