遺贈とは? 相続・贈与との違い、手続きについて解説

更新日:2023年11月7日
監修者:三浦美樹 司法書士(日本承継寄付協会 代表理事)

「遺贈」とは、故人の「遺言」によって遺産の一部または全てを無償で譲ることを指します。相続との違いは、遺言書によって、相続人や特定の個人以外にも遺産を受け継がせることができるという点です。
本記事では、「遺贈」とはどんな制度? なぜ、注目されているの? 誰が利用できて、どんなことができるの? 相続や贈与との違いは?といったテーマについて詳しく解説を行います。

目次

  1. 1.
  2. 2.
  3. 3.
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遺産からの寄付の方法や注意点などをご説明した資料をご用意しています。

パンフレットに掲載されている内容は以下の通りです。(一部)

  • 国境なき医師団とは?
  • 遺贈寄付までの流れ
  • 公正証書遺言とその作り方
  • 自筆証書遺言とその書き方
  • 遺贈Q&A

1.遺贈とは

遺贈とは、「遺言」によって遺産の一部または全てを相続人以外の人や団体に無償で譲ることをいいます。
そのうち、特に社会貢献活動に役立てることなどを目的に、公益法人、NPO法人、学校法人、国立大学法人、その他の団体や機関などへの「寄付」として行われるものは「遺贈寄付」と呼ばれ、ご自分の想いを未来に託す新しい寄付のかたちです。

遺言書において、例えば、一部または全ての財産の受取人として国境なき医師団日本を指定することで、医療・人道援助を通じた命を救う活動に遺産を役立てていただくことができます。

関連する法律は、民法の第960条から第1027条に定められた遺言に関する法律です。
そもそも遺言とは、
「人が自分の死後、その効力を発生させる目的で、あらかじめ書き残しておく意思表示」を意味します。

なお、遺言が法律上の効力を生じるためには,民法の定める一定の方式に従ってなされることが必要です(民法第960条)。つまり、自分の死後に、自分の想いを込めた遺贈を実現させるためには、法的に有効な遺言書をご自身で作成する必要があります。口伝えや、エンディングノートなどは、法的な意味での遺言にはなりません。

そして、民法第964条の「遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる」に基づいて、生前にご自分の意思を遺言書にすることによって、法律で定められた相続人以外の人へ、その財産を譲ること。それを、「遺贈」といいます。

なお、財産を受け継ぐ人を受遺者といい、人でも法人(企業や団体)でも受遺者になることができます。

遺贈とは

2.相続など類似用語と遺贈の違い

死後に財産を誰かに譲る、というと、まず「相続」という言葉が思い浮かびますね。また、「死因贈与」という言葉をご存じの方もいらっしゃるでしょう。それぞれ少しずつ意味が違い、関連する手続きや税制度も違ってきます。順番にご説明します。

相続と遺贈の違い

相続と遺贈の一番の違いは、亡くなった方(被相続人といいます)の財産を受け継ぐ人の違いです。
「相続」は、法律で定められた人が、被相続人の財産を受け継ぐことを意味します。
「遺贈」は、被相続人の定めた人が、その財産を受け継ぐことを意味します。

相続が民法の定めに従って遺産を受け継がせるのに対して、遺贈は、自分の遺産を受け継ぐ人や財産の配分をご自分で決めて、そのように受け継がせる制度です。相続とは、配偶者・お子さん・親御さんやご兄弟など、法律によって定められた人(法定相続人)が、被相続人の財産を受け継ぐことをいい(民法882条以下)、財産には負の財産(いわゆる借金)も含まれます。
相続では、法定相続人の遺産分割協議によって、誰がどの財産をどれだけ相続するかを決めますが、被相続人が遺言書を作成することによって、相続人それぞれに相続させる割合をご自分で定めることもできます。一方で、遺贈には遺言書が必須となります。

死因贈与と遺贈の違い

贈与する人の死亡によって贈与の効力が発生するものを、死因贈与といいます(民法第554条)。被相続人が亡くなった後に、財産が引き継がれるところは相続や遺贈と似ています。ただし、死因贈与は財産を譲られる人との間に「契約」の形で合意が必要であるのに対して、遺贈は財産を譲られる人との合意を必要としない、単独行為(ひとりの意思によって成立する行為)です。
だからこそ、遺贈には、遺贈の受取人(受遺者)として遺言書で指定された人が、遺贈を放棄することも可能になっています(後ほどご説明します)。

3.遺贈の種類 ~特定遺贈と包括遺贈~

前述した民法第964条の「遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる」に示されているように、遺贈には「特定遺贈」と「包括遺贈」の2種類があります。

