海外派遣スタッフ体験談

沼に囲まれた病院で、牛の角に刺された患者も手術:吉野 美幸

2018年10月30日

吉野 美幸

職種
外科医
活動地
南スーダン
活動期間
2018年5~7月

Q国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?

 日本の職場との兼ね合いで5月からの派遣が可能となり、MSFからのオファーはその数ヵ月前にありました。初めての南スーダンだったので、ワクワクして引き受けました。

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか?どのような準備をしましたか?

雨期には長靴が大活躍 © MSF
雨期には長靴が大活躍 © MSF
南スーダンは居住環境がかなり厳しいと聞いていたので、暑くても過ごしやすい薄手の服や、脱水予防に、水に溶いて飲むスポーツドリンクの粉末、また、雨で路面が悪くなることも多いので、脱ぎ履きしやすい長靴などの準備をしました。 
Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか?どのような経験が役に立ちましたか?

過去17回の活動経験により、新しい現場にも気負い過ぎず、すんなり入れるようになりました。 

Q今回参加した海外派遣はどのようなプロジェクトですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?

新しい手術室にて © MSF
新しい手術室にて © MSF
南スーダンのオールド・ファンガクというナイル川沿いの地域で、広大な湿地(沼地)にある病院での勤務でした。着任する数ヵ月前まで周辺地域で戦闘が起こっていて、負傷者が多かったため、外科の活動が始まったところでした。

オールド・ファンガクという地域は、ボートでしか病院にたどり着けないという特殊性があり、患者さんが負傷したり具合が悪くなったりしてからかなり遅れて到着することがしばしばみられました。そのため傷がひどく化膿していたり、出血が多かったりすることもありました。

赴任期間全体としては、症例はそれほど多くなく、車も無い地域のため交通事故もまれでした。牛の角で刺されて負傷する人が時々いました。手術室にはエアコンが無いため、滝のように汗をかきながら手術していました。

事前に計画して行う待機手術を開始するかどうか、検討中でしたが、手術室の環境が整っておらず、衛生環境の問題もあり(手術中にハエなどの昆虫が飛び込んでくる)、新しい手術室に移動するまでは毎日数件の包帯交換がある程度でした。

海外派遣スタッフは、外科医1人、手術室看護師1人、麻酔科医1人、救急医2人、看護師長1人、プロジェクト・コーディネーター1人、医療チームリーダー1人、ロジスティシャン数人、アドミニストレーター数人が働いていました。
 
Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか?また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?

毎日病棟回診をしてから手術室で数件の小手術。それが終わるとひたすら待ってオンコール対応という日々でした。ひと月の間に緊急開腹手術は2件のみ。産婦人科の対応で産後に胎盤が娩出されず用手剥離・摘出(手で胎盤を取り出す処置)を要する例が数件ありました。

大変だったのは、電話線が通っていない田舎だったので、すべての連絡をトランシーバーで行っていたこと。夜中に誰か1人が呼ばれると、全員のトランシーバーが鳴るため、気が休まらない日々でした。
 

Q現地での住居環境について教えてください。

部屋を訪問してくるコウモリ、数がどんどん増えた © MSF
部屋を訪問してくるコウモリ、数がどんどん増えた © MSF
 病院とつながった宿舎で約15~20人の海外派遣スタッフが生活していました。トゥクルと呼ばれるわらぶき屋根の小屋に住んでいました。風がある日はましなのですが、湿度が高く扇風機があっても熱風しか来ないため、常に濡れたタオルで体を吹いて気化熱で体温を下げていました。

トゥクルも数が十分でなく、2人で1つのトゥクルをシェアしていました。コウモリが部屋に遊びに来て、可愛かったので放置しておいたら、日毎に増え続け、20匹近くのコウモリの巣窟になってしまったのはちょっと焦りました。
宿舎に住んでいるイグアナの「ボブ」 © MSF
宿舎に住んでいるイグアナの「ボブ」 © MSF
トイレはいわゆる“ぼっとん”で、ハエが大量発生しており、しかもドアがきちんとしまらず鍵がかからないという粗悪なものでした。(入るたびにちょっと勇気が要りました!)

