分娩室は貨物コンテナ!?「コンテナ・ビレッジ」で産声をあげる赤ちゃん

2018年08月30日

コンテナ・ビレッジで誕生した赤ちゃんコンテナ・ビレッジで誕生した赤ちゃん

産まれたばかりの赤ちゃんの声が響く。分娩室の外にある待合室も、慌しい雰囲気だ。妊娠中の女性がベンチに腰掛け、診療を待つ間も、周囲を多くの人が行きかっている。天井は高く、中は明るい。自然光が天窓から降り注いでいる———。

ケニアのモンバサ島南西部リコニ地区にある、国境なき医師団(MSF)が運営する仮設診療所での様子だ。貨物コンテナでつなぎあわせて機能を完備した手術室付きの仮設施設。人びとは、こう呼ぶ。「コンテナ・ビレッジ」と。 

コンテナ・ビレッジの様子コンテナ・ビレッジの様子

海辺の街でもあるリコニはMSFが医療活動を始めるまで、救急産科医療も新生児医療施設もなかった。フェリーで海峡を越えなければ、妊娠中の女性は産科診療を受けられなかった。だが渡航には時間がかかり、救急搬送といえども、母親と子どもは命を危険にさらした。

そこでMSFは2016年1月、リコニに新しい診療所を作るため、古い診療所の改修工事を開始。新しい診療所の開院まで診療を受けられるようにコンテナ・ビレッジを作った。
MSFはコンテナ・ビレッジ開院当初、毎月約300件の出産を助けた。だが、2017年6月、100日間に及び、看護師のストライキが全国で起きたため、ケニアでは多くの人が医療を受けられなくなった。そのため、コンテナ・ビレッジでの診療を必要とする人が増えた。

リコニからだけでなく、対岸の海辺からも多くの患者が訪れた。「遠くからコンテナ・ビレッジに来る患者もいたが、搬送中に瀕死の状態になってしまう人もいた。幸い、全員を助けることができましたが」と、当時リコニで働いていたMSFのキャロル・ムグン・産科チームリーダーは説明する。 

コンテナ・ビレッジの待合室の様子コンテナ・ビレッジの待合室の様子

ファトゥマ(仮名)さん(29)はある金曜の夜に、2時間かけて運ばれて来た。合併症のため、別の診療所から紹介されたのだ。病院に着いた時、お腹の中の赤ちゃんは既に亡くなっていた。入院から3日たっても、ファトゥマさんの過去の記憶はあいまいで、「着いたときはショック状態。息切れしていて、大量の血液を失っていました」とキャロルは振り返る。

子どもを失ったファトゥマさん。それだけではなく、二度と子どもを授かれなくなってしまった。だが、他にも3人の子どもがいるファトゥマさんは、「生きているだけでありがたい。他の子たちを育てられるのだから」。夫のサルムさん(仮名)もほっとしたという。

「コンテナ・ビレッジのことは、あの日が来るまで聞いたことがありませんでした。医師のみなさんには感謝しています。このことは、決して忘れません」 

コンテナ・ビレッジで産まれた赤ちゃんコンテナ・ビレッジで産まれた赤ちゃん

2017年に扱った分娩は約7900件。帝王切開は約1700件にのぼり、前年の5倍を上回った。コンテナ・ビレッジを稼動していた2年4ヵ月の間に、1万件以上の分娩に携わった。2017年7月には、約1000人の母親がコンテナ・ビレッジで出産するという新記録も生まれた。活動を終えるまでの間、仮設診療所は、お母さんたちにとって、安心して子どもを産める、天国のような場所となった。 

新しい病院で生まれたばかりの子どもを抱く母親ら新しい病院で生まれたばかりの子どもを抱く母親ら

今年5月、2年間の改修工事を経て、リコニの古い診療所は、新しくてより大きな病院に生まれ変わった。そこでMSFは、新たな診療をスタートした。

ベッド数は31床あり、診察室と、多くの患者に対応できる設備を備える。「分娩するお母さんたちにとって、より快適な環境となっている」とケニアでMSFのステファニー・ジャンドナート活動責任者は話す。

「MSFは、質の高い医療と救急診療を提供する責務を負っています。お母さんたちが、プロの救急産科診療を、より身近にしてもらえます」

現在、コンテナ・ビレッジでの診療は終え、機能の全てを新しい病院に移転した。多くの妊娠中の女性たちが一刻を争う中に、この診療所で命をとりとめたことに、誰もが満足している。 

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