海外派遣スタッフ体験談

「私たちには生きる権利がある」 性暴力、望まない妊娠──コンゴ、女性たちの声に耳を傾けて

2023年12月14日

村上千佳

職種
助産師
活動地
コンゴ民主共和国
活動期間
2022年1月~2023年7月

2005年に国境なき医師団(MSF)に参加。以降、南スーダンやハイチ、イラクなどこれまで計8カ国で活動を行う。コンゴ民主共和国では、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)のマネジャーとして、性暴力被害者へのケアや安全な中絶について地域に伝える活動に従事した。(写真・本人手前左から2番目)

性暴力の被害者にケアを

ここにはどのくらい「見えない」患者がいるんだろう──。
 
前回の活動から数カ月ぶりとなる、コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)。私は1年半の間、ウガンダやルワンダと国境を接する北キブ州でMSFの活動に携わりました。北キブ州は2022年3月以降、武装勢力の衝突によりおよそ100万人が避難を強いられ、厳しい人道危機が起きている地域です。人びとは絶え間なく移動を続けており、毎日状況が目まぐるしく変わっていきました。
 
活動地は、ゴマ、ルチュル、ビンザ、バンボ、キビリジの5カ所。州都のゴマを拠点に他の場所にも訪れました。地域によって展開しているプロジェクトの内容はさまざまです。外科治療や栄養失調への対応、基礎医療の提供、性暴力のケアや心のケア……。また、ストリートチルドレンやセックスワーカーの方たちへの基礎医療の提供やHIV/エイズやマラリア、性感染症への対応もありました。
MSFが支援する病院や診療所では、薬の提供や治療とともに、性暴力ケアについて地域の人びとに伝える活動を行い、被害に遭った方がスムーズに医療を受けられる仕組みを作りました。性暴力ケアはコンゴ人の同僚が対応し、私は彼らと相談しながら業務に当たりました。
州都ゴマ周辺の国内避難民キャンプ=2023年5月 Ⓒ MSF/Michael Neuman
州都ゴマ周辺の国内避難民キャンプ=2023年5月 Ⓒ MSF/Michael Neuman

「あなたがここで話す内容は、誰にも知られません」「ここに来れば、何も話さなくても誰かが病院に連れて行ってくれます」。性暴力の被害は打ち明けることを躊躇する人も多く、安心して施設に来てもらうためには、地域への説明が欠かせません。

続けていくうちに、治療に訪れる患者は増えていきました。私たちの活動は実を結んでいる──そう実感する一方で、いったいどれだけの数の把握できない患者がいるんだろうと感じていました。

日常の延長で性暴力に…

たきぎや食料の収穫をする女性=北キブ州カニャルチニャ、2023年8月 Ⓒ Alexandre Marcou/MSF
たきぎや食料の収穫をする女性=北キブ州カニャルチニャ、2023年8月 Ⓒ Alexandre Marcou/MSF
農村地帯では、多くの方が収穫やたきぎを取りに行くときなど、日常生活の延長で性暴力の被害に遭います。近くにはビルンガ国立公園もあり、そこに密猟者や武装勢力も潜んでいるそうです。危険だと分かっていても、女性たちは家族を養うために外出せざるを得ない。「畑に行かないで」とも言えず、やるせない気持ちになりました。
 
一帯は、資源が豊富で、野生動物もおり、農作物の採れる畑もある、とても豊かな土地です。それゆえに、さまざまな武装勢力や密猟者に狙われ、そこに住んでいる人が標的となっているのです。
 
現在の状況が続く限り、人びとは常に性暴力のリスクにさらされて生きなければなりません。被害はたびたび繰り返され、犯人は捕まらない。地域社会は有効な対策が立てられず、ケアしてもケアしても性暴力の被害が続いていく……。目の前の現実と自分たちができることの限界を前に、どうしたらいいのだろうと考える毎日でした。

忘れられない言葉

MSFはコンゴで女性の健康に関するさまざまな活動を行っていますが、安全な人工妊娠中絶もその一つです。コンゴ東部では人工妊娠中絶はタブーとみなされています。そのため、中絶を望む女性たちは、効果のない危険な方法を自分自身で行うか、設備やスタッフが不十分な環境で中絶をするしか選択肢がありません。結果として、処置の後に感染したり重い後遺症が残ったり、最悪の場合は死に至ることもあります。安全な人工妊娠中絶へのアクセスがないために、救える命が失われているのです。

地方の診療所で。段ボールで模型を作り、実技のデモンストレーションを行った Ⓒ MSF
地方の診療所で。段ボールで模型を作り、実技のデモンストレーションを行った Ⓒ MSF
行く前は、現地の人びとが中絶を受け入れることは難しく、話すことも容易ではないと聞いていましたが、実際はそうでもありませんでした。2017年からMSFが取り組んでいたタスクフォースによる、安全な中絶についての啓発活動の成果だと感じ、うれしかったです。

中絶について相談に来る方の多くは、性暴力の被害者ではありません。子どもがたくさんいてこれ以上育てられない、あるいは健康上のリスクが高いという理由が圧倒的に多かったです。夫に中絶を止められることも多いため、こっそりとMSFの病院に来るというケースもありました。
 
一つ、忘れられない言葉があります。中絶に対する自分の考えを知り、理解を深めるためのワークショップを地方の村で行ったときのこと。ある参加者のアンケートに「私たちには生きる権利がある」と書かれていました。完璧なフランス語ではなかったけれど、その分厳しい環境に置かれた女性たちの心の声が、力強く伝わってきました。

長く続ける魅力

医療職を目指しているときから、海外で働きたいという思いがありMSFはその時から知っていました。2005年にコートジボワールの活動に参加して以来、活動を続けています。
 
長く活動を続ける面白さは、さまざまなプロジェクトの変遷を見ることができること。継続しているプロジェクトを再訪したときは、頼もしく働くスタッフの姿に「ああ、みんなよく成長してくれたなぁ」とうれしくなります。

また、確実に医療ニーズのある場所で、地域社会と深く関わりながら活動できるのもMSFの魅力。何もかもうまくいくことはまずありませんが、何らかの形で変化を起こしているという手応えを感じることができ、やりがいがあります。コンゴではフランス語で活動を行っていましたが、次の派遣先のイエメンのプロジェクトでは英語が共通言語になります。業務内容も異なるので、また新たな環境で頑張りたいと思います。

滞在中はスワヒリ語をいくつか覚えました。日々さまざまな問題が起こるからこそ、「大丈夫!」という意味も込めて「Hakuna matata」(ハクナマタタ/問題ない)とみんなで言いながら、仕事をしていました。

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