海外派遣スタッフ体験談

80人を超えるチームのリーダー ゼロから学び続けたフランス語で挑んだ 

2022年10月31日

丸井 和子

職種
ロジスティシャン(ジェネラル・ロジスティシャン)
活動地
ハイチ
活動期間
2022年2月~8月

物資調達や施設の管理などを担うロジスティシャンとして、2018年から国境なき医師団(MSF)に参加。多くの国で援助に貢献できるよう英語だけでなくフランス語の勉強も続け、5カ国目の派遣で初めてフランス語で仕事を行った。

プラスチックの椅子が1脚100ドル?

外傷とやけどの患者を受け入れるタバル病院<br> =2021年10月 © Pierre Fromentin/MSF
外傷とやけどの患者を受け入れるタバル病院
=2021年10月 © Pierre Fromentin/MSF
今回活動したのは、中米の島国ハイチ。私はロジスティックチームのリーダーとして、首都ポルトープランス近郊に位置するタバル病院のプロジェクトに派遣されました。
 
首都ではギャングによる武力抗争が激化しており、外傷とやけどを扱うタバル病院には、銃撃の負傷者をはじめ日々多くの患者さんが運ばれてきました。スタッフの数も多く、物資の調達や病院のメンテナンス、宿舎の管理、警備など、ロジスティック関係のスタッフだけで80~90人に上ります。私はこのスタッフを統括する役割を担いました。

さまざまな業務の中でも、特に大変だったことの一つが物資調達です。島国であるハイチではほとんどの物が海を越えて輸入されるため、どうしても費用がかかります。さらに武力抗争の激化により治安が悪化し、物資や燃料の供給に大きな支障が出ているのです。プラスチックの椅子で長持ちしそうなものを探すと1脚100ドル、スチールの収納棚も1本で数百ドルと、リストを見ながら頭を抱えました。 

燃料の不足は、医療活動に大きな打撃を与えます。発電機の燃料が底を尽きてしまったら、病院が稼働しなくなってしまうからです。実際に昨年は燃料不足のため、医療活動が一時縮小に追い込まれました。いまは太陽光発電のパネルも使って、燃料の使用を抑えています。車のガソリンも使う量を減らせるよう、スタッフはできるだけ車に一緒に乗って移動回数を減らすなどの努力を重ねました。
 
治安の悪化はかなり深刻で、治療後に通院が必要でも危険のため来院が難しい患者さんや、通勤が難しいスタッフもいました。燃料不足やデモで公共交通機関が機能せず、病院に来られなくなるケースもありました。そのため、患者さんやスタッフのために一時的な滞在場所を確保する作業もチームで行いました。
病院を動かし続けるために燃料の確保は重要だ<br> =2021年10月 © Pierre Fromentin/MSF
病院を動かし続けるために燃料の確保は重要だ
=2021年10月 © Pierre Fromentin/MSF

コミュニケーションを支える毎朝の日課

一緒に働いた仲間たちと © MSF
一緒に働いた仲間たちと © MSF
日本では朝が苦手な私ですが、ハイチでは5時には起きていました。宿舎で朝食を食べ、6時半に来る車に乗って病院に向かいます。現地スタッフが出勤してくる7時半ごろ、病院の敷地をぐるっと一周歩くのが私の日課でした。
 
80人以上のチームメンバーと、毎日ミーティングをすることはできません。でも病院の敷地を歩くことで、警備のスタッフ、病院の水や電気を管理しているスタッフなど、多くの仲間と言葉を交わすことができます。

「おはよう!何か変わったことはない?」という何気ない会話から、安全管理に必要な治安の情報を得ることができたり、設備の不具合などの問題に早めに気づくことができたりするのです。
 
暴力が深刻なハイチでは、身近な人が銃撃に巻き込まれて亡くなったというスタッフもいます。つらい気持ちを抱えたまま仕事をしているかもしれないと認識し、スタッフの心の変化に気づけるよう心掛けました。

約10年、ゼロから学び続けたフランス語

使った参考書は30冊近くに上る © MSF
使った参考書は30冊近くに上る © MSF
今回活動したハイチは、フランス語が公用語の国。MSFのプロジェクトもフランス語で行われます。他にもMSFが活動する国でフランス語が公用語の国は多くあり、フランス語ができると参加できる活動の幅が大きく広がるのです。
 
国際協力の仕事をしようと決めた10数年前、英語だけではなくもう一つできたらいいな、という考えからフランス語を勉強し始めました。西アフリカの国々など、援助のニーズは多いのに、語学ができないために活動できないのは残念だと思ったからです。
 
私は大学でフランス語を専攻していたわけでもなく、ゼロからのスタートでした。基礎の基礎レベルの参考書を買って、ABCの読み方から勉強。これまでに使った参考書は30冊近くになるでしょうか。中にはボロボロになるまで使い込んだものもあります。週1回、教室にも通いました。

チャレンジの機会にあふれているMSF

宿舎の猫が、疲れた日の癒しに © MSF
宿舎の猫が、疲れた日の癒しに © MSF
そして今年、意を決してMSFのフランス語の試験を受け、無事に合格。しかしハイチに派遣されてからは緊張の連続です。これまで数か国で英語で活動してきたので仕事の内容自体は分かるのですが、とりわけ会議では理解できないこともありました。

そのため、会議の前には発言したいことのメモを作るなど入念な準備をし、終わった後には分からなかったことを必ず誰かに聞くようにしていました。自分で決めて来たのだから、必死で何とかしなければ──と奮い立たせながら。 
 
そんな時、同僚が「大丈夫、大丈夫、私も最初はできなかったんだよ」と支えてくれたのは大きな励みになりました。MSFでは全員が英語やフランス語のネイティブスピーカーというわけではありません。そのため、皆が理解できるよう気遣う文化があります。
 
そして、ハイチで仕事を始めて3カ月半ほど経ったある日のこと。「あれ? 皆が話していることが分かる」と、急にスイッチが入ったようにフランス語が理解できるようになったのです。おそらく、会話のパターンが一通り頭に入ったのでしょう。そのまま、約半年間最後までフランス語で活動することができました。
 
今回、フランス語での仕事という新しいチャレンジができたことに感謝しています。挑戦できる機会にあふれていることが、MSFで仕事をすることの魅力の一つではないでしょうか。
 

食事中の早いテンポの会話についていけなかったりと、当初はフランス語が理解できず辛くなることも。そんな日の夜は、宿舎にいる猫に「今日も大変だったねえ」と日本語で話しかけていました。

ロジスティシャンとしてMSFで活動したい方は……
主な業務内容、応募条件など、
詳しくは『ロジスティシャン』のページへ!

ロジスティシャンのページを見る

海外派遣スタッフ体験談一覧を見る

この記事のタグ

関連記事

職種から体験談を探す

医療の職種

非医療の職種

プロジェクト管理の職種

活動地から体験談を探す

国・地域