特集
ガザ、紛争激化からの1年
2024.10.04
2023年10月7日にイスラエルとハマスの紛争が激化してから、まもなく1年が経とうとしています。今も続く攻撃で多くの市民が犠牲となり、パレスチナ・ガザ地区の保健省によると、ガザにおける死者数は4万人を超えました。
国境なき医師団(MSF)は、すべての紛争当事者に攻撃の即時停止を求めるとともに、医療を必要とする人びとへの緊急援助を行っています。
命を救う活動を、どうぞご支援ください。
寄付をするイスラエルとパレスチナにおける衝突で生じた人道危機への緊急援助には「緊急チーム」募金の一部を充当します。「支援対象」の欄で「緊急チーム」募金をご選択ください。
【動画で見る】スタッフが語る、この1年の取り組み
現場で医療活動に当たったスタッフが、この1年の状況を伝えます。日本から派遣されたロジスティシャン植田による、仮設病院建設の報告も。
日本から派遣されたスタッフの声
看護師 本川 才希子
負傷した人びとが廊下にもあふれ──ガザ、医療現場の厳しい現実
7月中旬から約40日間、ガザ地区南部にあるナセル病院で活動しました。病院には空爆で負傷した人たちが次から次へと運ばれ、廊下にも患者さんがあふれていたほどです。
手足の切断を余儀なくされる人も少なくありません。ある日搬送された10歳ほどの少年もその一人でした。彼は家族で空爆に遭い、父親を目の前で亡くしました。少年は大けがを負い、片足を切断。家族の死も、歩けなくなるかもしれない自分の体も、まだ受け入れられないのでしょう。「お父さん、お父さん!」と泣き叫ぶ声が病室に響き、私も涙が出そうでした。メンタルヘルスのスタッフとも協力して少年のケアにあたりました。
物資不足も深刻で、「病院にせっけんがない」という信じがたい現実に直面しました。物資を載せたトラックがガザの入り口まで来ていても、イスラエル当局によって止められるなどの理由で、必要な物が病院へ届かないのです。基本的な衛生を守ることすら難しい状況でした。
困難が続く中でMSFが活動を続けられているのは、何百人もの現地スタッフの存在があるからです。避難テントから病院に出勤してきている同僚もいました。テントがある人道地域ですら爆撃を受け、安全な場所はありません。「もう疲れたよ」「もう終わりにしてほしい」──。彼らから悲痛な声を聞きました。また、何度も言われたのが「ここで起こっていることを世界に伝えて」という言葉です。決して忘れてはならないと思います。
ロジスティシャン(ホスピタル・ファシリティ・マネジャー) 植田 佳史
仮設病院の建設と物資確保に奔走 紛争に根本的な解決策を
7月16日から8月29日まで、ガザで仮設病院の建設に携わりました。
ガザでは8月だけで、イスラエル軍から16回も退避要求が出ました。そのたびに攻撃対象の地域が広がり、もともと過密している人道エリア内の、さらに限られた場所に人が押し込められていったのです。街ではあちこちで下水が氾濫し、道路にはゴミが山積みになっていて、それらが感染症拡大の引き金になるのではと懸念していました。
こんな状況でも、MSFの現地スタッフはみな明るく熱心に働いています。ドライバーのスタッフから「家は破壊され、家族も何人か殺された。着の身着のままで逃げているから、攻撃されたってもう怖くないよ」と聞いたときは、“失うものは何もない”というのが彼らの日常なのだと感じ、非常にショックでした。
そんな中、病院の建設を進め、8月26日に開院しました。一番大変だったのは物資の確保です。医薬品や医療機器、建設に使う資材など最低限必要なものでさえ、探し回っても手に入らなかったり、値段が跳ね上がっていたり。各地から物資をかき集め、水回りも何とか整備しましたが、設備としては一般的な病院と比べると程遠い状態でした。それでも、患者さんはみな明るい表情で入院されたので、開院できて本当に良かったと思っています。
停戦だけでなく、この紛争をもっと根本的に解決できないのか、と感じています。また同じことが繰り返されないために、国際社会として取り組まなければいけない、大きな課題だと思います。
救急医・麻酔科医 中嶋 優子(国境なき医師団日本会長)
看護師 倉之段 千恵
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パレスチナにおけるMSFの活動
世界保健機関(WHO)によると、ガザにある36カ所の病院のうち19カ所が稼働していません(2024年9月時点)。人びとが医療を受けることは著しく困難になっています。
