自筆証書遺言とは? 書き方や例文、保管方法、注意点などを徹底解説

更新日:2025年5月29日
監修者:庄田和樹(司法書士・土地家屋調査士・行政書士 司法書士法人 土地家屋調査士法人 行政書士法人 神楽坂法務合同事務所 代表 株式会社 遺言執行社 代表取締役)

自筆証書遺言は、遺言者が手書きで作成する遺言書です。自宅で気軽に作成できますが、民法で定める要件を満たす必要がある点に注意が必要です。今回は自筆証書遺言の書き方や保管制度などについてわかりやすく紹介します。

目次

遺産からの寄付の方法や注意点などをご説明した資料をご用意しています。

パンフレットに掲載されている内容は以下の通りです。(一部)

  • 国境なき医師団とは?
  • 遺贈寄付までの流れ
  • 公正証書遺言とその作り方
  • 自筆証書遺言とその書き方
  • 遺贈Q&A

1.自筆証書遺言とは何か?

自筆証書遺言とは、遺言者(遺言を遺す方)が自筆する遺言書です。公証役場(公正証書の作成などの業務を行う公的機関)で作成する公正証書遺言とは異なり、自宅などで本文や日付、名前を手書きし、押印することで作成できるため、今すぐ、あるいは手数料をかけずに遺言書を作成したいという場合に選択します。

自筆証書遺言の本文は遺言者が自ら手書きしますが、所有する財産のリストである「財産目録」に関しては、パソコンもしくは代筆によって作成することも認められています。

2.自筆証書遺言のメリット・デメリット

自筆証書遺言のメリット・デメリットについて解説します。

メリット

自筆証書遺言は紙とペンがあれば作成できるため、時間や場所を選ばず、思い立った時に作成しやすいというメリットがあります。また、公証人(裁判官や弁護士などを経験し、法務大臣から任命された者)に手数料を支払って作成する公正証書遺言とは異なり、自筆証書遺言は作成のために手数料などを支払う必要はありません。

自筆証書遺言は弁護士など専門家の力を借りずに1人で作成することもできるため、遺言の内容を誰にも知られたくないという場合にも用いられます。

デメリット

遺言書を自筆しなかったり、作成日を書き忘れてしまったりといった問題があれば、遺言書が無効になってしまいます。また、自筆証書遺言を自宅などで保管していると、誰かに発見されて改ざんや廃棄、隠匿されてしまうリスクもあります。とはいうものの、大切に保管しようとして見つかりにくい場所に保管すれば、死後に遺言書が発見されないケースもあるでしょう。

法務局での自筆証書遺言書保管制度を利用しない場合は、遺言者の死後、遺言書を保管していた人または遺言書を発見した相続人が家庭裁判所で「検認」と呼ばれる手続きを行う必要があります。

3.自筆証書遺言の保管方法

自筆証書遺言は遺言者の自宅に保管する他、信頼できる専門家や家族、知人に預かってもらうといった方法や銀行などの貸金庫に保管する方法もあります。しかし、紛失してしまったり、自分の死後見つけてもらえなかったり、破棄されたりする可能性があることから、法務局で遺言書を保管してもらう「自筆証書遺言書保管制度」を利用する方もいます。この制度については本記事の「9. 自筆証書遺言書を法務局に預ける方法」でも詳しく解説します。

4.自筆証書遺言と公正証書遺言の違い

公正証書遺言とは、公証役場(公正証書の作成などの業務を行う公的機関)で作成する遺言書です。遺言者が遺言の内容を公証人に口述することによって作成します。また、遺言書が本人の意思によって正しく作成されたことなどを証明するために、証人2人が立ち会う必要があります。

公正証書遺言は自筆証書遺言に比べて作成に手間や費用がかかる反面、公証人が関わるため、遺言書が無効になる可能性が低い点に違いがあります。また、公正証書遺言は遺言者の死後に家庭裁判所で検認を行う必要がなく、相続人の負担が少なくなります。

