海外派遣スタッフ体験談
紙幣が「ない」? 女性は就労禁止?──政治・経済的不安に揺れるアフガニスタンで、財務を担当
2023年04月28日北川 順子
- 職種
- アドミニストレーター
- 活動地
- アフガニスタン
- 活動期間
- 2022年3月~2022年12月
国際援助の世界に関心を持ち続け、留学や一般企業勤務を経て国境なき医師団(MSF)に参加。初めての派遣は、2019年のイラク。その後、ナイジェリア、リベリア、南スーダンで活動。5カ国目となるアフガニスタンでは、ヘラートのプロジェクトで財務を担当した。(写真・本人右)
ヘラートの医療プロジェクトで
今回派遣されたのは、イラン国境にも近いヘラート州のヘラート市。プロジェクトは保健省の運営する病院の敷地にある小児一般及び栄養失調専門の病棟と、市街地から車で1時間ほどの場所にある外来診療所の運営です。
ここは少し前まで国内避難民キャンプがあった場所で、周辺に住む6歳までの子どもたちを対象に医療を提供していました。また、そこでは助産師を中心としたコミュニティ・ワーカーが地域に出向き、授乳や栄養・衛生面に関わることを伝える、健康推進活動も行っていました。
ここは少し前まで国内避難民キャンプがあった場所で、周辺に住む6歳までの子どもたちを対象に医療を提供していました。また、そこでは助産師を中心としたコミュニティ・ワーカーが地域に出向き、授乳や栄養・衛生面に関わることを伝える、健康推進活動も行っていました。
そのプロジェクトで、アドミニストレーターとして財務と外国人派遣スタッフのマネジメントを担当していました。内容は現地スタッフの給与支払い、物品の購入や工事を行った際の業者への支払いなどが日常的な業務です。財務の仕事は事務所での業務に終始しがちですが、プロジェクトの内容をより理解するために、できる限り病院の様子を見に行くことが推奨されます。
11月には、病院のマネジメントに関するトレーニングが実施されました。それまでは入院している子どもたちの様子やベッドの稼働率ばかり見ていましたが、そのトレーニングを通じて非医療スタッフの立場における病院の管理方法を具体的に理解し、実際に訪問して何に目を向けるとよいかなどを学び、病院への関わり方も大きく変わりました。
紙幣がなく、暴動にも…
困難だったことと言えば、紙幣の状態です。アフガニスタンは紙幣の印刷を外国に依頼していたのですが、タリバン暫定政権は国際的な承認を得ていないため、海外から新札が送られてこなくなりました。国内にある紙幣のみを使い続けるため、テープで何カ所も補修されているような、日本では考えられない状態の紙幣が流通していました。
スタッフへの給与は基本的に銀行送金で支払いますが、銀行口座のないスタッフもおり、その場合は現金で給与を渡します。その際「こんなお札は使えない」と交換を求められることも。でも、返されたところで状態のいい紙幣はありません。
また500~600人のスタッフに銀行送金で振込を行った際には、スタッフが一斉に銀行に現金を引き出しに行き、「こんな紙幣は受け取れない!」と声が上がり、そのまま小さな暴動のようになってしまったこともありました。「みんながもめているから来てくれ!」と呼ばれ、急いで駆け付け、銀行の責任者と協議の上、「いったんこれで受け取ってもらう。そして、店で使えなかった分に関しては責任を持ってまとめて交換する」とスタッフを説得し、双方に納得してもらいました。
「アフガニスタンを出たい」
現地スタッフは皆モチベーションが高く、楽しく仕事ができました。6月に東部のパクティカ州で大きな地震が発生した際、緊急医療チームのスタッフ募集があり、ヘラートからも多くの参加希望の手が上がりました。実際に派遣できたのは3名ほどでしたが、「自分も緊急支援に参加したい」というスタッフが多く、感銘を受けました。
その一方で、政治・経済的な不安から「アフガニスタンを出たい」という人も。「ビザが入手できることになったので、国外に行く。だから今日を最後に退職する」と突然切り出されることも一度や二度ではありませんでした。規則上、1カ月前の届けが必要なのですが、彼らにとっては人生を左右する決断です。そこは受け入れるしかありませんでした。
また、昨年12月には、タリバン暫定政権による女性スタッフの非政府組織(NGO)における就労禁止が発表されました。MSFを含む医療団体はこの措置から除外されており、当時は幸いにも大きな影響はありませんでした。
ただ、病院で働いている現地スタッフは女性が多く、もしアフガニスタン人の女性が働くことができなくなったら、病院はほとんど機能しないでしょう。タリバンも女性患者は女性医師が診るべきという考えを持っていますが、同時に教育も禁じています。それがアフガニスタンの未来にどう影響していくのか──先の見えない不安がいまも残されています。
人生を変える貴重な経験
昔から国際援助の世界に興味があり、そのために留学もしました。実際に海外に行くことはなかなかできない中で、NGOの人材募集のチェックだけは続けていました。ただ、MSFは医療・人道援助団体なので非医療職の自分は関係ないと思っており、まったく見ていませんでした。ある時、前職の同僚にMSFでは非医療ポジションの募集もあることを教えてもらい、そこで初めてMSFへ応募しました。
アドミニストレーターに応募したものの、私は「人事一筋何十年」というキャリアがあったわけではありません。あったのは、部署の人事管理やプロジェクトの予算管理などの経験です。MSFはNGOの経験や長いキャリアがなくても、携わってきた仕事の内容で評価してもらえるところがよかったです。
もし応募を迷っている人がいたら、「MSFでは貴重な経験ができる」と伝えたい──私自身は「社会に貢献したい」という思いで参加を決めましたが、MSFの現場では「貢献」しているという以上に、学ばせてもらっていると感じます。人生を変えるような貴重な経験が待っていると思います。
アドミニストレーターとしてMSFで活動したい方は……
主な業務内容、応募条件など、
詳しくは『アドミニストレーター』のページへ!
栄養失調の病棟には、日本では見ることがないような小さな赤ちゃんがたくさんいました。以前のリベリアでも、見るだけで涙が出そうな赤ちゃんの様子は目にしていました。そういう状況は理解していたものの……。アフガニスタンの現実には胸がつまりました。