特定遺贈とは

「特定遺贈」とは、遺贈する財産を金額や項目として、具体的に指定する方法です。
遺言書上では、例えば「現金100万円を団体Aに」や「自宅不動産をBさんに」、「OO証券会社の有価証券をC大学に」、「OO銀行の普通口座の預金をDさんに」というような表現になります。
遺贈する財産が明確に指定されているので、マイナスの資産(負債など)を含め、指定された以外の財産が引き継がれることはありません。

包括遺贈とは

「包括遺贈」とは、財産の例えば割合のみを指定する方法です。遺言書上では、例えば「私の全財産をAさんへ」、「私の資産を団体Bと団体Cに2分の1ずつ」、「私の全資産の30%をDさんに、残りを……」というような表現になります。包括遺贈を受け取る人(受遺者)は、相続人と同一の権利と義務を持つので、負債などマイナスの資産も引き継がれることになります。被相続人が第三者の債務の保証人になっていた場合は、保証人としての責任も引き継がれますので、注意が必要です。

国境なき医師団は、遺贈寄付として基本的に特定遺贈をお受けしていますが、一定の条件のもとで包括遺贈もお受けしています。詳しくは「遺贈寄付ご相談窓口」にご相談ください。

4.遺贈寄付までの流れ

遺贈寄付を通して、ご自分の想いを未来で実現させるためには、遺言書に明確に記載していただく必要があります。
遺贈寄付の実現までの6つのステップを、順にご説明します。

  1. 1.
    相談と決定 どの財産をどこに遺贈したいかをお決めください。
    ご検討の際に、分からないことや相談したいことがありましたら、国境なき医師団の遺贈寄付ご相談窓口にいつでもお問い合わせください。
  2. 2.
    遺言書の作成 遺言書に従って遺言を実現してくれる遺言執行者を指定します。
    専門家に相談し、法的に有効な遺言書を作成してください。
  3. 3.
    遺言書の保管 保管の方法は遺言書の種類(公正証書遺言、自筆証書遺言)によって異なります。万一の場合には遺言執行者へ連絡がいくよう、信頼のおける方に頼んでおきましょう。
  4. 4.
    ご逝去の通知 遺言執行者にご逝去のお知らせが届くことで、遺言執行者は遺言の執行を開始することができます。
  5. 5.
    遺言の執行 遺言執行者から国境なき医師団へ、遺言執行者に就任した旨の通知とともに遺言書の写しが送られます。
  6. 6.
    遺贈寄付の実現 遺言に基づいて、遺贈寄付を謹んでお受けいたします。遺言執行者へ領収書と、ご要望により感謝状をお送りいたします。

5.遺贈寄付のメリット

相続では、法定相続人にしか財産を引き継ぐことはできませんが、遺贈では、遺産を譲りたい人を自分で選んで、譲ることができます。自分の財産の行き先を自分で決めることができる点が、まず最大のメリットです。
また、遺贈寄付は、遺産が少額でも未来に夢を託す、あるいは社会貢献することができる制度。例えば、若いときにやりたかったこと、こういう世界になってほしいといった夢を、未来を生きる人びとに託すことができる寄付である点も、魅力的な特徴と言えるでしょう。
さらに、相続される人の思いややさしさを、未来の世代に受け継ぐことのできる、人生の集大成としての寄付である点もポイント。
生前の財産には影響しないので、残りの人生にどれくらいお金がかかるか、などの心配をする必要がないところも安心です。
加えて、国境なき医師団などの法人に遺贈された財産は、相続人の相続税の控除対象として扱うことができるので、その全額が相続税の対象から外れることも覚えておいてください。

6.遺贈寄付のデメリット

遺贈寄付のデメリットは、法定相続人に引き継がれる財産が少なくなることです。相続人の理解が得られない場合や、特に「遺留分」(次項で説明)の侵害があった場合は、トラブルになることがあります。
法定相続人から「遺留分侵害額請求」がされた場合は、相続人に対して、遺贈された財産から遺留分が金銭で戻されます。

7.遺留分侵害額請求を防ぐには

民法では、遺言の内容にかかわらず、法定相続人のうち、配偶者や子ども(条件付きで孫)または父母には、「遺留分」として一定の割合の財産を相続する権利があると定めています。最低限保障される遺産の取得分である遺留分の割合は、遺留分権利者の人数や被相続人との関係性によって異なります。

遺留分はあくまでも権利なので、遺留分を侵害する遺言書でも法的には有効です。ただし、遺留分を侵害された相続人は遺留分侵害額請求(遺留分を取り戻す請求)をすることができます。トラブルを避けるためには、遺言書を作成する際に、遺留分を侵害しないよう留意されることをおすすめします。また、遺言書の付言事項に、遺贈を選ばれた理由やお気持ちを記していただくのもよいでしょう。そのような記述があると、相続人に納得してもらいやすいでしょう。

