メリットは少ない? 秘密証書遺言とは。 他の遺言との違いなどを比較表でわかりやすく解説!

更新日:2025年6月25日
監修者:庄田和樹(司法書士・土地家屋調査士・行政書士 司法書士法人 土地家屋調査士法人 行政書士法人 神楽坂法務合同事務所 代表 株式会社 遺言執行社 代表取締役)

遺言書には自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言がありますが、遺言内容を知られることなく、その存在のみを確かにする秘密証書遺言を利用する方は少なく、専門家から「あまりオススメしない」とも言われます。そのため、遺言書を作成する場合は特別な理由がない限り自筆証書遺言・公正証書遺言のどちらかを選択することになります。それではなぜ秘密証書遺言はあるのでしょうか? 今回は、秘密証書遺言の仕組みやオススメできない理由について見ていきましょう。

目次

遺産からの寄付の方法や注意点などをご説明した資料をご用意しています。

パンフレットに掲載されている内容は以下の通りです。(一部)

  • 国境なき医師団とは?
  • 遺贈寄付までの流れ
  • 公正証書遺言とその作り方
  • 自筆証書遺言とその書き方
  • 遺贈Q&A

1.秘密証書遺言とは何か?

秘密証書遺言の仕組みや、他の遺言との違いについて解説します。

そもそも秘密証書遺言とは?

遺言内容を誰にも言わず、遺言書の存在だけを公証役場で証明してもらう遺言を秘密証書遺言といいます。

秘密証書遺言は遺言者(遺言書を作成される方)が遺言書を自ら準備し、封をした状態で「公証役場」と呼ばれる公的機関へ持って行きます。その後、遺言書が存在していることを証明してもらった上で、遺言書を持ち帰り、遺言者が自ら保管します。

遺言者の死後は、家族などが「遺言書が残されていないだろうか?」と考えた時に、公証役場に問い合わせることで遺言書の存在を確認できます。

特別の方式を除いて遺言書の種類には自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言がありますが、大きなメリットを感じにくいことから、秘密証書遺言の年間の作成件数は他の2つの遺言書と比べてかなり少なくなっています。

他の遺言との違い【比較表】

自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言のそれぞれの特徴は以下の通りです。

自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
遺言を書く方 ご本人(代筆不可) 公証人 ご本人(代筆可)
費用 ほぼ発生しない 財産の金額に応じて公証役場の手数料が発生する 公証役場の手数料が発生する
(1万1000円(※3))
証人 不要 2人以上 2人以上
改ざんのリスク あり(※1) なし ほぼなし
内容の不備のリスク あり なし あり
秘密性 存在や内容を秘密にできる 公証人や証人に内容を聞かれる 内容だけ秘密にできる
保管場所 ご本人の自宅など
又は法務局(※2)
公証役場 ご本人の自宅など
総合評価(オススメ度) ×

このように、秘密証書遺言は自筆証書遺言や公正証書遺言と比べると、大きな魅力を感じにくい作成方法であることから、自筆証書遺言もしくは公正証書遺言を選択する方が多い傾向にあると考えられます。

2.秘密証書遺言の主なメリット

では、なぜ秘密証書遺言はあるのでしょうか? 秘密証書遺言のメリットを2つ紹介します。

①遺言内容を秘密にできる

秘密証書遺言は、遺言書を入れた封筒に封をして、押印した状態で公証役場に持って行くことで作成する遺言書です。遺言書を公証人に提出し、2人以上の証人の前で間違いなくご自身の遺言書であることなどを申述します。

公正証書遺言も公証役場で作成する点は同じですが、公証人と証人2人以上の前で口述する手続きがあるため、遺言内容を知られることになります。そのため「遺言内容を誰にも知られたくない」と感じる方は、公正証書遺言を選びにくいかもしれません。

それに対して秘密証書遺言は内容をチェックされたり、読み上げたりすることはないため、内容を第三者に知られたくないという方にも使いやすいと言えます。

②代筆やパソコンによる作成も可能

自筆証書遺言は他者を介さず作成することができ、その内容を秘密にすることはできますが、遺言の本文を必ず自筆しなければならないため、身体的な理由から自筆での作成が難しい場合もあります。

