海外派遣スタッフ体験談

「決して諦めない」と覚悟を決め──初めての現場、たった一人の外科医として

2022年07月06日

佐久間 淳

職種
外科医
活動地
南スーダン
活動期間
2021年11月~2022年1月

小学校の卒業文集に書いたのは、「アフリカで働きたい」という夢。多様な文化の中で生活したいと考えてきた。その実現のため世界で必要とされる医師を目指し、外科医に。2021年から国境なき医師団に参加した。

想像を超える忙しさ 1日10件の手術も 

MSFが避難民キャンプで運営する病院 © MSF/Lauren King 
MSFが避難民キャンプで運営する病院 © MSF/Lauren King 
国境なき医師団(MSF)への初めての参加で派遣されたのは、「世界で最も新しい国」である南スーダンです。紛争から逃れた人たちが国内各地のキャンプでの生活を余儀なくされ、ユニティー州ベンティウの避難民キャンプには10万人を超える人びとが暮らしています。2021年には過去数十年で最大規模の洪水が起きたことから、避難民の数はさらに増えました。

このキャンプでMSFが運営する病院において、外科医として活動しました。子どもの熱傷、銃ややりによる損傷、帝王切開、先天奇形の赤ちゃん……、さまざまな症例の患者さんが運ばれますが、この病院の外科医は自分一人です。麻酔をして行う熱傷患者のガーゼ交換なども含めると、手術は1日で10件以上に上ることも。想像を超える忙しさでした。

診療内容が多岐にわたるので、幅広い技術と経験が求められます。例えば熱傷の治療では形成外科の技術が必要で、他にも整形外科、産婦人科、小児科、血管外科、泌尿器科、眼科などの領域もカバーする必要があり、自分の守備範囲を広くしないと患者さんのニーズに対応できないと痛感しました。
 
各分野の専門家の意見を聞きたい時は、それぞれの分野のMSFのスーパーバイザーと相談をすることができます。困った時は彼らに連絡を取りながら、患者さん一人一人、丁寧に対応することを心掛けました。
さまざまな国籍のスタッフと協力して進める © MSF
さまざまな国籍のスタッフと協力して進める © MSF

重度のやけどを負った少年が……

現地スタッフたちと行う病棟での回診(左が佐久間) © MSF
現地スタッフたちと行う病棟での回診(左が佐久間) © MSF
患者さんは子どもが多く、約50床の外科病棟の7~8割を占めていました。特に多いのが熱傷です。密集した避難民キャンプで煮炊きをしているので、手伝いをしている子どもが大やけどをするケースが多いのです。
 
倒れたかまどで大やけどを負い、緊急搬送された9歳の少年もその一人でした。目と口だけを残して顔中に熱傷を負い、入院は数カ月にも及びました。太ももから顔への植皮を何度も行うのですが、包帯がかゆいのか、「外してよ、外してよ」と何度も泣いて訴えます。9歳と言えば遊びたい盛り。病院から逃げ出そうとしたこともありました。18歳くらいのお姉さんが付き添っていましたが、彼女はもともと医療に対し不信を抱いているようでした。
 
そのような状況でしたが、何とか治療に前向きになってもらいたいと、スタッフと懸命に取り組みました。植皮手術を繰り返して皮膚が回復し、最後の段階で「よーし、包帯を外してみよう」と包帯を外した時のことは忘れられません。少年が満面の笑顔になり、医療不信を抱いていたお姉さんは「ここまでがんばってくれてありがとう」と喜んでくれて、本当に嬉しく思いました。

患者さんを笑顔で帰すまで

共に手術室で働いた仲間たちと © MSF
共に手術室で働いた仲間たちと © MSF
新生児の「鎖肛(さこう)」など、小児の難しい症例にも直面しました。肛門が閉じてしまっている先天性疾患で、放っておくと腸が破裂して命を落としてしまう場合もあります。生後1週間弱の赤ちゃんの手術であるため、非常に細かい技術を要求されます。
 
特に緊張したのが、鎖肛で嘔吐を繰り返している生後5日の新生児の人工肛門造設術を行った際です。麻酔の難度も手術の難度も高く、麻酔科と入念にシミュレーションして臨みました。無事に短時間で手術を終えることができ、皆で抱き合って喜びました。歌って踊って喜びを表現するスタッフもいて、日本では経験できないような感情の高まりがありました。
 
正直なところ、難しい手術を前に怖いと思うこともありました。それでも、「決して諦めてはいけない。ここには外科医は自分しかいないんだ」と心の中で鼓舞し、集中力を切らさないようにしてきました。
 
「患者さんを笑顔で家に帰す」ということが、私が常に立ち返る医療者としての原点です。この患者さんに笑顔で帰ってもらうためには、いま何をしなければならないのか? そう自分に問い続けました。

MSFの現場は自分にとっての甲子園

病棟の外に広がる空に目を奪われた © MSF
病棟の外に広がる空に目を奪われた © MSF
ある夜、全ての手術を終えて病棟へ戻った時のことです。術後の患者さんたちが落ち着いた様子でいるのを見て安心し、ふと窓の外を見ると満天の星空が広がっていました。その瞬間、「ずっと夢見ていた場所にいるんだな」ということを実感しました。高校球児が甲子園を目指すように、ミュージシャンが武道館を目指すように、自分にとってはMSFの現場が甲子園でした。今回、ずっと目指し続けて来た場所に立たせていただいたと思います。
 
緊張が続く初めての現場で何とかやり遂げられたのは、一緒に働いたスタッフのおかげです。
 
真夜中に緊急手術が入っても、「いますぐ準備するよ!」「何を用意したらいい?!」と積極的に動く現地スタッフのモチベーションの高さに感銘を受けました。彼らがMSFで仕事をしていることを誇りに思って働いていることが伝わってきました。また、私が疲れている時には何とかして休ませようとしてくれるのです。
 
各国から集まった海外派遣スタッフの存在も大きな支えになりました。休日にケーキを焼いてくれる人がいたり、宿舎で音楽をかけて楽しい時間を作ってくれる人がいたり……。国や文化、年齢、専門などが全く異なるスタッフが、互いに励まし合って難局を乗り越える。その一つ一つの経験が学びになりました。
 
今回は他の仲間たちから受け取ることばかりだったので、次は自分が他のスタッフを励ます存在になりたいと思います。また、良いチームづくりのためのコミュニケーションの取り方など、MSFの経験は日本の医療の現場でも生かせるはずです。今後、より研さんを積んで日本での医療と国際人道援助の相乗効果を生んでいきたいと考えています。

MSFに参加したいという思いを、妻と両親に時間をかけて伝えてきました。家族の理解と納得は重要だと思います。小学生と幼稚園児の3人の子どもたちには、折に触れてアフリカや国際協力の話をしています。

外科医向け募集説明会を開催

2022年8月17日(水)19:00~21:00
佐久間がスピーカーの一人として現場での活動を報告します。

説明会について詳しく見る

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