遺言書に記載できる内容

遺言書に記載できる内容は、遺産の相続方法だけではありません。以下をはじめとする事項について希望がある場合、遺言書に記載することで効力を発揮します。

5.自筆証書遺言の例文・ひな形

自分の死後、自筆証書遺言の効力を発揮させるためには、規定の要件に従って正しく遺言書を作成する必要があります。遺言書の一例を紹介します。

6.自筆証書遺言の正しい書き方と項目

民法第968条には「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。(※)」とあります。したがって、遺言者が手書きで作成しなくてはならず、パソコンで作成したり、録音したものを書き起こしてもらったりすることはできません。

ただし、相続財産の種類や金額などを一覧にした「財産目録」に関しては、その限りではありません。遺言者の署名と押印を行うことで、パソコンでの作成もしくは代筆が認められています。

署名

自筆証書遺言には、本人が自分の名前を自筆します。遺言書が複数枚ある場合は一カ所の署名でも問題ありませんが、念のため全てのページに署名しても構いません。

作成日

作成日は「20○○年○月○日」や「令和○年○月○日」などと記載します。作成日を書き忘れたり、月までの記載であったり、吉日など不明確であったりすれば、その遺言書は無効になります。

印鑑

遺言書を書き終わったら、自分の名前の横に押印します。使う印鑑は実印・認印のどちらでも構いませんが、遺言書には実印を押印しておくのがお勧めです。実印であれば印鑑証明書と照合できるため、もし遺言の効力が問題になった場合でも、遺言書は有効であると判断される可能性が高くなります。押印がかすれてしまった場合は、その近くにもう一度押し直しましょう。

訂正する場合

遺言書を訂正する際は、二重線で消した上で吹き出しを使って正しい文言を書き足し、印鑑を押します。余白に「5行目、3字削除、4字追加」などと書き入れて署名しましょう。押印や署名を忘れたり、修正テープを使ったりすると修正が無効になったり、遺言書自体が無効になる可能性もあります。

7.自筆証書遺言を作成する際におさえておくべきポイント

自筆証書遺言の作成時におさえておきたいポイントを紹介します。

財産に関連する書類を集めておく

遺言書を作成する際は、自身がどんな財産をいくら持っているのか把握する必要があります。所有する財産に応じて、以下をはじめとする書類を集めておきましょう。

住宅ローンや知人からの借金など、マイナスの財産がある場合にはそれらに関する以下の書類も集めます。

財産目録はパソコンで作成できる

自筆証書遺言の本文とは異なり、財産目録はパソコンで作成することが認められています。前項で集めた書類をもとに、財産の種類や金額などを記載しましょう。細かな情報を記載することになるため、ワードやエクセルで作成することをお勧めします。

財産目録に特に決まった様式はありませんが、パソコンで財産目録を作成する際は、印字があるページごとに署名・押印を行います。両面印刷にした場合には、表と裏それぞれに署名・押印しましょう。

なお、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する場合には、片面印刷しか認められていませんのでご注意ください。

相続内容を明確にする

遺言書では、相続内容を以下のように明確に記載します。

<記載方法の例>
長男○○に以下の財産を相続させる。

相続内容がはっきりせず、複数の解釈ができるような遺言書を作成すると、その部分は無効になってしまう場合があります。兄弟間で遺産をめぐるトラブルが発生し、その後の人間関係に悪影響を及ぼすこともあるでしょう。「財産は兄弟2人で半分ずつ分ける」といった表現をすると、どちらが何の財産を相続するのかなかなか決まらない可能性もあります。

遺言書は誰が読んでも同じ意味で解釈できるよう、明確に相続内容を記載することが重要です。

遺言執行者を決める

遺言は遺言者の死後効力が生じるものであり、遺言者自ら遺言内容を実現するための手続きを行うことはできません。そのため、代わりに遺言内容を実現してもらうために遺言執行者を指定することが一般的です。

遺言書には「遺言者は遺言執行者を次のとおり指定する」として、その下に住所や名前を記載することで遺言執行者を指定します。

遺言執行者を指定しても、何らかの理由で遺言を実現できないために、遺言執行者が弁護士などに対応を委任すること(復任権)もあります。「遺言執行者が必要と認めたときは、第三者にその任務を行わせることができる」などと記載することがあるのはそのためです。