一方で、秘密証書遺言は全文を自筆する必要がなく、遺言者の署名と押印があれば、代筆もしくはパソコンによる作成が可能です。ただし、代筆してもらう場合は代筆者が遺言内容を知ることになるため、内容を秘密にしておけるという秘密証書遺言のメリットは感じにくいかもしれません。

3.秘密証書遺言の主なデメリット

秘密証書遺言はなぜ専門家から「オススメしない」と言われるのでしょうか。デメリットを4つ紹介します。

手続きに費用がかかる

秘密証書遺言は公証役場の手数料1万1000円に加えて、ご自身で証人を用意できない場合には証人1人あたり5000円~1万円程度の費用を支払うのが一般的です。秘密証書遺言が遺言書の存在だけを証明するものであると考えると、割高に感じる方もいるかもしれません。

費用を極力抑えるのであれば、自筆証書遺言を作成し、自宅で保管する方がよいでしょう。自筆証書遺言を法務局で保管してもらう場合は、1件あたりの手数料として3900円が必要です。

遺言が無効になることがある

遺言書の内容については民法で細かく要件が定められており、その要件を満たしていない場合には遺言書が無効になってしまうケースもあります。例えば、内容に法律的な不備があったり、訂正方法が不正なものであったりする場合は、該当する部分の遺言が無効になることがあり得ます。

このような遺言書は、ご自身が希望した内容で相続が行われない可能性があるだけではなく、遺された家族の対立や混乱を招くリスクもあります。

遺言書の内容や作成方法に不安があれば、あらかじめ弁護士などの専門家に内容を確認してもらった上で、公証役場に持参する方法もあります。しかし、第三者に遺言内容を知られることになるため、専門家に依頼するのであれば秘密証書遺言を選ぶ理由がありませんが半減してしまうでしょう。

紛失する可能性がある

秘密証書遺言は公証役場でその存在を証明してもらった後、自ら保管する必要があります。紛失してしまったり、誤って破棄してしまったりすると意味をなさないため、注意して保管する必要があります。

また、遺産に強い執着を持つ方がご家族にいれば、自分に都合の悪い内容であることを危惧して隠蔽もしくは破棄してしまうケースがないとも言えません。

遺言者の死後に家庭裁判所での「検認」手続きが必要である

秘密証書遺言の遺言者が亡くなっても、家族がすぐに開封することはできません。遺言書を見つけた方は、家庭裁判所で「検認」と呼ばれる手続きを請求することになります。

検認とは、遺言書の形状や日付・署名などを明確にし、遺言書の偽造や変造を防止する目的で行う手続きのことです。必要書類を用意した上で、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に請求を行います。

手続きが終わるまで他の相続関連の手続きが進めにくくなりますが、相続税の申告・納付期限がその分延長されるといった仕組みはありません。親族に手続き上の負担をかけてしまう可能性がある点を押さえておきましょう。

なお、公正証書遺言や保管制度を利用した自筆証書遺言では、検認は必要ありません。

4.秘密証書遺言の作成手順

秘密証書遺言の作成方法は、民法によって以下のように定められています。

  1. 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
  2. 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
  3. 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
  4. 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。

次項から、詳しい作成手順を実際の流れに沿って紹介します。

①遺言書の内容を作成

遺言書を作成し、署名・押印します。代筆やパソコンによる作成も認められていますが、その場合でも署名と押印を忘れずに行いましょう。

②公証役場で手続き・提出

遺言者が遺言書を封筒に入れてこれを封じ、封筒の綴じ目に封印(封じ目に印鑑を押すこと)します。この時、遺言書に押印したものと同じ印鑑で押印する必要があります。準備ができたら公証役場に持参します。

③公証人、証人及び遺言者による署名・押印

公証人と証人2人以上の前で、ご自身の遺言書であること、及び筆者(代筆の場合は代筆した者)の氏名・住所を申述します。その申述を受けた公証人が提出日と申述された内容を封紙(文書などを包む紙)に記載した上で、遺言者、公証人及び証人が署名・押印を行います。

④自ら保管する

手続きが終わると、遺言書を持ち帰って自ら保管します。公証役場が封紙の控えを保管するため、万が一他者に開封されるようなことがあってもわかるようになっています。

5.秘密証書遺言を作成する場合の注意点

秘密証書遺言は利用する方が少なく、あまりオススメしない仕組みであることをお伝えしてきました。では、どうしても秘密証書遺言によって遺言を残したいという方は、どのような点に気をつければいいのでしょうか。

