ガザ:戦闘の激化から半年──厳しい状況でも医療を届け続ける

2024年04月06日
ガザ南部・ナセル病院の手術室で術後の重傷乳児を診る中嶋優子(国境なき医師団日本会長・医師)=2023年11月20日 © MSF
ガザ南部・ナセル病院の手術室で術後の重傷乳児を診る中嶋優子(国境なき医師団日本会長・医師)=2023年11月20日 © MSF

2023年10月7日にパレスチナ・ガザ地区でイスラエルとハマスとの戦闘が激化して半年。悪化し続ける人道状況に対し、国境なき医師団(MSF)は膨大なニーズに最大限対応すべく医療を提供してきた。また、医療へのアクセスがますます困難になっているヨルダン川西岸地区でも援助活動を行っている。

どこでどのような活動を行ってきたのか、そしてスタッフの動きは──。ガザの活動の全体像を伝える。

ガザ地区の人道状況

空爆で破壊されたガザの街=10月10日 © Mohammed Baba
空爆で破壊されたガザの街=10月10日 © Mohammed Baba
絶え間ない攻撃が続き、保健当局によると昨年10月7日以降に3万2500人以上が死亡した。この半年間、食料も水も足りず、医療を受けることも難しい状況が続いている。
 
負傷者は7万5000人に上り、その多くが長期的な治療を必要とする重傷だ。妊娠中の女性が避難場所で出産するというケースも少なくない。また、多くの人びとが食料不足に苦しみ、質の悪い水を飲むことで病気になっている。
 
砲撃などによる被害や燃料不足で、医療施設の多くはもはや機能していない。部分的に機能している病院は、患者や避難者であふれている。
 
MSFはすべての紛争当事者に病院や医療スタッフを守るよう何度も訴えているが、医療への攻撃は止まず、10月7日以降、MSFのスタッフ5人の命が奪われた。

ガザ地区でのMSFの活動

ガザにおけるMSFの活動は、昨年10月以前の活動規模に比べると、また現在の膨大なニーズを考えると、限定的なものだといえる。この半年間、複数の病院が包囲され、退避要求が出されたことで、援助活動ができる場所は限られてきている。
 
そのような中でMSFは、外科手術の支援や、傷の処置、理学療法、産後ケア、基礎医療、予防接種、そして心のケアなどに取り組んでいる。
 
10月7日以降、MSFのスタッフ(外国人派遣スタッフと現地スタッフ)とMSFが支援するスタッフが、以下の病院で活動してきた。

ガザ北部

【アル・アウダ病院】
MSFスタッフとMSFが支援するスタッフが自発的に活動し、医療を提供している。
 
【シファ病院】
昨年10月10日に手術室を開設し、シファ病院での対応を拡大した。その後11月に退避を余儀なくされた。最後のスタッフが今年2月に退避。(現時点でMSFスタッフは不在)
 
【ガザ市のMSF診療所】
ガザ市に残ることを選んだMSFスタッフが、傷の処置を可能な限り行っている。
 
【インドネシア病院】
昨年10月に退避。(現時点でMSFスタッフは不在)

かつてガザ最大の病院であったシファ病院。破壊され機能していない=2024年4月 © MSF
かつてガザ最大の病院であったシファ病院。破壊され機能していない=2024年4月 © MSF

ガザ中部

【アル・アクサ病院】
スタッフは1月6日に退避したが、2月7日に戻って活動を再開。現地スタッフと外国人派遣スタッフが、整形外科手術や再建外科手術、傷の処置、理学療法、健康促進、心のケアなどを提供。(現時点でMSFの管理下で活動)
 
【シュハダ診療所】
傷の処置と、栄養失調のスクリーニング検査を行っている。(現時点でMSFの管理下で活動)

多くの負傷者が運ばれてくるアル・アクサ病院=2023年11月29日 © MSF
多くの負傷者が運ばれてくるアル・アクサ病院=2023年11月29日 © MSF

ガザ南部

【ナセル病院(ハンユニス)】
救急対応と、爆撃でやけどを負った患者などへの外科治療を行ってきたが、2月15日にスタッフは退避した。(現時点でMSFスタッフは不在)
 
【ヨーロッパ病院(ハンユニス)】
外科治療と傷の包帯交換を行ってきたが、治安の悪化により3月に活動を停止。(現時点でMSFスタッフは不在)
 
【インドネシア仮設病院(ラファ)】
包帯交換や理学療法など、負傷者の術後ケアを行っている。(現時点でMSFの管理下で活動)
 
【ナジャール病院】
手術と傷の処置を行ってきたが、3月末で活動を終了した。(現時点でMSFスタッフは不在)
 
【エミラティ産科病院(ラファ)】
現地スタッフと外国人派遣スタッフが、産後のケアや妊娠中の合併症の対応に当たっている。(現時点でMSFの管理下で活動)
 
【アル・シャボウラ診療所(ラファ)】
現地スタッフと外国人派遣スタッフが、一般診療、予防接種、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)、傷の包帯交換、心のケアを行っている。また、5歳未満の子どもと妊娠中・授乳中の女性の栄養失調のスクリーニング検査も行っている。(現時点でMSFの管理下で活動)

【マワシ地区の診療所2カ所(ラファ)】
一般診療、産前・産後ケア、心のケア、理学療法、傷の包帯交換、予防接種、5歳未満の子どもと妊娠中・授乳中の女性の栄養失調のスクリーニング検査を行っている。(現時点でMSFの管理下で活動)
 
【ベニスハイラ診療所】
イスラエル軍が12月1日に退避要求を出すまで、基礎的な医療、傷の包帯交換、心のケアを行ってきた。 (現時点でMSFスタッフは不在)
 
【水と衛生】
ラファのおよそ10カ所で、1日あたり計24万リットルの清潔な水を提供している。

患者が殺到するナセル病院で医療援助活動をするMSFのスタッフ=2023年12月12日 © MSF
患者が殺到するナセル病院で医療援助活動をするMSFのスタッフ=2023年12月12日 © MSF

(活動内容は2024年3月時点)

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このたびの緊急援助に必要な活動資金は、「緊急チーム」募金から充当します。

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