不動産の遺贈寄付においてやるべきことと注意点

更新日:2024年10月9日
監修者:三浦美樹 司法書士(日本承継寄付協会 代表理事)

遺言書の作成例と記載のポイント

遺贈寄付へ注目が集まるのに伴い、不動産の遺贈寄付についてのご相談も増えています。しかし一言で不動産と言っても、そのかたちは千差万別で、関連する法律や税金も現金の遺贈寄付とは違ってきます。また、遺贈寄付を受けている団体によっても、不動産の遺贈寄付に対する対応はさまざまです。そこで、個別のケースについての注意点や必要な手続きは専門家にご相談いただくこととし、ここではその概要についてご説明します。

目次

遺産からの寄付の方法や注意点などをご説明した資料をご用意しています。

パンフレットに掲載されている内容は以下の通りです。(一部)

  • 国境なき医師団とは?
  • 遺贈寄付までの流れ
  • 公正証書遺言とその作り方
  • 自筆証書遺言とその書き方
  • 遺贈Q&A

1.不動産の遺贈寄付は可能か

いま住んでいる家、親から受け継いだ山林、故郷に残した空き家……。不動産を遺贈寄付したいと考える方は少なくありません。しかし、遺贈寄付として不動産を受け取る団体は決して多くはなく、受け取る場合も、その条件は団体や組織によって異なります。不動産の寄付は、金銭の寄付とは異なる特性(そのまま活動に使うことができない、管理が必要であるなど)や、リスク(維持費がかかる、買い手が見つからず売却できない、新たに税金が発生するなど)があるためです。遺贈寄付を受け入れている団体や組織の多くには、遺贈寄付の受け入れに関する方針やガイドラインがあり、不動産の遺贈寄付についても明記されているはずです。まずは寄付したい団体や組織に確認してみましょう。

2.不動産を遺贈寄付する場合にやるべきこと

不動産の遺贈寄付には、大きく分けて二つの方法があります。一つは、「a.不動産を不動産のまま遺贈寄付する」、もう一つは、「b.不動産を売却・換価して現金として遺贈寄付する」方法です。
「b.不動産を売却・換価して現金として遺贈寄付する」場合は、遺言執行者に不動産を換価してもらい、税金・諸経費などを差し引いた分を現金として寄付することになります。これを「清算型遺贈」といいます。
また、不動産の遺贈寄付ではなくなりますが、「b.不動産を売却・換価して現金として遺贈寄付する」やり方にはもう一つ、「c. 生前に寄付者自身で不動産を売却・換価し、その代金を遺贈寄付する」という方法もあります。
まとめると、以下のようになります。

  1. a.
    不動産を不動産のまま遺贈寄付する。
  2. b.
    死後に遺言執行者に不動産を換価してもらい、税金・諸経費などを差し引いた分を現金として寄付する(清算型遺贈)。
  3. c.
    生前に寄付者自身で売却し、その代金を遺贈寄付する。

不動産を寄付する場合、まず、この三つの方法のどれにするかを決めましょう。ただし、どの方法を選択するかによって、受け取ってもらえる団体や組織が違ってきます。不動産を遺贈する時の手順は、以下のようになります。

2-1. 寄付先の団体や組織が不動産遺贈を受け付けているかを確認する

上記のbとcはどちらも、寄付が行われる時点では、現金の寄付となります。問題は「a. 不動産を不動産のまま寄付する」場合で、不動産の遺贈寄付を受け取るかどうかは、団体や組織によって方針が違います。そのためまずは、寄付したいと考えている団体や組織に問い合わせてみることをおすすめします。大切な不動産を寄付すると遺言書に書いても、執行段階で受け取ってもらえないことが分かったら、せっかくの思いが叶えられません。

