「私は売られ、結婚させられた」 ナイジェリア、避難民キャンプの女性たちの声──求められる医療と心のケア

2024年04月24日
望まない結婚をさせられ性暴力を受けたドゥーシマさん。学校に戻って勉強し、医師になりたいと話す © Kasia Strek/MSF
望まない結婚をさせられ性暴力を受けたドゥーシマさん。学校に戻って勉強し、医師になりたいと話す © Kasia Strek/MSF

気候変動と環境悪化によって、肥沃な土地が減りつつあるナイジェリア。2017年には、「ナイジェリアの穀倉地帯」として知られるベヌエ州において放牧を規制する法律が制定され、牧畜民の一部が州から出て行かざるを得なくなった。

こうした状況のなかで、牧畜民と農耕民の武力衝突が激化。国際移住機関(IOM)によると、ベヌエ州で家を追われた人びとは40万人近くに上る。その多くが避難民キャンプで暮らしている。

キャンプの生活環境は不安定で、とりわけ、女性に対する性暴力が深刻だ。この事態を受けて、国境なき医師団(MSF)は被害者たちへの医療援助と心のケアにあたっている。キャンプの女性たちが自らの体験を語ってくれた。

望まない結婚、そして妊娠

女子生徒のドゥーシマさんは、農作業をしていたある日、いきなり母と姉にバイクに乗せられた。そのバイクには、見知らぬ男たちが乗っていた。バイクはある村に向かった。

「その村に近づくにつれ、人びとが集まってきて、歓声を上げ、歌い始めました。これは結婚式だと気づきました」

家族に売られて結婚させられる──そのとき、彼女は絶望感から自殺を考えたという。

30歳ほど年上の男性との結婚式が終わったあと、ドゥーシマさんは小さな家に監禁された。彼女は逃げようとしたが、取り押さえられて殴られた。そして、監禁から3日後、夫となった男が家にやってきて、彼女をレイプした。ドゥーシマさんは家から再び脱出して、今度は逃走に成功した。

実家に帰ると、もはや家族はドゥーシマさんを受け入れなかった。
 
「母は、私と顔を合わせようとしませんでした。学校の制服から本まで、私の持ち物をすべて処分して燃やしていたのです」

MSFの施設で治療を受けたところ、妊娠していることが分かった。ドゥーシマさんは中絶することを決めた。

現在、ドゥーシマさんは、母親に燃やされた服の代わりを買うため、オレンジを売りながらお金を貯めている。今後は裁縫を習う予定だ。それでお金ができたら、教科書を買って学校に戻るつもりでいる。何としても学業を続けたい。「医者になって人の命を救いたいんです」と彼女は語った。

望まない結婚を強いられて逃走した、10代のドゥーシマさん © Kasia Strek/MSF
望まない結婚を強いられて逃走した、10代のドゥーシマさん © Kasia Strek/MSF

「金をやるから家に来い」 弱い立場の女性たちを狙う性暴力

「お金をあげるからキャンプの外にある家で会えないかと、知人の男性から言われたんです」
 
こう話すのは、避難民キャンプに住む6児の母イユアさんだ。わが子たちを食べさせるために、お金が必要だったイユアさんは、彼の申し出に応えるしかなかった。
 
「その家に着くと、セックスを求めてきたんです。私は断りました。でも、彼は力づくで──」
 
性暴力を受けたイユアさんは、その後、キャンプ内にあるMSFのクリニックで性暴力被害者のためのケアを受けた。

女性に対する性暴力の背景には貧困問題がある。さらには、男性優位社会の中に女性が置かれていること、女性にとって生計を図る手段が限られていること、暴力が蔓延していることなども重要な要素だ。MSFのデータによれば、性暴力の加害者は、もともと被害者と親しい関係にある者が多い。他方で、見知らぬ者から襲われることもある。加害者は、一般市民の場合もあれば、戦闘員の場合もある。
 
多くの女性が、一家の「大黒柱」として、食料や薪を求めてキャンプ場の外に出ざるを得ない。そこで性暴力の危険にさらされるのだ。

性暴力の被害を受けたイユアさん © Kasia Strek/MSF
性暴力の被害を受けたイユアさん © Kasia Strek/MSF

避難民の尊厳と人生を守る

ドゥーシマさんとイユアさんは、ベヌエ州のキャンプで性暴力を受けた無数の女性たちの2人にすぎない。予防策を打たなければ被害は増していくとMSFは警鐘を鳴らしている。

MSFのプロジェクト・コーディネーターを務めるレシット・エルシンは、次のように語る。
 
「社会環境の改善にこそフォーカスすべきです。避難民のなかでも、とりわけ女性は生計手段を選べないことが多い。その上、彼らを保護する仕組みも整備されていない。これでは、状況は何も改善されません」

「性暴力の被害を受けた人びとは、十分な医療と心のケアを受ける権利があります。被害を受けた女性たちは、安全な住居、緊急シェルター、法的支援、生活支援など、さまざまなことを必要としている。こうした人道ニーズに応え、キャンプ内で弱い立場にある人びとの安全を確保することこそ、性暴力を防いでいく鍵となります」

そして、エルシンはこう求めている。
 
「国内外を問わず、人道援助団体や開発支援団体は、ナイジェリア当局と連携して、こうした取り組みにあたっていくべきです。まず、ベヌエ州における性暴力被害者たちが医療と心のケアを無償で受けられるようにする。さらには、避難民たちが尊厳を取り戻して、自らの人生を自ら選んでいけるようにサポートしていくことが重要です」
 
※身元を保護するために仮名を使用しています。

避難民キャンプ内のMSF医療施設に用意されている性暴力被害者のための医薬品。望まない妊娠や性感染症に対するケアを行っている © Kasia Strek/MSF
避難民キャンプ内のMSF医療施設に用意されている性暴力被害者のための医薬品。望まない妊娠や性感染症に対するケアを行っている © Kasia Strek/MSF

MSFは2018年より、ベヌエ州で避難民支援の緊急対応に取り組んできた。診療の一環として、リプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する医療)や、性暴力の被害者に対する総合的ケアを行っている。2023年には、ベヌエ州において1700人以上の性暴力被害者を治療した。

これまで行ってきたMSFの援助活動では、家を追われた農耕民とキャンプ周辺の人びとが主たる支援対象だった。一方で、牧畜民たちが抱えている医療・人道上のニーズ、そして、彼らを襲う暴力の深刻さから、牧畜民への対策を強化することが求められている。

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