海外派遣スタッフ体験談

英語教師、事務局、人道援助の現場を経て 大手監査法人へ。全ての経験が糧に

2018年06月28日

森川 光世

職種
アドミニストレーター
活動地
スーダン、イエメンなど
活動期間
2009年~

国境なき医師団(MSF)の財務コーディネーター、森川光世の経歴はユニークだ。教員から転身し、MSF事務局と活動地を経て、現在は大手監査法人の米国公認会計士として活躍する。その時々の目標や課題に応じたスキルを身につけ、しなやかにキャリアを重ねてきた。「履歴書からは分かりにくいですが、自分の中ではストーリーがつながっているんです」とほほえむ。

参加のきっかけ 中高一貫校の教師から国際援助の世界へ

中高一貫校で英語教諭として働いていました。英語は国際理解のツールですから、環境問題や飢餓など世界の現実を生徒に理解してもらうために、大使館やNGOから資料を取り寄せたり、NGOの現場で働いている人の講演会を開いたりしていました。それが縁でこの世界を知り、関わりたいと思うようになりました。
 
4年勤めた学校を辞めて日本でNGOマネジメント講座を受けた後、語学留学のためフランスへ。帰国後、さまざまなNGO団体の情報を収集するなか、最もプロフェッショナル意識が高いと感じたのがMSFでした。日本事務局ファンドレイジング部で募集があり、寄付者対応の担当として働き始めました。
 
寄付者の問い合わせに的確に答えるため、活動ニュースを読み込み、海外派遣スタッフに話を聞いて勉強しました。支援者と活動地をつなぐ仕事には誇りを感じていましたが、もっと説得力のある説明ができるよう、現地に行きたいと考えるようになったんです。
 
専門知識を得るため米国公認会計士(USCPA)を目指して勉強しました(※)。結果は不合格でしたが、MSFへの理解や1年間の学習成果が認められ、財務コーディネーターとしてスーダンのコーディネーション・チームで働けることになりました。
 
※アドミニストレーターは主に財務業務を担うため、会計士の資格は応募の必須条件ではありません。

活動内容とやりがい 寝食をともにする仲間とは家族のような関係

初回派遣地のスーダン、ダルフールで
初回派遣地のスーダン、ダルフールで
首都での生活と聞いていましたが、実際に行ってみるとダルフールの砂漠!生活環境は厳しかったですが、念願の初参加だったので喜びが勝りました。
 
財務担当は、予算や決済などお金に関する業務全般をします。簿記三級程度の会計知識は必要ですが、現場で学ぶことの方が多いです。全く環境の異なる国では情報収集が重要なため、教員時代に培った調整能力が生きました。コーディネーターは銀行や役所など現地関係者とも交渉します。
 
現場を見ないと予算は立てられませんから、コーディネーション・チーム勤務であっても国内各地のプロジェクトを定期的に訪問し、1週間ほど滞在します。診療所を見学すると「この人たちの命を救っているんだ」という実感が沸きます。
 
チームメンバーとは一緒に働く期間が長く、家族のような関係になります。現地スタッフの結婚式に呼ばれることも。海外派遣スタッフは宿舎も同じなので特に親しくなりますね。今でも連絡を取り合い、日本に遊びに来てくれる元同僚もいます。

セキュリティとバックアップ 紛争で国外退避するも、訓練のおかげで不安はなかった

イエメンのMSF病院で
イエメンのMSF病院で
過去5回の活動で印象深いのはイエメンです。短期間で3つのプロジェクトを立ち上げ、予算規模も大きくやりがいがありました。
 
しかし2011年に入ると「アラブの春」が波及し、首都サヌアでもデモが起こるように。銀行口座が凍結されるという情報を受け、現金を欧州のオペレーション・センター(OC)に戻したり、送金額を分割したり……OCの担当者と密に連絡を取りました。
 
空港閉鎖の噂を聞いたときは、ロジスティック担当と銀行へ行き、医療品の供給が滞らないよう通関手続きを短縮するための信用状を発行してもらいました。
 
情勢は悪化し、やがて外出禁止に。MSFはルールが厳しく、一歩も外に出られないんです。首都でも爆撃音が聞こえるようになり、地下の避難室を準備することもありました。MSFのセキュリティ体制が徹底していることに救われ、何とか気持ちを保ちました。
 
緊急事態をシミュレーションするためにOCからベテランの上司も飛んできてくれました。「このまま紛争に突入する」「和解に向かう」、それぞれの状況でMSFがとるべき行動を計画したんです。「どの段階でどのプロジェクトを一時閉鎖する、誰を避難させる、お金をどう管理する」といったことを事前に練ってくれたので最後までMSFを信頼できました。最終的に国外退避となりましたが、バックアップが徹底しているから恐怖心はなかったですね。

今後の展望 仕事と人道援助活動を両立してロールモデルに

「MSFの経験は十分に積んだから今しかできないことをしよう」と、より専門的な会計の知識を身につけるため2016年に大手監査法人に転職しました。
 
MSFでの活動を仕事に還元できることも。例えば途上国の海外出張などでのトラブル対応に、中東やアフリカを見てきた経験が生きています。
 
今の仕事できちんと成果が出せたら、またMSFの現場に戻りたい思いはあります。多くの人はMSFに興味があっても仕事を辞められずに断念するか、やむを得ず退職して参加しているのが現状。「働き方改革」が叫ばれているいま、会社の理解のもと、自分がMSFへ行くことで、ロールモデルになれたらいいなと思います。

キャリアパス

1999~2003年
中高一貫の私立校で英語教師として勤務
2003年
テンプル大学日本校でNGOマネジメントの生涯教育プログラムを受講
2004年
語学留学のため渡仏
2005~2009年
MSF日本事務局ファンドレイジング部
2009~2012年
MSF 財務コーディネーターとしてスーダン、ナイジェリア、イエメン、エチオピアで活動
2012~2013年
MSF日本事務局フィールド人事部マネジャー
2014年
退職し、米国公認会計士(USCPA)の試験勉強に専念
2015年
USCPAの試験に合格後、MSFの海外派遣スタッフとしてシエラレオネで活動
2016年~
大手監査法人に入社し、NPO法人、公益法人等の会計監査に従事

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