かまれたら死か、一生残る障害も 恐怖の「毒ヘビ」被害 治療にひかり

2018年05月25日

危険な毒ヘビとして知られるアスプコブラは、アフリカのサバンナに生息する。
危険な毒ヘビとして知られるアスプコブラは、アフリカのサバンナに生息する。

ヘビにかまれたら、どうしたらいい?すぐに病院で手当を受ければ、命の危機までは感じないかもしれない。世界中でヘビにかまれる被害がどれくらいあるのか、正確な数はわかっていないが、国際的にも公衆衛生上の大きな問題とはされておらず、課題のずっと下位にある。だが実は、ヘビ毒の被害は世界全体で年間270万件と推計されており、そのうち、手足を切断しなければならなくなったり、不治の障害を負ったりする数は約30万件、亡くなる例も10万件を超えている。

国境なき医師団(MSF)は2017年、アフリカのサハラ以南と中東を中心に、ヘビにかまれた患者を合計3000人以上受け入れた。症例が特に多いのは中央アフリカ共和国南スーダンエチオピアイエメンだ。他にも、タンザニア、ケニア、カメルーン、スーダンやシエラレオネでも多くの患者がおり、サハラ以南アフリカに限っても毎年2万人余りが亡くなっている。

住民にヘビの扱いを教えるMSFスタッフ。死んだヘビでも、むやみに触ると危険だ。(中央アフリカ共和国)
住民にヘビの扱いを教えるMSFスタッフ。死んだヘビでも、むやみに触ると危険だ。(中央アフリカ共和国)

毒ヘビにかまれても、すぐに適切な処置をすれば命に関わることはない。にもかかわらず、これだけ多くの人命が失われているのは、適切な処置ができていないことが理由だ。特に、最も対策が必要とされる場所で抗毒素が流通していないのだ。2010年には、サハラ以南アフリカでヘビにかまれた被害者のうち、わずか2%ほどしかよく効く抗毒素製剤を利用できなかったという研究もある。

13歳のニクソン君は農作業の手伝いをしていてヘビにかまれた。(中央アフリカ共和国)
13歳のニクソン君は農作業の手伝いをしていてヘビにかまれた。(中央アフリカ共和国)

MSFのヘビ咬傷(こうしょう)医療アドバイザーを務めるガブリエル・アルコバ医師は「ヘビにかまれることがどれほど恐ろしいかご存知でしょうか。痛みとともに毒が全身に回っていく中、命が危ないのに治療のしようがなく、治療費も払えない苦しみを痛感させられるのです」と語る。

6歳のニャジンマちゃんは1時間かけて診療所へ行ったがそこでは治療ができず、MSFの病院へ搬送された。(南スーダン)
6歳のニャジンマちゃんは1時間かけて診療所へ行ったがそこでは治療ができず、MSFの病院へ搬送された。(南スーダン)

抗毒素製剤が流通していたとしても、価格の高さは治療の壁になっている。良質な抗毒素が買えない人は、地元の伝統的治療師に頼ったり、毒を中和できない、むしろ有害な副作用も引き起こしかねない質の悪い製剤に頼ったりする。その結果、人びとは抗毒素の効果を信用しなくなる。そうなると抗毒素は使われず、ますます流通しなくなる悪循環も生まれている。

他にも、治療と応急手当ができる医療スタッフが不足していたり、病院に抗毒素製剤がなかったり、手当を受けられる病院が遠い、救急搬送サービスがないという理由でも、人びとは迅速に、適切な治療を受けられずにいる。

MSFが支援する病院で、ヘビにかまれた患者の血液凝固検査をする看護師。(中央アフリカ共和国)
MSFが支援する病院で、ヘビにかまれた患者の血液凝固検査をする看護師。(中央アフリカ共和国)

2017年、世界保健機関(WHO)は注意を喚起するための一手として、ようやくヘビ咬傷を「顧みられない熱帯病」のリストに追加した。それまで、ヘビにかまれた傷は「WHOの正式なプログラムがない放置された健康問題」だった。2018年5月21~26日にスイス・ジュネーブで開催するWHO年次総会でこの問題はさらに前進し、24日、194ヵ国が全世界のヘビ咬傷被害に取り組む決議を行った。

寝ている間にヘビにかまれたバニウィッチさんは、傷が感染し足を切断した。(南スーダン)
寝ている間にヘビにかまれたバニウィッチさんは、傷が感染し足を切断した。(南スーダン)

これによりWHOは、ヘビ咬傷に関して意欲的な対策ロードマップに着手し、これまでの放置状態に終止符を打つことができるだろう。ロードマップには各国および資金提供者も参画し、2019年末までに1600万米ドル(約17億8096万円)の費用で効果的な予防・診断・治療・教育・疫学的監視に重点を置いた被害対策が練られるほか、今後10年の予算も話し合われる予定だ。各国政府が具体的な資金提供を約束すれば、世界中で人びとがヘビ毒によって亡くなったり障害を負ったりする現状を、くい止める大きな一歩となるだろう。

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