エボラは遠い国の話ではない 日本の看護師がみた現場とは

2018年06月29日掲載

帰国後に現地の様子を離す畑井智行看護師帰国後に現地の様子を離す畑井智行看護師

「交通網の発達している世界の大都市はエボラにさらされるリスクがある。日本もそうだ。対岸の火事だと思わず、関心を持ち続けてほしい」。エボラ出血熱の集団感染が続くコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)で治療にあたった国境なき医師団の畑井智行看護師が帰国し、現地の様子を語った。

エボラ流行地へ2度目の派遣

コンゴ民主共和国コンゴ民主共和国

畑井看護師は6月上旬に派遣された。エボラ出血熱を巡っての海外派遣は、2014年のリベリア・モンロビアに続き4年ぶり2回目。

「最初の派遣で治療のための知見を得ていたので、不安はありませんでした」と振り返る。

コンゴは、5月8日に北西部で集団感染の宣言が出された。国境なき医師団(MSF)も、首都キンシャサから北東の街・ムバンダカやビコロにエボラ治療センターを設置。感染者及び感染が疑われる患者のケアや、患者と接触した人 の追跡調査などを担ってきた。

畑井看護師が向かったのはイティポという村。

「州都キンシャサから、飛行機やヘリコプターを4時間乗り継いでやっと着くような、ジャングルの中のある村です」(畑井看護師)。MSFはここに、感染または感染の疑いのある患者の治療を担うエボラ治療センターを設置した。

上空から撮影したジャングルの村・イティポ上空から撮影したジャングルの村・イティポ

畑井看護師は、マネジャーとして看護師の指導や安全管理を徹底した。現地スタッフがする採血の手順を確認したり、感染した患者さんが退院した部屋の掃除や、患者の嘔吐物の片付けが安全に行われているか、指導したりした。

防護服で業務にあたるスタッフと畑井看護師(右)防護服で業務にあたるスタッフと畑井看護師(右)

「エボラの治療をするときは、必ず防護服を身に着けます。二重の手袋に、ゴーグル姿で、中はサウナ並みに暑く、視野も狭くなる。慣れている人でも作業は難しいです」

防護服を着ると動きにくく、採血時に自分自身を注射針で刺したり、まごついて患者に負担をかけてしまったりしないように注意する必要がある。

「一つ一つの手順を慎重に、ゆっくりと取り組んでいきます。採血は必ず2~3人組でします。1人が採血を担当し、他の人が道具の受け渡しや手順などを確認するように、安全管理を徹底しました」

防護服を身に着けたスタッフら防護服を身に着けたスタッフら

生かされた過去の経験

驚いたのは、集団感染の宣言が出された直後から、地元政府をはじめ、WHOや他のNGO団体などが早期に現場に集結し、大規模に人や物を投入して活動していたことだったという。村のインフラは整備されておらず、電気も水もなかったが、援助に入る他の団体が発電したり、ペットボトルの水を調達したりしてくれたお陰で、畑井看護師もスムーズに医療援助に取り組めた。

「コンゴは、何度もエボラ感染を繰り返しています。過去の教訓や経験を生かし、多くの団体が早期に援助体制を整えたため、感染が極端に拡大しなかったとみています」

現地スタッフに防護服の着方を指導する畑井看護師(右)現地スタッフに防護服の着方を指導する畑井看護師(右)

歌って、踊って、退院を祝福

忘れられない患者がいる。幼い子どもがいる30代の男性だ。5月下旬に、エボラ感染者との接触が原因で発熱し、下痢などの症状を訴えた。最初は、地域の診療所を受診したが、エボラ感染の疑いがあったため、MSFの治療センターで隔離して治療を受けた。

男性は検査で陽性と判明したのち、ますます弱っていったが、治療を受けて、豆の煮物やキャッサバなどの食事も介助があれば食べられるまでに回復したという。畑井看護師はそんな男性の退院に立ち会った。

退院の時、男性はゆっくり歩き、少し笑顔を見せてくれたという。そして「本当に1度死んだと思った。その時、悪魔に会ったけれど、気づいたら生き返ることができた」と話し、感謝を述べたという。退院を一番に待ち望んでいたのは、男性の家族だった。

「父親は『MSFのお陰で息子が帰ってきた』と一番喜んでいました」

畑井看護師は、他のスタッフと共にアフリカで歌われている喜びの歌を歌って、退院を祝福した。

「アフリカの人たちは本当に陽気で、一緒に歌って踊って男性の退院を祝いました。こうして喜びを表現したいほどに、エボラに感染した患者や患者に関わる周囲の人たちは、みんな一度、死を覚悟したのだと思います。前回の派遣の時も、たくさんの退院に立ち会うことができました。今回もその場面に立ち会うことができて嬉しかった。この瞬間のために、僕はいつも援助の現場に駆けつけています」

エボラから生還した男性(中央)とその家族エボラから生還した男性(中央)とその家族

エボラは遠い国の話ではない

畑井看護師は日本で、エボラについて「どうせ遠いアフリカの話でしょ」と言われたという。

「コンゴの州都キンサシャは、欧州に飛行機の直行便があり、アクセスのある大都市は感染のリスクが常にあると思います。そこから派生して、いつ日本にエボラが入ってきてもおかしくない」

一方で、「エボラを必要以上に怖がらないで」とも呼びかける。

「エボラから生還した人を何人も見てきました。エボラは、対処方法を間違わずに早期に対応できれば治ります。治療に効果的な薬も分かっています。必要以上に怖がる必要はないです。すぐに治療などの対応を展開することこそが重要です」

現地でミッションにあたった畑井看護師(中央)とスタッフ現地でミッションにあたった畑井看護師(中央)とスタッフ