海外派遣スタッフ体験談

パスポートすらなかった自分が一念発起 感染症医としてできることがある

2022年02月16日

鵜川 竜也

職種
感染症専門医
活動地
パプアニューギニア
活動期間
2020年11月~2021年8月

患者さんを診る臨床と、顕微鏡で菌を見つける検査がつながることに魅力を感じ、感染症内科の道へ。今回、初めての派遣としてパプアニューギニアの結核治療プロジェクトに参加した。(写真:本人左)

キャリアに悩む中で出会った国境なき医師団

医師6年目を迎えた2018年、今後どのような方向で進んで行くべきかキャリアで悩んでいました。その頃に偶然、長崎大学熱帯医学研究所と国境なき医師団(MSF)が合同で開催する熱帯医学に関するワークショップがあり、軽い気持ちで参加しました。
 
ワークショップで知って驚いたのが、自分と同じ感染症内科の医師たちがMSFで活躍しているということです。それまでは、MSFと言えば外科医や救急医の方たちが紛争地で活動しているというイメージだったのですが、一気にくつがえりました。当時パスポートも持っておらず、海外経験は旅行も含めて全くありませんでしたが、「自分も海外で役に立てる医師になりたい」と次の目標を決めることができました。
 
2019年からは長崎大学感染症内科で勤務し、MSFの現場を経験している上司の元で働きました。海外での活動に理解がある職場で、私の派遣が決定した時はコロナで忙しい最中だったにも関わらず、快く送り出してもらいました。派遣が終わったいまは、同じ職場に戻って働いています。

差別の苦しみも抱える結核患者たち

MSFが運営するゲレフ結核診療所  © MSF
MSFが運営するゲレフ結核診療所  © MSF
派遣されたのは、パプアニューギニアの首都ポートモレスビーの結核治療プロジェクトです。パプアニューギニアは非常に結核患者が多く、世界保健機関(WHO)が発表する結核の高まん延国リストにも入っています。
 
MSFは2015年からポートモレスビーで結核プロジェクトを展開しており、MSFが運営するゲレフ結核診療所で診断から治療まで行うことができます。私はこの診療所の結核専門医として、薬剤耐性結核の患者さんの診療や、現地の医療スタッフのマネジメントを行いました。
 
薬剤耐性結核の患者さんは常時60人ほどいて、月1回診療所に来てもらい定期的に診察します。状態の悪化や薬剤の副作用が見られた場合は、その場で対応するほか、総合病院に紹介することもありました。
結核患者と話をするMSFのカウンセラー <br> © Sophie McNamara/MSF
結核患者と話をするMSFのカウンセラー 
© Sophie McNamara/MSF
結核にかかる患者さんは、ベースに低栄養があったり、HIVに感染していたりすることもありました。一つの家に非常に多くの人が住んでいて感染が広がるなど、貧困も結核が蔓延する背景の一つだと思われます。
 
日本だと結核は高齢者の病気というイメージが強いかもしれませんが、パプアニューギニアで結核患者が多いのは10代~30代の若年層です。そして、結核患者への差別が深刻でした。「結核に感染していることが周りに知られると、仕事をクビになってしまう」「家族からも追い出されてしまう」という話を聞きました。
 
このような状況に対し、MSFにはヘルスプロモーターやカウンセリングのチームがあり、結核を地域で正しく理解してもらうための啓発活動や、結核に感染した人へのサポートを行っています。診療所の中と外、両輪で活動しているのがMSFならではだと感じました。

患者さんと回復を喜び合う

結核の治療では患者さんを毎月定期的に診る <br> © MSF
結核の治療では患者さんを毎月定期的に診る 
© MSF
結核の治療には定期的な通院が不可欠ですが、1年半に及ぶ治療の途中で、患者さんが来なくなってしまうケースがたびたびありました。通院のためのバス代が払えない、付き添う家族がいなくて来られないといった、日本とは全く異なる事情があるのです。医師としては直接対処できない問題で、もどかしく感じたことも少なくありません。
 
一方で、はじめは痩せていた患者さんが治療を始めるとどんどん体重が増え、翌月には別人のようになるまで回復し、驚いたこともありました。この診療所では胸部レントゲンでの検査などができないので、体重の増加は回復を示す大きな目安になります。体重が増えた時は、患者さんと一緒に治療がうまくいっていることを喜び合いました。
 
パプアニューギニアでは治療薬が不足してしまう病院もあると聞きましたが、MSFでは常に安定して患者さんに薬を届けることができました。結核治療は長期にわたって薬の投与を続ける必要があるので、薬を切らす心配をせずに治療ができるのはとても重要なことです。これは多くの方の支援があるおかげだと感謝しています。

同じ目標に向かって

共に働いた仲間たち 週末には外へ食事に行くことも © MSF
共に働いた仲間たち 週末には外へ食事に行くことも © MSF
現地スタッフのマネジメントにおいては、英語の壁もあって思うようにディスカッションができなかったりと、せっかく来たのに役に立てていないのではないかと感じたこともありました。
 
しかし最後には、「タツヤはいつも丁寧にプロフェッショナルな仕事をしてくれた」「仕事を超えた仲間だ」と自分をポジティブにとらえてくれていたことを知り安心しました。素晴らしい同僚たちと同じ目標に向かって仕事をすることができ、本当にいい経験をすることができたと感じています。

初めての派遣で心配だったこともあり、ドライヤーや長靴など余計な荷物をたくさん持って行ってしまいました。現場では日本でも着ている速乾性の医療用スクラブが便利で、9カ月の派遣中、持参した2着をヘビーローテーションしていました。

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