「改正後 民法第1016条:遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。(※)」

修正が多ければ書き直す

これまでに解説してきた通り、遺言書と認められるためには、法律で定められたさまざまな要件を満たして作成する必要があります。慣れない作業を行う中で、修正や追記の必要が生じるということも少なくありません。また、自分では問題ないと思っていても、修正の方法を間違えていたなど、何らかのミスをしていたということもあるでしょう。

そのため、書き間違いが多くなってしまった時は「修正したつもりができていなかった」というミスを防ぐためにも、遺言書を書き直すことをお勧めします。

8.自筆証書遺言を作成する際の注意点

自筆証書遺言を作成する上で気をつける点や、知っておきたい点について紹介します。

共同遺言はできない

複数人が同じ証書によって遺言を行うことを「共同遺言」といいますが、民法第975条には「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。(※)」と記載されています。これは、夫婦などの近しい間柄であっても、共同で遺言を作成することができないことを意味します。つまり、共同遺言は、作成しても無効となりますのでご注意ください。

音声や動画による遺言は無効になる

自筆証書遺言は遺言者が自筆することで遺すものであるため、動画や音声で自分の思いを記録したものを遺言とすることはできません。

ただし、家族や大切な方に自分の思いを伝えるためにビデオレターなどを残すことはできます。近しい方への個人的なメッセージはもちろん、葬儀の参列者へのあいさつとしてビデオに録画し、当日に流すといった使い方もあります。

また、遺言書の内容を補足するためにビデオレターを残すケースもあります。ビデオに法的効力はありませんが、「遺産を相続してもらうにあたってどのような思いがあるのか」といった背景についてメッセージを残すのは問題ありません。

曖昧な表現はNG

遺言書で曖昧な表現をすると、複数の解釈ができるために相続争いのもとになったり、公的機関などの手続きに使えなかったりするリスクがあります。

例えば「不動産を長男に任せる」と遺言書に記載した場合はどうでしょうか。「不動産は長男に相続させたい」とも「不動産は長男に管理してほしい(相続とは無関係)」とも解釈できます。

他にも、遺言書で避けたい表現には以下をはじめとするものがあります。

これらの表現の代わりに、遺言書では「相続させる」「遺贈する(相続人以外の場合)」という表現を用います。

遺留分の存在を把握する

遺留分とは、遺言者の相続人のうち、兄弟姉妹以外に認められている最低限の遺産の取り分の割合です。

例えば、遺言者が「遺産の全額を友人のAさんに受け取ってほしい」といった希望を持っていれば、それを遺言書に書いても構いません。しかし、遺言者の家族から「それでは生活ができない」「不公平だ」といった不満が生じる可能性があります。

遺留分はこのような事態に配慮するために設けられた制度です。遺留分が認められている相続人が、遺留分を侵害している人(友人A)に「遺留分侵害額請求」を行えば、遺留分を侵害された分の金額を取り戻せます。

家族が家庭裁判所で検認の手続きを行う

法務局の保管制度を使わず自宅などで保管した自筆証書遺言は、遺言者の死後に相続人がそれを発見しても開封せず、家庭裁判所で検認の手続きを行います。

この手続きを行うためには、何枚もの戸籍謄本を集め、家庭裁判所に足を運ぶなどの負担を家族にかけることになります。しかし、法務局の保管制度を使ったり、公正証書遺言を選択したりすれば、この手続きは不要になります。

9.自筆証書遺言書を法務局に預ける方法

遺言書は遺言者の自宅や貸金庫だけではなく、手数料を支払って法務局で保管してもらうことも可能です。遺言書を保管してもらえる法務局を「遺言書保管所」といい、法務省のホームページから管轄の遺言書保管所を調べられます(※)。

なお、管轄の遺言書保管所は以下のいずれかの住所をもとに決定します。

法務局における自筆証書遺言書保管制度とは

そもそも自筆証書遺言書保管制度とは、遺言書を保管してもらうことで紛失を防げる制度です。

本記事の「2. 自筆証書遺言のメリット・デメリット」で、自筆証書遺言には、遺言者の死後に発見されなかったり、家族などが裁判所で検認の手続きを行わなくてはいけなかったりするなどのデメリットがあると解説しました。法務局の保管制度はそのような点を考慮して2020年7月10日から新しく始まった制度です。

