「困っている人を助けたい」 戦禍の中、国境なき医師団で働くウクライナ人スタッフの思い

2022年06月12日

ウクライナで活動する国境なき医師団(MSF)には、世界各地からの外国人派遣スタッフと共に働く約470人のウクライナ人スタッフがいる(6月2日現在)。

その中には、暴力にさらされたり、家を失ったりした人たちも多い。先行きに不安を感じるスタッフもいる。それでも皆に共通しているのは、「困っている人を助けたい」という強い思いだ。ウクライナ人スタッフの声を伝える。

ここで働くことは、私にとって単なる仕事ではない

オクサーナ・ビヒウスカ(29歳)<br> 心のケアチームリーダー(在キーウ)<br> ウクライナ・フメリニツキー州出身
オクサーナ・ビヒウスカ(29歳)
心のケアチームリーダー(在キーウ)
ウクライナ・フメリニツキー州出身

オクサーナはジトーミルにあるMSFの結核プロジェクトでソーシャルワーカーとして3年間勤務。その後、4月上旬から緊急対応に当たっている。

「私にとってMSFで働くことは、単なる仕事ではありません。他では支援を受けられない本当に困っている人たちを助けることができ、私の人生に価値を与えてくれるものです。

私たちは戦争初期に占領された村の人たちの相談に乗るほか、行政機関や医療機関への連絡調整などの仕事をしています。多くの人が心に傷を負いました。相談者やご家族の悩みを聞いて必要な支援を始めるときに伝えていることがあります。

『いまは異常事態なので、ストレスや不安、不眠など、心や体に反応が起きてしまうのは正常なことですよ』と、相手に分かるように説明しています。それが理解されると、より深刻な心の病気の予防につながるのです。

MSFでの仕事は、心理療法士としての経験と、人間としての成長の両方をもたらしてくれます。経験豊富な同僚から学び、世界中から来た文化も異なる人たちにも会える。素晴らしいものです」

街が破壊され、自宅を失ったが——

ミコラ・ザカリウジヌイ(38歳)<br> キーウ勤務の運転手<br> ウクライナ・セベロドネツク出身 <br>
ミコラ・ザカリウジヌイ(38歳)
キーウ勤務の運転手
ウクライナ・セベロドネツク出身

「これまで私は、理学療法士やトレーナーとして、体の悩みを抱えている人のサポートをしてきました。いまは別の形で誰かの役に立てているので、この仕事を得たことに感謝しています。

戦争が始まった時、住んでいた街は攻撃され、逃げるしか道はありませんでした。街は破壊され、もう私の家はありません。

4月初旬にキーウに着き、運転手を募集しているというMSFの求人広告を見つけました。応募して、採用されたのです。同僚はとても気さくで、私の英語もうまくなってきています。

戦争に苦しめられている人たちの医療ニーズに応える組織の一員になれてうれしく思います」 

街を出るべきか、残るべきか……悩んで下した決断

オルハ・シュフチュク(25歳) <br> チェルニヒウ州を中心とした移動診療チームの心理療法士<br> ウクライナ・キーウ出身
オルハ・シュフチュク(25歳)
チェルニヒウ州を中心とした移動診療チームの心理療法士
ウクライナ・キーウ出身

「MSFの心理療法士になって満足しています。自分の好きなこと、得意なこと、そして運命的なものを感じる活動に携わっているのですから。

戦争が起こるまでは、私は博士課程の学生として論文を書きながら、心理療法士として働いていました。戦争が始まると、相談者は来なくなりました。お金が払えるか、脱出するか残るか、皆がどう判断してよいか分からなくなったからです。私自身も悩んでいました。自宅のある街は攻撃されている。ここを出て行くべきなのか、と。結局とどまることにしました。いまは、身近な人を助けることが大切だと思ったからです。

戦争のため、多くの人に心のケアが必要なことは誰の目にも明らかでしたから、学業を続けることには意義を見出せませんでした。そこで、学業を一時中断し、MSFに参加したのです。

こういう働き方が好きです。いつ、どこへ、誰と、どうやって、私たちの援助を最も必要としている人のところへたどり着くか、分かっている日もあれば、そうでない日もあります。常に人びとのニーズを追いかけています」
 

自分にできることが分かり、前向きになれた

イエゴル・ルサコウ(30歳)<br> チェルニヒウ州を中心とした移動診療チームでの通訳。<br> ウクライナ・ミコライウ出身
イエゴル・ルサコウ(30歳)
チェルニヒウ州を中心とした移動診療チームでの通訳。
ウクライナ・ミコライウ出身

「故郷のミコライウを発つ日は爆発の音に起こされました。窓から外を見ると、ビルが破壊され、周囲に粉塵が舞っていたのです。その日、30人以上の人が亡くなりました。何もかも恐ろしい有様でした。

はじめはミコライウでボランティアを始めようとしたのですが、自分の組織を作るのは大変です。その時友人の一人がMSFのことを教えてくれて、私にできることが分かり、前向きになれたんです。

移動診療で小さな村に行くと、さまざまな人に会えて、援助活動がどれだけ役に立っているか自分の目で確かめることができます。

MSFで働き始めて、団体の一員として助けを本当に必要としている人を助けられるようになったと感じています。私はさまざまな国から来た人と一緒に仕事をするのが好きです。皆がウクライナを助けたいと言ってくれるのはうれしい。この状況で良いことがあるとは想像もつきませんでした。ちょっとした奇跡です」

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