顧みられない熱帯病

顧みられない熱帯病は、主に遠隔地の農村や都市部のスラム街などで、年間推定50万人もの命を奪い、10億人もの健康を悪化させる要因となっています。1975年〜2004年にかけ、顧みられない熱帯病のために開発された新薬はたった10種類しかありません。

ブルーリ潰瘍

ブルーリ潰瘍の患部を洗浄する男性(カメルーン)

ブルーリ潰瘍は世界で最も知られていない熱帯病の1つであり、「マイコバクテリウム・ウルセランス」という細菌によって引き起こされる皮膚感染症です。この病気にかかると、特に足や腕の皮膚とその柔組織が損傷し、痛みを伴います。治療を受けないと手足を切断しなければならないこともあります。

アフリカ、中南米、アジア、西太平洋の30ヵ国の熱帯地域を中心に流行しています。病気がどのように広まるのか明らかになっていないため、予防対策を立てることができません。流行が最も深刻な地域は設備や人材が限られた条件である場合が多く、診断や治療も困難です。予防・診断・治療のためのツール開発には、病気の研究を進めることが急務です。

国境なき医師団(MSF)は2002年から、カメルーンでブルーリ潰瘍の診療を行い、抗生物質治療や手術などを提供しています。現在までに800人が治療を受けています。

シャーガス病

シャーガス病を媒介するサシガメの一種

シャーガス病は「クルーズ・トリパノソーマ」と呼ばれる原虫が原因で、吸血性のサシガメが媒介します。年間1万5000人が命を落とし、中南米の21ヵ国で年間1800万人の新たな感染が確認されています。

多くの場合、感染しても初期症状が現れません。そのため、感染者の3分の1近くが重度の慢性疾患へと悪化してしまいます。治療しなければ命を落とす病気で、重症者の寿命は平均より約10年短くなっています。

診断は難しく、治療薬は最近まで、35年以上も前に開発された2種類だけでした。しかし、この治療薬は激しい副作用があり、成人患者にさえ必ずしも推奨できないものでした。診療と検査の研究・開発が早急に求められています。

MSFは1999年から、世界で最もシャーガス病の有病率が高いホンジュラスニカラグアグアテマラパラグアイボリビアなどの国々で診療を行っています。2011年は年間8万人以上のシャーガス病感染検査を行い、4200人以上の患者を治療しました。

カラアザール(リーシュマニア症)

カラアザールの治療を受ける少女(インド)

カラアザール(ヒンディー語で「黒い熱」の意)は、世界76ヵ国で症例が確認されています。流行の中心は南アジアと東アフリカです。サシチョウバエに刺されることで感染する寄生虫病で、毎年約50万人が感染し、5万人が命を落としています。

カラアザールの診断は簡単ではありません。症状は別の病気と間違えられることが多く、より詳しい臨床診断が必要となります。しかし、流行地域では診断体制が整っていないこともあります。

治療方法は複数ありますが、どれも理想的なものではありません。治療薬の中には毒性が強いものや、長期にわたる服用が必要なもの、注射や点滴が必要なもの、また値段が非常に高いものもあります。

MSFは1988年から、スーダンエチオピアケニアソマリアウガンダネパールバングラデシュインドで10万人以上にカラアザールの治療を行ってきました。

アフリカ睡眠病(アフリカ・トリパノソーマ症)

アフリカ睡眠病の疑いでMSFの検査を受ける男性
(中央アフリカ共和国)

アフリカ睡眠病はツェツェバエが媒介する寄生虫病で、慢性型と急性型の2つの型があります。症状は2段階で現れ、第1期では頭痛・発熱・内臓機能の低下などが見られます。第2期になると、中枢神経系に支障をきたし、治療しなければ確実に命を落とします。

感染はサハラ砂漠以南のアフリカ諸国で確認されていますが、診断には腰椎穿刺(ようついせんし)という検査サンプル採取法が必要です。設備や人材が限られた途上国では、行うのが難しい検査です。初期段階の治療も、条件が限られている地域には適していません。後期段階では、ヒ素を使用する治療法があります。毒性が強いため、治療によって患者が死に至ることもあります。より効果的な診断ツールや治療の研究開発を進めていくことが求められています。

MSFは、アフリカ睡眠病の患者の診療を率先して行ってきました。1986年から2010年にかけ、ウガンダ南スーダン中央アフリカ共和国コンゴ民主共和国コンゴ共和国チャドアンゴラの7ヵ国で280万人以上にスクリーニング(患者の選定)を行い、5万1000件以上の治療を行いました。現在も、中央アフリカ、チャドの一部、コンゴ、ウガンダ、南スーダンで治療を続けています。2010年には、12万3000人のスクリーニングを行い、1197件の治療を行いました。