遺言者の死後は、遺言書を法務局で保管していることを遺言者が指定した人に通知するため、遺言書を見つけてもらえないリスクがありません。検認を行う必要はなく、家族の負担も軽減できます。

自筆証書遺言書を法務局に預ける手続き

自筆証書遺言書保管制度を利用する大まかな手順は以下の通りです。

  1. 遺言書を作成する
  2. 管轄の法務局を選ぶ
  3. 申請書を記入して予約する
  4. 予約日に法務局へ行って申請する

申請書は法務省のホームページからダウンロードして自宅で作成できる他、法務局の窓口で用紙を入手することもできます(※1)。

申請は予約制のため、実際に利用したい法務局(遺言書保管所)への電話もしくは窓口で予約を行います。予約用のホームページを利用することも可能です(※2)。

遺言書の様式が定められている

本記事の「6. 自筆証書遺言の正しい書き方と項目」で、自筆証書遺言は、遺言者が本文を自筆し、署名・押印するといった要件が民法によって定められていると解説しました。自筆証書遺言書保管制度を利用する際は、民法上の要件に加えて、以下をはじめとする要件も満たす必要があります。

遺言書の有効性を保証するものではない

予約日に自筆証書遺言を持参すると、前項で紹介した様式に沿ったものであるかどうか窓口で確認してもらえます。しかし、自筆証書遺言書保管制度は遺言書の有効性を保証するものではない点に注意が必要です。

また、遺言内容に関する相談や質問には応じていないため、法的に有効な遺言書が書けているか心配な時は、弁護士などの専門家に相談して、チェックをしてもらうとよいでしょう。

10.遺贈寄付のための自筆証書遺言に関するご相談

遺贈とは、遺言によって自分の財産を個人(法定相続人以外の第三者を含む)や団体などに無償で譲ることをいいます。自筆証書遺言を作成する際は、遺贈という選択肢を選ぶことも可能です。

「国境なき医師団遺贈寄付ご相談窓口」では、幅広い知識と経験豊富な専任スタッフが遺言書を作成する方のサポートを行っています。遺贈を行う際の遺言書の書き方や手続きについて、ぜひお気軽にご相談ください。

11.まとめ

自筆証書遺言は自宅などで手軽に作成できるメリットがある反面、遺言書の要件を満たさず無効になるリスクもあります。弁護士などの専門家に、遺言書の形式に不備がないかどうかや遺言書の内容が遺留分を侵害していないかどうかなどを事前に確認してもらうのもお勧めです。

また、自宅に保管した遺言書が家族に発見されないリスクや、遺言者の死後は家族が家庭裁判所に行って検認の手続きを行う必要があるといったデメリットもあります。自筆証書遺言書保管制度を利用すると、遺言書が保管されて検認が不要になり、相続人や指定した人に遺言書を保管されていることが通知されます。遺言内容に関する相談はできませんが、保管において便利な制度ですので、自筆証書遺言を選択される方は検討されてみてはいかがでしょうか。

遺産からの寄付の方法や注意点などをご説明した資料をご用意しています。

パンフレットに掲載されている内容は以下の通りです。(一部)

  • 国境なき医師団とは?
  • 遺贈寄付までの流れ
  • 公正証書遺言とその作り方
  • 自筆証書遺言とその書き方
  • 遺贈Q&A

12.遺贈寄付に関するご相談

遺贈寄付の手続きは、誰にとっても初めての体験。でも、相談できる人が身近にいない、という声も聴かれます。「国境なき医師団 遺贈寄付ご相談窓口」には、幅広い知識と相談経験豊富な専任のスタッフがいます。遺言書の書き方から、手続き上のことまで、遺贈のことなら何でも、お気軽にご相談ください。

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監修者情報

庄田和樹 司法書士・土地家屋調査士・行政書士 司法書士法人 土地家屋調査士法人 行政書士法人 神楽坂法務合同事務所 代表 株式会社 遺言執行社 代表取締役

信託銀行、司法書士法人勤務を経て独立。司法書士、土地家屋調査士、行政書士として相続等の問題の解決に注力するとともに、株式会社 遺言執行社を設立し、遺言書作成サポート、死後事務委任契約をはじめとする専門的なサービスを提供している。