配偶者の遺産は? 相続権の割合、配偶者の税額軽減を紹介

更新日:2025年6月9日
監修者:庄田和樹(司法書士・土地家屋調査士・行政書士 司法書士法人 土地家屋調査士法人 行政書士法人 神楽坂法務合同事務所 代表 株式会社 遺言執行社 代表取締役)

亡くなった方の配偶者は基本的に相続人になり、遺産を取得することになります。今回は、配偶者が取得する遺産の割合や税額軽減制度などについて、わかりやすく解説します。

目次

遺産からの寄付の方法や注意点などをご説明した資料をご用意しています。

パンフレットに掲載されている内容は以下の通りです。(一部)

  • 国境なき医師団とは?
  • 遺贈寄付までの流れ
  • 公正証書遺言とその作り方
  • 自筆証書遺言とその書き方
  • 遺贈Q&A

1. 配偶者の遺産の相続割合

財産を持つ人が亡くなると、まずは遺言書を捜索してその内容を確認します。遺言書がない場合や、遺言書があっても作成時の不備などの理由によって無効になった場合は、民法で定められた相続人である「法定相続人」が遺産を取得することになります。

被相続人(亡くなった方)の配偶者は常に法定相続人になりますが、そのほかの法定相続人は相続順位によって決定されます。

<常に法定相続人になる>
配偶者(ただし、事実婚など婚姻届を提出していない関係性であれば法定相続人とはなりません)

<順位の高い人が相続人になる>

なお、第1順位〜第3順位に関しては、上位の順位の人が優先して法定相続人になるため、それよりも下位の人には相続権が与えられません。例えば、被相続人に第1順位である子どもがいる場合、第2順位の親は相続する権利がないということになります。

法定相続人が受け取れる遺産の割合について、ケース別に見ていきましょう。

配偶者のみがいる場合

配偶者は常に、法定相続人となります。被相続人に子どもがなく、配偶者のみが法定相続人の場合、配偶者の法定相続分は100%です。

配偶者と子どもがいる場合

配偶者と、第1順位である被相続人の子どもが相続人の場合、民法で定められた法定相続分は以下の通りです。

子どもが複数人いる時は、1/2を子どもの人数で等分します。例えば、被相続人に長女・長男・次男の3人の子どもがいた場合の分け方は以下のようになります。

子どものうち、すでに亡くなっている人がいれば、亡くなった子どもの代襲相続人(詳しくは次節で説明)として、その子ども(被相続人にとっての孫)が相続権を受け継ぎ、代わりに相続人になります。孫が複数人いる場合にはさらに等分します。

先ほどの例について、長女が被相続人よりも前に亡くなっていて、長女に2人の子どもがいる場合の法定相続分は、以下の通りです。

なお、このように相続権を持つ人が亡くなっている場合に、代わりにその子どもが相続人になることを「代襲相続」といいます。もし、被相続人にとっての子どもも孫も亡くなっている場合には、さらに代襲してひ孫が相続人になります(※)。

配偶者と父母がいる場合

法定相続人の第2順位は、被相続人の直系尊属(父母や祖父母など)です。被相続人に子どもや孫といった第1順位の相続人がいない時、かつ父や母が存命である時には、父母が相続人になります。

被相続人の配偶者と父母のどちらか1人が相続人になる場合の法定相続分は、以下の通りです。

父母がどちらも存命である場合、この1/3をさらに等分することになります。

被相続人の父母がどちらも他界していて、祖父母が1人でも存命であれば、その祖父母が相続人となります。

配偶者と兄弟姉妹がいる場合

法定相続人の第3順位は、被相続人の兄弟姉妹です。第1順位と第2順位の相続人がいない時には、被相続人の配偶者と兄弟姉妹が相続人になります。兄弟姉妹は 関係性が多少遠いとみなされるため、法定相続分は1/4と低く設定されています。

兄弟姉妹が複数人いる場合には、1/4の法定相続分を兄弟姉妹の人数でさらに等分します。例えば、配偶者と姉・兄が相続人になる際には、以下のような割合で相続します。

また、兄弟姉妹のうちすでに亡くなっている人がいて、かつ亡くなった兄弟姉妹に子ども(被相続人にとっての甥や姪)がいる場合には、代襲相続人になります。その場合の法定相続分は、亡くなった兄弟姉妹が本来相続するはずだった割合です。甥や姪が複数人いる場合には、人数でさらに等分します。

例えば、先ほどの例で被相続人の姉がすでに亡くなっていて、姉に2人の子どもがいたとしましょう。このケースでの法定相続分は以下の通りです。

第1順位の代襲相続は、被相続人の子どもが亡くなっていれば孫に、孫も亡くなっていればひ孫にというように、代襲する回数に制限はありません。しかし、第3順位である兄弟姉妹は代襲する回数が1回までと決められています(※)。