2-2. 不動産としての活用方針や売却について寄付先や遺言執行者に相談する

寄付者にとって思い入れのある不動産なら、寄付する団体や組織には、そのまま不動産として(例えばオフィスとして)使ってほしい、と思う場合もあるでしょう。しかし、受け取る側が不動産を常に、あるいは遺贈寄付が実現する時点で必要としているかは分かりません。そのため、寄付したいと考えている団体や組織に不動産寄付を受けているか問い合わせる際に、希望する用途で使ってもらえるかどうかも尋ねてみるとよいでしょう。
一方、「b. 死後に遺言執行者に不動産を換価してもらい、税金・諸経費などを差し引いた分を現金として寄付する」や「c. 生前に寄付者自身で売却し、その代金を遺贈寄付する」は、現金の寄付となりますので、多くの団体や組織に歓迎されるはずです。しかし、bの場合、遺言執行者に不動産を売却する手続きの負担をかけることになります。遺言執行者に事前に相談しておくとよいでしょう。

2-3. 遺言書を作成する

不動産の遺贈寄付をするには、現金の寄付と同様に、法的に有効な遺言書を作成することが必要です。
遺言とは、自分が生涯をかけて築き、かつ守ってきた大切な財産を、最も有効・有意義に活用してもらうために行う、遺言者の意思表示です。 遺言書には、公証役場で書いてもらう「公正証書遺言」と、ご自分で書く「自筆証書遺言」の2種類がありますが、国境なき医師団では、法律的な不備が起こりにくいという観点から、公正証書遺言をおすすめしています。(→遺言書の種類ごとの特徴とメリット・デメリット)。

2-4. 遺言書の作成例

以下は遺言書の作成例です。遺言には厳格な方式が決められており、その方式に従わない遺言は全て無効になってしまうので注意が必要です。より詳しくは遺言書の書き方をご覧ください。

自筆証書遺言の場合
自筆証書遺言とは、遺言者が基本的に全て一人で自筆し、作成する遺言書です。
公正証書遺言の場合
公正証書遺言とは、遺言者が公証人の面前で遺言の内容を話して伝え、それに基づいて公証人が遺言者の真意を正確に文章にまとめ作成する遺言書です。公証役場で作成することが基本となり、遺言者の居住地に関係なく、全国どこの公証役場でも作成することが可能です。さらに、病気などにより移動が難しい場合には、遺言者のもとへ公証人に来てもらうこともできます(ただし、その場合は公証人の管轄内地域に限ります)。 どこの公証役場で作成するか決めたら、まず電話で連絡をしてみましょう。公正証書遺言の作成に当たって必要な書類なども教えてもらえるはずです。公証役場の連絡先は、日本公証人連合会のウェブサイト新規ウィンドウで開くに掲載されています。

3.国境なき医師団における不動産遺贈の方針について

国境なき医師団では、基本的に不動産の場合は遺言執行者に売却・換価してもらった上で遺贈いただくようお願いしています。(清算型遺贈)
しかし、遺言執行者による換価手続きが難しい場合は、換価性のある不動産に限り、遺贈をお受けしています。お受けした不動産については、名義変更を行った上で売却し、その換価代金を、命を救う活動資金として役立てさせていただきます。

4.国境なき医師団で遺贈をお受けすることが難しい不動産の例

ただし、以下の資産項目については、換価が困難または換価手続きの長期化が想定されるため、辞退させていただいています。

5.不動産の遺贈寄付を行う場合の税金について

土地や建物など、不動産を遺贈寄付する場合に特に注意しなければならないのは、「みなし譲渡課税」です。みなし譲渡課税とは、不動産の所有者が変わった時に、「売却したとみなして」譲渡所得税が課税される制度です。具体的には、寄付する不動産を取得した時点の価格よりも寄付した時点の価格のほうが上回った場合、その差額に対して課税される制度です。その支払い義務は、不動産を手放した側(売却したとみなされる側)に課せられます。以下で詳しく見ていきましょう。