遺言書に、遺言者自身で署名・捺印をする

秘密証書遺言は、代筆もしくはパソコンによる作成が認められているため、何らかの理由で自ら遺言書が作成できない方にも作成できるメリットがあります。

しかし、遺言書に遺言者自身で署名し、捺印することが必要です。署名の代筆や電子印鑑は認められません。自筆での署名と押印がなければ、遺言書として無効になってしまいます。

また、遺言書の本文に捺印した印鑑と、封印に使う印鑑は同じでなくてはなりません。

可能なら自分で手書きする

ただし、本文に押した印鑑と、封筒に押した印鑑が異なる場合などは、秘密証書遺言が無効になってしまう可能性もあります。

そのため、万が一秘密証書遺言として無効になってしまった場合でも遺言書として無効にならないように、自筆証書遺言としても使えるような形で作成することが望ましいでしょう。したがって、もし可能であれば代筆やパソコンではなく、全文を自筆することを推奨します。

財産の内容を明確に書く

遺言書では、対象となる財産の内容を明確に記載する必要があります。主な財産の書き方の例は以下の通りです。

<土地>
所在 東京都◯◯区◯◯町◯◯丁目
地目 宅地  地番 ◯番◯  地積 ◯◯㎡

<建物>
所在 東京都◯◯区◯◯町◯◯丁目
家屋番号 〇番〇
種類 居宅  構造 木造瓦葺平家建  床面積 〇㎡ 

<預貯金>
◯◯銀行 ◯◯支店 普通預金 口座番号◯◯◯◯◯◯ ◯◯円

<株式>
◯◯株式会社の株式 ◯◯株

財産の分割方法を明確に書く

遺言書には誰がどの財産をどんな割合で取得するのかを明確に記載します。例えば「長男◯◯に以下の財産を取得させる」とした上で、その下に具体的な財産の内容を書くなどの方法があります。

この時、曖昧な表現をするとその部分に関する遺言が無効になったり、家族間でのトラブルが発生したりする可能性があります。

例えば「家は長男に任せる」とだけ記載すると、家族や弁護士は「土地も含むのか」「任せるというのは具体的に何を指すのか(ただ単に管理を任せるとも捉えられる)」などと混乱してしまうかもしれません。

ただし、遺産の相続は遺留分(条件に該当する家族に対して、最低限保障される取得分)の請求が行われる可能性もあります。遺留分を無視して「全ての財産を次男◯◯に相続させる」といった遺言書を書くこともできますが、配偶者や他の子供が遺留分を主張してくる可能性もある点に注意しましょう。

6.まとめ

秘密証書遺言は遺言の内容を誰にも知られずに作成できる遺言書です。代筆やパソコンによる作成が認められているなどの特徴はありますが、他の作成方法と比べてメリットは少なく、秘密証書遺言を選択する方は少なくなっています。

現在は低額で自筆証書遺言を法務局で保管できる制度があり、担当する職員を除けば、第三者に内容を知られずに遺言書を作成できます。この制度により、秘密証書遺言を利用するメリットはさらに感じにくくなりつつあると言えるでしょう。

遺産からの寄付の方法や注意点などをご説明した資料をご用意しています。

パンフレットに掲載されている内容は以下の通りです。(一部)

  • 国境なき医師団とは?
  • 遺贈寄付までの流れ
  • 公正証書遺言とその作り方
  • 自筆証書遺言とその書き方
  • 遺贈Q&A

7.遺贈寄付に関するご相談

遺贈寄付の手続きは、誰にとっても初めての体験。でも、相談できる人が身近にいない、という声も聴かれます。「国境なき医師団 遺贈寄付ご相談窓口」には、幅広い知識と相談経験豊富な専任のスタッフがいます。遺言書の書き方から、手続き上のことまで、遺贈のことなら何でも、お気軽にご相談ください。

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監修者情報

庄田和樹 司法書士・土地家屋調査士・行政書士 司法書士法人 土地家屋調査士法人 行政書士法人 神楽坂法務合同事務所 代表 株式会社 遺言執行社 代表取締役

信託銀行、司法書士法人勤務を経て独立。司法書士、土地家屋調査士、行政書士として相続等の問題の解決に注力するとともに、株式会社 遺言執行社を設立し、遺言書作成サポート、死後事務委任契約をはじめとする専門的なサービスを提供している。