海外派遣スタッフ体験談

これまでで一番タフな環境に、現地の人のたくましさを実感

小島 毬奈

ポジション
助産師
派遣国
南スーダン
活動地域
ベンティウ
派遣期間
2017年5月~2017年9月

Q国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?

前回の地中海の活動を終えて、3ヵ月ほど休養をとりました。なぜ次の派遣に行くのか、と言えば、それが自分の今のライフスタイルだと思っているからです。

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか?どのような準備をしましたか?

いつも通り、東京都内の産科クリニックでアルバイトをしていました。友達と旅行に行ったりもしました。

Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか?どのような経験が役に立ちましたか?
赤ちゃんをお風呂に入れる筆者 赤ちゃんをお風呂に入れる筆者

初回と2回目の派遣で行ったパキスタンの活動と業務が似ており、その時の経験が役に立ちました。

運ばれてくる患者は重症も多く、1kgにも満たない新生児から意識不明の妊婦まで多岐にわたりました。たくさんの重症を産婦人科医がいない環境で診ていた経験があったので、できることをやる、と割り切っていましたし、あまり驚くこともありませんでした。

とはいえ、最終判断を下すのは自分です。誰かに頼りたいときはありましたが、産科を知っているのは私以外に誰もいません。そんな時は現地スタッフの経験を聞いたり、ネットで検索したりしました。

Q今回参加した海外派遣はどのようなプロジェクトですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
一緒に働いた外国人派遣スタッフの仲間 一緒に働いた外国人派遣スタッフの仲間

南スーダンのユニティー州にある外科手術のできる唯一の病院で、いろいろな症例が運ばれてきました。

外国人派遣スタッフ20人、(プロジェクト・コーディネーター、医療チームリーダー、病院マネジャー、外科医、麻酔科医、小児科医2人、内科医、看護師4人、助産師2人、ロジスティシャン3人、アドミニストレーター2人、)に加え、現地スタッフ300人という、とても大きいプロジェクトでした。

私は産科病棟のスーパーバイザーという立場で、病棟全体を把握し、現地スタッフのスーパーバイザー2人のサポートと指導をメインにしていました。24時間体制でオンコールでした。

現地スタッフのサポートに尽力 現地スタッフのサポートに尽力

現地スタッフは、ほぼ自立して働くことができる人が多かったので、できるだけサポートに徹し、重要な時以外には、基本的に自分は前に出ないようにしていました。外国人派遣スタッフがいなくてもできるように、現地スタッフに自信を持たせるためにそうしていたのですが、不満そうなスタッフもいました。

外国人派遣スタッフに依存している部分が多くあると感じ、方針がブレないように対応し続けたところ、最終的には私の考えをわかってくれるスタッフもいてうれしかったです。

現場には、いろいろな国からいろいろな性格、価値観を持った外国人派遣スタッフが半年ごとに入れ替わりやって来るので、考え方の違いはあると思いますが、今後もそれが続いていくよう、やれるだけのことをやりました。

南スーダンの人たちは、学ぶ気持ちは高いですが、教育水準が低いため、数字にはめっぽう弱いです。とにかく日々を生きているので、将来のことを考える、予定を立てる、先を見越して考える、計画を立てるという発想がありません。あればあるだけ使う、明日は明日の風が吹く的な考えがあり、何か1つのことを継続する、習慣化することはかなり困難でした。

たとえば在庫の管理などは簡単にして、すべて5個!!など、わかりやすいルールを決めて繰り返し繰り返し指導しましたが、それでも、成功率は半々です。

母体は高血圧、梅毒が多く見られました。新生児は敗血症、早産がメインでした。薬の供給も難しく、日本では簡単に手に入る薬がないために死んでしまう新生児が多い反面、保育器も酸素もなく未熟児が育っている奇跡的なケースもありました。

子どもの死亡ケースも多く、幼い子どもが危篤となり、心臓マッサージをする医師の横で泣き叫ぶ母親を見るのは、何度見ても、とても辛かったです。

ドメスティック・バイオレンスや性暴力の被害の件数も多く、皮膚がなくなるまでお尻を叩かれ続けた女性や悲惨な目にあっている人もいました。

Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか?また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?
同僚と過ごす貴重なリラックスタイム 同僚と過ごす貴重なリラックスタイム

月曜日から金曜日まで、8時からミーティングがあり、その後は病棟に行って回診をします。患者が多いと回診だけで2時間くらいかかることもありました。その後は必要な処置やデータ入力、発注などができているかを確認し、現地スーパーバイザーと勤務表をチェック、患者の状態をチェックしました。

また、ほかのNGOと会議をしたり、病棟が落ち着いていれば、レポートや現地スタッフの採用試験の準備などをしたり、他病棟にいる母乳支援が必要な人を見に行ったりしていました。