遺留分権利者に遺留分相当額を相続させる

このようなことから、遺言書を準備される際には、遺留分権利者ともご相談の上、遺留分の侵害が起こらないようにその相当額を遺留分権利者に残す遺言書を作成されることをおすすめします。前述のように、遺留分の割合は遺留分権利者の人数や被相続人との関係性によって異なり、遺留分の金額も変わりますので、事前に専門家に相談されるのもよいでしょう。

8.遺贈にかかる税金

相続税

遺産相続が発生した時には、相続税が発生します。相続税は相続または遺贈によって財産を取得した"個人"に課せられる税で、法人は原則として課税されません。
つまり、 遺贈寄付の受遺者が法人であった場合は、原則として相続税がかからないということです。

不動産取得税・登録免許税

財産を遺贈した時には相続税が発生しますが、不動産を遺贈した時には、相続税とは別に不動産取得税がかかります。
また、不動産の取得にともなって名義変更をした場合は、登録免許税もかかります。

9.遺贈放棄の方法

遺贈の受取人(受遺者)として遺言書で指定された人が、遺贈を放棄することも可能です。その際、特定遺贈と包括遺贈では、放棄の方法が異なるのでご注意ください。また、いずれの場合も、ひとたび遺贈を承諾すると、意思表示の撤回はできません。

特定遺贈の放棄方法

特定遺贈の受遺者は、原則として、遺言者(遺贈する人)の死後いつでも、遺言者の死亡時までさかのぼって、遺贈の一部または全部を放棄することができます(民法第986条)。
特定遺贈を放棄したいときは、遺言執行者や他の相続人に対して意思表示をすれば、特定遺贈を放棄することができます。意思表示をしたことが記録として残るように、文書にして内容証明郵便で送るとよいでしょう。

包括遺贈の放棄方法

包括遺贈を放棄する場合は、相続が開始されたことを知ったときから3カ月以内に、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して遺贈放棄の申述書を提出しなければなりません(民法第915条、第938条)。その理由は、包括遺贈の受遺者は、相続人と同一の権利と義務を持つとされるためです。ただし、遺贈放棄の申述書の提出期限は、家庭裁判所に申請し延長することが可能です。また、包括遺贈の場合、遺贈の一部だけを放棄することはできません。

10.遺贈に関して知っておきたいこと

ここまでご説明してきたように、遺贈には、人生を通して築いてきた大切な財産を、誰に受け継がせるかを自分の意思で決定し、遺言を通して、想いを未来に伝えられるというメリットがあります。一方で、財産の何を、どのような形で遺贈するかによって、関連する法律や、税金にさまざまな違いがあり、注意が必要です。
大切な想いを、確実に実現するためには、早めに準備を始めることはもちろん、遺贈に関する知識や経験豊富な専門家に相談されることをおすすめします。

遺贈をはじめて検討される方向けに、ウェブページを以下にご紹介します。よろしければ参考になさってください。

11.遺贈寄付に関するご相談

遺贈寄付の手続きは、誰にとってもはじめての体験。でも、相談できる人が身近にいない、という声も聞かれます。「国境なき医師団遺贈寄付ご相談窓口」には、幅広い知識と経験豊富な専任のスタッフがいます。遺言書の書き方から手続き上のことまで、遺贈のことなら何でも、お気軽にご相談ください。

主なご相談例

お問い合わせ

国境なき医師団 遺贈寄付ご相談窓口

遺贈寄付専任スタッフがお手伝いします。

国境なき医師団には、幅広い知識と相談経験豊富な専任のスタッフがいます。
遺言書の書き方から、手続き上のことまで、遺贈のことなら何でも、お気軽にご相談ください。

遺産からの寄付の方法や注意点などをご説明した資料をご用意しています。

パンフレットに掲載されている内容は以下の通りです。(一部)

  • 国境なき医師団とは?
  • 遺贈寄付までの流れ
  • 公正証書遺言とその作り方
  • 自筆証書遺言とその書き方
  • 遺贈Q&A

監修者情報

三浦 美樹 司法書士 (一社)日本承継寄付協会新規ウィンドウで開く 代表理事 司法書士法人東京さくら新規ウィンドウで開く 代表

司法書士開業当初から、相続の専門家として多くの相続の支援を行う。誰もが最後の想いを残せる少額からの遺贈寄付にも力をいれている。

平成19年 司法書士試験合格
平成23年 チェスター司法書士事務所を開業
平成29年 さくら本郷司法書士事務所に名称変更
令和元年 一般社団法人承継寄付協会設立 代表理事就任
令和2年 司法書士法人東京さくらとして法人化

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