5-1.遺言で不動産を遺贈寄付する場合

遺言書に「不動産を遺贈寄付する」と記載し、遺言者の死後に遺贈寄付が行われる場合、無償で譲ったにもかかわらず、「売却したとみなして」課税されます。しかし、寄付した人が亡くなっているため、その納税義務が法定相続人に受け継がれます。つまり、法定相続人から見ると、不動産を受け取れず、納税義務だけが課せられることになるので、負担感や理不尽さを感じる可能性があります。
遺言執行者が不動産を売却・換価して寄付する場合も、遺言者に課せられる納税義務が相続人に受け継がれるため、相続人が納税義務を負うことには変わりがありません。

5-2.生前に不動産を寄付する場合(参考)

生前に個人が団体などの法人へ不動産を寄付すると、「売却したとみなして」課税されます。無償で譲ったにもかかわらず、です。納税義務を負うのは寄付者自身で、確定申告を行い納税することになります。
そのため、どうしても不動産のまま寄付したいということでなければ、生前にご自身で不動産を売却し、売却代金から税金・諸経費などを差し引いて、現金として寄付することを検討してもよいかもしれません。

5-3.相続人の納税負担を回避するには

遺言書に「不動産を団体に遺贈する」として遺贈寄付を行うと、上記のように不動産を受け取らない相続人に重い税負担がかかるため、団体とのトラブルになりかねません。それを回避する方法として、「みなし譲渡所得税を誰に負担させるか」について、遺言書に書いておくことをおすすめします。

6.不動産遺贈における遺留分について

「遺留分」とは、配偶者、子、孫、親などの相続人に、最低限保障される遺産の取得分です。遺留分を侵害する遺言書でも法的には有効ですが、遺留分を侵害された相続人は遺留分減殺請求(遺留分を取り戻す請求)をすることができます。
トラブルを避けるためには、遺言書を作成する際に、遺留分を侵害しないよう留意することをおすすめします。

7.まとめ

不動産の遺贈寄付は、現金の遺贈寄付に比べて、さまざまなリスクを考慮する必要があることがお分かりいただけたのではないでしょうか。せっかく遺言書を作成しても、不動産を受け取ってもらえないということがないよう、また、遺贈寄付による税負担をめぐって、法定相続人と団体の間で望まないトラブルが起きることのないよう、不動産を遺贈寄付したいと思ったら、ぜひ早めに、寄付先候補の団体・組織や、相続関連の専門家に相談されることをおすすめします。

遺産からの寄付の方法や注意点などをご説明した資料をご用意しています。

パンフレットに掲載されている内容は以下の通りです。(一部)

  • 国境なき医師団とは?
  • 遺贈寄付までの流れ
  • 公正証書遺言とその作り方
  • 自筆証書遺言とその書き方
  • 遺贈Q&A

8.遺贈寄付に関するご相談

遺贈寄付の手続きは、誰にとってもはじめての体験。でも、相談できる人が身近にいない、という声も聞かれます。「国境なき医師団遺贈寄付ご相談窓口」には、幅広い知識と経験豊富な専任のスタッフがいます。遺言書の書き方から手続き上のことまで、遺贈のことなら何でも、お気軽にご相談ください。

お問い合わせ

国境なき医師団 遺贈寄付ご相談窓口

遺贈寄付専任スタッフがお手伝いします。

国境なき医師団には、幅広い知識と相談経験豊富な専任のスタッフがいます。
遺言書の書き方から、手続き上のことまで、遺贈のことなら何でも、お気軽にご相談ください。

監修者情報

三浦 美樹 司法書士 (一社)日本承継寄付協会新規ウィンドウで開く 代表理事 司法書士法人東京さくら新規ウィンドウで開く 代表

司法書士開業当初から、相続の専門家として多くの相続の支援を行う。誰もが最後の想いを残せる少額からの遺贈寄付にも力をいれている。

平成19年 司法書士試験合格
平成23年 チェスター司法書士事務所を開業
平成29年 さくら本郷司法書士事務所に名称変更
令和元年 一般社団法人承継寄付協会設立 代表理事就任
令和2年 司法書士法人東京さくらとして法人化