ハイリスクの患者や性暴力の被害者の対応などがあると、現地スタッフがいる病棟からトランシーバーで連絡があり、病棟に向かい対応していました。

各病棟が独立して働いていたので、外国人派遣スタッフはみんなそれぞれの時間でご飯を食べたていました。スタッフは1人1つテントがあてがわれていまいたが、勤務外の時間は1人になりたいと思っても、日中は暑くて蒸し風呂のようなテントにはいられず、とてもストレスがたまりました。

30分ほど離れた場所にもう1つ分娩を扱う施設があり、後任の助産師が決まらなかったため、2日おきに2つのプロジェクトを移動する生活スタイルでした。

Q現地での住居環境について教えてください。
日中、テント内は蒸し風呂のような暑さに 日中、テント内は蒸し風呂のような暑さに

これ以前に6回の活動を経験してきましたが、今までで一番タフな環境でした。テントの中はベッドと鍵のかかる鉄の箱のみ、というシンプルな環境でした。扇風機はありましたがドライヤー状態で、日中は蒸し風呂のように暑く、テント内にいることは不可能でした。冷房があるのは手術室と薬局のみで、日中は病棟内も暑く、目の前にあるやるべきことをやるだけで精一杯でした。

雨期に入る頃だったので、夕方に雨が降ったりすると、テント内に水が吹き込んできて、床は水浸しになることが多く、そのたびすごいテンションが下がりました。たまに、カエルが勝手に入っていたりして、見ないふりをして蚊帳の中で寝たりしました。

トイレはもちろんボットン便所、シャワーも水のみで、気温の下がる夜は凍えながらシャワーを浴びました。

オンコールで呼ばれて夜働いた次の日でも、暑すぎて昼間に仮眠をとることができず、ご飯もあまり口に合わなかったのでやせました。4ヵ月間体調を崩すことなく仕事を続けられた自分の心身のタフさ、母が丈夫な体に産んでくれたことに感謝しています。

Q活動中、印象に残っていることを教えてください。
さまざまな症例に出会い多くの学びに さまざまな症例に出会い多くの学びに

たくさんの症例を見たことや技術を得られたこと(腹腔外妊娠、破裂、双子、産科フィスチュラ、梅毒、新生児髄膜炎、ドメスティック・バイオレンスや性暴力被害のケアなど)は、本当に学びになりました。これはMSFの現場でいつも思います。

ここでは自宅出産が基本で、梅毒、性感染症からの早産・死産が多い反面、望まない妊娠からの中絶の希望も多く、婚外子は恥だからどうしても堕したい、と相談に来る女性が多かったです。助産師の仕事で関わるのは、「生まれる命だけじゃない」と痛感しました。

今回、本当に、何度も何度も帰りたいと思いました。住環境のタフさに加え、医療としてやれることも限られているし、現地スタッフに毎日毎日同じことを繰り返し指導しなければならない、指導してもやってくれないなど、難しいことばかりでした。必要なことを伝えるのは簡単ですが、なぜ必要かを伝えるのは難しい、国や文化が違うとなお難しい!と思いました。

私が「もう、帰りたーい!!」と思う一方、ここで生活している人たちは、この生活に終わりはありません。私は任期が終われば日本の普通の生活に戻ることができますが、現地スタッフはここでずっと暮らしていくと考えると、厳しい環境の中でも楽しみ方を知っている、彼らの心の豊かさとたくましさを感じ、自分なんかが泣き言を言ってはいけないなと思いました。

Q今後の展望は?

2014年から何度か派遣を繰り返してきましたが、3年半の間、自分がやってきたことを振り返り、今後自分が本当に何をやりたいかを考える時が来たなと思っています。

NGOで働く自分がどんなに最善を尽くしても、戦争が無くなったり難民が減ったりすることはありません。戦争があるかぎり、援助に終わりも見えません。砂漠に水をまいていると感じることも多いです。今回の派遣で精神的にも体力的にもかなり疲れたこともあり、次の派遣はどうしようか正直迷っていますが、よく考えたいと思います。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

大変なことも多いけど、貴重な体験ができることは確かです。日本人に足りないのは度胸と自信だと思います。MSFでは自分の意見をたくさん求められます。自分が思っていることを的確に相手に伝える訓練になりました。

そして、こういった環境で数年働いたことで、自分らしさ、たとえば自分は本当に何に興味があって、どうなりたいのかのヒントを見つける機会になりました。

せっかく日本という先進国に生まれて、読み書きが出来て、パスポートだって取得できるのに、島国に止まるのはもったいないし、日本人のすばらしい部分、仕事の質の高さと勤勉さをもっと世界に見せて欲しいです。

安定ばかりを考えて自分の本当にやりたいことを見失いそうなら、人生で一度くらいはチャレンジしてみると、新しい価値観と違った世界が見えるかもしれませんよ。経験が足りないから、すべてを完璧にしてから、なんて思っていたら、気づけば人生終わりに近かったりもします。応募を考えている「今」が、その時です。

MSF派遣履歴

  • 派遣期間:2016年11月~2017年2月
  • 派遣国:イタリア
  • 活動地域:シチリア島、地中海
  • ポジション: 助産師

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