MSFでは9月23日現在、778人の現地スタッフと35人の国際スタッフがガザ地区で活動。外科治療や創傷ケア、理学療法、妊産婦と小児のケア、基礎医療、心のケアなどを行っています。
MSFはまた、ヨルダン川西岸地区でも活動し、暴力の激化が深刻な地域で住民に医療を届けるとともに人材の育成を行っています。
負傷者の治療
2万7546人以上
入院患者の受け入れ
1万4465件以上
産前ケア
1万9662件以上
(ガザにおける2023年10月~2024年9月末の活動実績)
現地からの報告
MSFが訴えること
ガザの人びとには即時かつ持続的な停戦が必要であり、民間人は保護されなければなりません。
- 国際人道法が無視され、民間人が犠牲になり続けています。人道地域や避難所も空爆を受け、ガザに安全な場所はありません。民間人の保護を強く求めます。
- 米国、英国をはじめイスラエルに影響力のある国々、および日本を含む国連安保理理事国は、民間人を犠牲にする攻撃を止めるため、行動を取る必要があります。軍事援助の提供などを通じてイスラエルを支援しているすべての国々は、道義的にも政治的にも加担しているといえます。
医療への攻撃を止めるよう求めます。
- ガザの医療ニーズが急増する一方で、医療体制は事実上崩壊しています。
- 医療施設に対する攻撃は504件に上り、880人以上の医療従事者の命が奪われました。医療施設と医療スタッフに対する組織的な攻撃は直ちに停止されなければなりません。
- 医療を受けられないことにより、戦闘による死傷者に加え、医療を受けられないことによる多くの「目に見えない死」が起きています。(感染症や慢性疾患の患者、合併症のある妊婦など)
人道援助が妨げられてはなりません。
- 検問所の封鎖や援助物資の輸送妨害などによって、人道援助が組織的に妨害されています。支援の不足は政治的な問題です。
- 人びとの生存に必要な物資の致命的な不足が、輸送トラックの略奪なども引き起こしています。全ての紛争当事者に、援助物資輸送を妨げないよう求めます。
- イスラエル側が許容する援助の量は非常に限られており、国際人道法が守られているように見せる道具として使われています。
【プレスリリース】ガザ:紛争激化から1年、医療は壊滅状態に──今すぐ持続的な停戦を
2023年10月7日にイスラエルとハマスの紛争が激化してから1年。全面攻撃と封鎖は今も続き、パレスチナ・ガザ地区の医療・人道状況は壊滅的です。この間、イスラエル、ハマス、そしてそれらの同盟国も、ガザでの持続的停戦に関する合意に到達できませんでした。そして現在、紛争の危険性が地域全体で高まっています。イスラエルは、ガザの民間人の無差別殺害を直ちに停止し、国際司法裁判所の要請に従い、検問所を再開し援助物資の搬入を緊急に進めることが求められています。
(2024年10月3日公開)
(2024年10月3日公開)
「私たちにできること」 集まったたくさんの声
「最後まで残った人は伝えてください。私たちはできることをした。私たちを忘れないでください」
ガザ北部のアル・アウダ病院で攻撃を受けて2023年11月に亡くなったアブ・ヌジャイラ医師が、病院のホワイトボードに書き残したメッセージです。昨年10月からこれまでに、ガザで6人のMSFスタッフが命を落としました。
紛争で亡くなったすべての人を思い、感じたことや、自分にできることを、日本で多くの方に書いていただきました。
10月31日~11月4日は「エンドレスジャーニー展・東京」会場にて、ぜひあなたのメッセージを書いてみませんか。
10月31日~11月4日は「エンドレスジャーニー展・東京」会場にて、ぜひあなたのメッセージを書いてみませんか。
「高校生ボランティアアワード」で寄せらせた声
「エンドレスジャーニー展・仙台」で寄せらせた声
ガザ危機1年にあたっての意識調査
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トップ画像:
空爆で破壊された、ガザ南部ハンユニスの建物=2024年4月22日 © Ben Milpas/MSF
医療援助にあたる医師の中嶋優子=2023年12月 © MSF
ラファ・インドネシア病院周辺で逃れる人びと=2023年12月27日 © MSF
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