シャワーは水のみで、四方が囲われて天井が空いている「オープンエアー・シャワー」でした。満天の星空を眺めながらの水浴びはなかなか爽快でした。
 
お好み焼きを作ったら、好評でした © MSF
お好み焼きを作ったら、好評でした © MSF
食事は、食糧が首都からの空輸に頼っているため、雨期にはいると豆と米しかないこともあるようでしたが、私がいた期間はそれよりはましでした。

夜は皆でリビングルームに集まって連続ドラマや映画を見たり、庭でバーベキューをしたり、のんびり過ごしたりしました。チームの雰囲気が良かったことで、住環境が悪くても楽しく過ごせていました。
 
Q活動中、印象に残っていることを教えてください。

ナイル川の夕日を同僚と眺める © MSF
ナイル川の夕日を同僚と眺める © MSF
オールド・ファンガクでは外科活動が始まったところでしたが、開始後は外科手術が必要な症例はごくわずかであり、私の任期の後は外科チームを送ることはなくなりました。現地のニーズの変化はとても早く、それに迅速かつ臨機応変に活動を変化させて対応していくのは、非常に難しいことだと感じました。

また、沼に囲まれた遠隔地という特殊性から、現地スタッフの教育レベルはあまり高くなく、質の良い教育を受けたスタッフを確保するのが大変でした。例えば、簡単な算数(100×5とか)ができない人もいて、何かを教えるのに非常に時間がかかり、海外派遣スタッフはみな苦労していました。ただ、現地スタッフは陽気で人が良く、そしてオールド・ファンガクはとても美しい土地でした。ナイル川沿いで、皆で夕日を見たのは忘れられない瞬間でした。 
Q今後の展望は?

私はMSF日本の副会長も務めているため、理事会の日程と調整しながら、約1ヵ月は日本で休暇を取り、その間に学会発表をいくつかこなし、7月下旬からまた次の現場に行く予定です。 

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

居住環境が悪くても、1~2週間もすれば慣れます(苦笑)。そしてお腹をこわすことも無くなり、身体の適応能力がめきめき上がっていきます。大切なのは、鈍感力!!! 

MSF派遣履歴

  • 派遣期間:2017年8月~2017年9月
  • 派遣国:中央アフリカ共和国
  • プログラム地域:バンガッスー
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2017年6月~2017年8月
  • 派遣国:コンゴ民主共和国
  • プログラム地域:ルチュル
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2017年4月~2017年6月
  • 派遣国:イラク
  • プログラム地域:ニネワ県カイヤラ
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2016年8月~2016年9月
  • 派遣国:中央アフリカ共和国
  • プログラム地域:バンギ
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2016年6月~2016年7月
  • 派遣国:コンゴ民主共和国
  • プログラム地域:ルチュル
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2016年4月~2015年5月
  • 派遣国:イエメン
  • プログラム地域:アデン
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2015年8月~2015年9月
  • 派遣国:中央アフリカ共和国
  • プログラム地域:バンギ
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2015年6月~2015年7月
  • 派遣国:コンゴ民主共和国
  • プログラム地域:ルチュル
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2014年7月~2014年8月
  • 派遣国:パレスチナ
  • プログラム地域:ガザ
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2014年4月~2014年6月
  • 派遣国:パキスタン
  • プログラム地域:ハングー
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2013年6月~2013年10月
  • 派遣国:アフガニスタン
  • プログラム地域:クンドゥーズ
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2013年4月~2013年6月
  • 派遣国:パキスタン
  • プログラム地域:ハングー
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2012年8月~2012年9月
  • 派遣国:パキスタン
  • プログラム地域:ハングー
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2012年6月~2012年7月
  • 派遣国:パキスタン
  • プログラム地域:ハングー
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2012年4月~2012年5月
  • 派遣国:ナイジェリア
  • プログラム地域:ポートハーコート
  • ポジション:外科医

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