世界で一番危険な国 「怖くて帰れない」不安を募らせる避難者たち

2018年09月06日


「まるで草原で野獣を狩るように、男たちが追い立ててきました。そして、その場にいた全員を銃で撃ち始め……。私は子どもたちを抱きかかえ、全力で走って逃げました。その記憶が頭から離れず、怖くて仕方ありません」エリザベスさんはこう振り返る。馬に乗った集団に地元の村が襲撃され、必死に逃れてきたという。

2017年12月から、武力衝突が激しさを増した中央アフリカ共和国(以下、中央アフリカ)北西部。対立しているのは、「革命と正義(RJ)」、「中央アフリカ解放国民運動(MNLC)」という2つの武装勢力だ。 

4人の子どもと共に集合避難所で生活するエリザベスさん4人の子どもと共に集合避難所で生活するエリザベスさん

住民への無差別攻撃も広がり、12月末からの数週間で約10万人が避難。そのうち6万人余りが北西部の町パウアへ身を寄せた。約2万人の人口はたちまち4倍に膨れ上がり、町内約30カ所に設けられた避難所はすぐ満員になった。エリザベスさんも、今年1月からパウアの町で避難生活を続けている。

「武装勢力がまだ近くにいるか、誰が森に潜んでいるか、何も分かりません。国連平和維持軍や国軍も、いつまでいてくれるか……。家に戻りたいけれど、畑も何もかも破壊されて、私に何が残っているでしょう?避難所で暮らし、薪を集めて売るのが唯一の生活手段です」 

一時帰宅者やNGOも標的に

間仕切りのない集団避難所内に100人以上が寝泊りしている間仕切りのない集団避難所内に100人以上が寝泊りしている

耕作と種まきの季節に入る6月半ばには戦闘が収束し、避難者たちは地元の村へ戻り始めたが、多くの人が不安な気持ちを抱えたままだ。これは一時的な静けさなのではないかと——。

避難所に逆戻りした人もいる。ベブエ村出身のノルベールさんは5月に地元へ帰還したが、間もなく武装勢力が新たに襲撃を仕掛け、住民2人を殺害。やむなく再避難した。

ベドゥラ村では、一時帰宅していた若い女性3人の遺体が茂みの中から発見された。マンゴーを収穫していたところを民兵に捕らえられ、殺害されたとみられる。

略奪や破壊の被害に遭ったMSF診療所略奪や破壊の被害に遭ったMSF診療所

集落の家屋は武装勢力による略奪や損壊の被害に遭っている。給水ポンプも意図的に破壊されていた。給水経路を絶ち、住民が戻って来ないようにするためだ。

国境なき医師団(MSF)が支援する診療所でも医療器材が損壊し、屋上の太陽光発電パネルや医薬品が略奪された。

MSFの医療施設やスタッフを標的にした事件は国内各地で相次いでおり、中央アフリカは人道援助スタッフにとって世界で最も危険な国となっている。 

難民に手を差し伸べる市民の善意

病気の子どもを連れ、チャドの
MSF診療所を訪れたソフィーさん病気の子どもを連れ、チャドの
MSF診療所を訪れたソフィーさん

今回の武力衝突で、国境を越えて隣国チャドに逃れた難民の数は2万9000人に上る。

「国には戻れません。ここでは無一文だけど、少なくとも安全です」。兄弟2人を目の前で殺されたソフィーさんはこう言い切る。中央アフリカの故郷ベバンギ村を離れ、現在はチャド南部ベダクサン村に滞在している。 

一般家庭に身を寄せる避難者もいる。難民の一家を自宅で受け入れているサミュエル・ネイクマンさんは、ざっくばらんに話してくれた。
「子どもがたくさんいて、お腹を空かせていました。だから、食べ物や石けん、衣類をあげたんです。寝泊りする場所が必要だというので、私たちの家に泊めています」

MSFは2006年から中央アフリカ北西部パウアで活動。情勢悪化に伴い、2018年初頭から清潔な水の供給や消毒のほか、予防接種会場の設置に取り組んだ。住民が帰還し始めた6月以降は、地域の保健医療施設の支援を再開。2018年1~7月の診療件数は約5万件に上った。

隣国チャドでは、ロゴン・オリエンタル州の難民や地元住民を対象とした小児医療拡充のため、緊急プログラムを開始。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、中央アフリカの情勢悪化の影響でチャド国民の15%が食糧難の状況にある。2018年2~6月の間にMSFが実施した移動診療は4200件余り。MSFは中央アフリカ国境に近いベカンとベゴネの2ヵ所で診療所を支援。ベカンでは5歳未満児を対象とした施設も立ち上げた。ここでは危篤状態の子どもの容体を安定させ、経過を観察しつつ、必要があればゴレの病院に患者を引き継いでいる。ベカンとベゴネの診療所における診療件数は合計8350件余りで、容体安定化施設へ受け入れた子どもは211人、ゴレの病院に引き継いだ数は319人に上る。 

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