そのため、被相続人の兄弟姉妹、さらに甥や姪も亡くなっている場合には、甥や姪に子どもがいても、その子どもが相続することはできません。

2. 配偶者が遺産を相続した場合の相続税

遺産などを受け取った配偶者は、その金額に応じた相続税を支払う可能性があります。しかし、金額によっては相続税の支払いが不要になる場合もあります。相続税の支払いが必要な場合であっても、後述する「配偶者の税額軽減」によって節税することが可能です。まずは相続税の仕組みについて見ていきましょう。

相続税とは何か

相続税とは、亡くなった人の財産を相続、もしくは遺贈(遺言書に従い、財産の一部または全部が個人や団体に譲られること)によって取得した場合、その財産に対して課される税金です。相続税のかかる財産として、以下のような例が挙げられます。

加えて、以下をはじめとする財産についても、みなし相続財産として相続税の課税対象になります。ただし、これらの財産はすでに受取人が指定されていて受取人固有の財産と考えられるため、遺産分割協議の対象にはなりません。

相続税の仕組み・計算の手順

相続税の金額を知るためには、相続税の課税対象となる金額を求める必要があります。その金額に税率を乗じて全体の相続税額を計算した後、相続人ごとの納付税額を計算する流れです。

次項から、相続人が配偶者と長女・長男の3人であるケースを例にして、実際の計算の手順を紹介します。

基礎控除額を計算する

相続税の基礎控除とは、相続税の計算をする上で使える非課税枠です。遺産が基礎控除額よりも少なければ相続税は課税されません。基礎控除額は以下の計算によって計算できます。

3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 = 基礎控除額

例えば、法定相続人が3人であれば、以下の計算によって基礎控除額が4800万円であることがわかります。

3000万円 + 600万円 × 3人 = 4800万円

課税遺産総額を計算する

課税価格の合計額から相続税の基礎控除額を差し引き、課税遺産総額を求めます。課税価格の合計額が2億円であると仮定すると、以下のようになります。

2億円 − 4800万円 = 1億5200万円

計算で用いる「課税価格の合計額」とは、相続や遺贈で取得した財産の金額はもちろん、被相続人の死亡をきっかけに受け取る財産(みなし相続財産)を加えるなどして計算した金額です。この金額の計算方法は複雑であるため、場合によっては税理士に対応を依頼してもよいでしょう。

法定相続分で分ける

前項で求めた課税遺産総額を、法定相続分で分割します。

  • 配偶者:1億5200万円 × 1/2 = 7600万円
  • 長女:1億5200万円 × 1/4 = 3800万円
  • 長男:1億5200万円 × 1/4 = 3800万円

税額を計算する

法定相続分に対して税率を乗じ、金額に応じた控除額を差し引くことで税額を計算します。相続税の税率および控除額は以下の通りです。

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1000万円以下 10% -
1000万円超から3000万円以下 15% 50万円
3000万円超から5000万円以下 20% 200万円
5000万円超から1億円以下 30% 700万円
1億円超から2億円以下 40% 1700万円
2億円超から3億円以下 45% 2700万円
3億円超から6億円以下 50% 4200万円
6億円超 55% 7200万円
(※)

これまでに紹介してきた例の場合、以下のように税額を計算します。

  • 配偶者:7600万円 × 30% − 700万円 = 1580万円
  • 長男:3800万円 × 20% − 200万円 = 560万円
  • 長女:3800万円 × 20% − 200万円 = 560万円

さらに上記の金額を合計し、相続税の総額を求めます。

1580万円 + 560万円 + 560万円 = 2700万円

各相続人の税額を計算する

遺産などを実際に受け取った人が、受け取った割合に応じて「相続税の総額」を按分し、各相続人の納付税額を計算します。

例の場合でいうと、遺産を受け取った割合に応じて3人の相続人で分けて計2700万円の相続税を支払うことになります。仮に配偶者が全ての遺産を取得したとすると、1人で2700万円の相続税を支払うことになるため、他の相続人は相続税を負担する必要はありません。

3. 配偶者の税額軽減について

被相続人の配偶者は「配偶者の税額軽減」の制度を利用して税負担を軽減できます。制度の仕組みや要件などについて解説します。

配偶者の税額軽減制度で非課税になる金額

配偶者の税額軽減とは、被相続人の配偶者が実際に取得した正味の遺産額が、以下のどちらか多い方の金額までは配偶者に対して相続税がかからない制度です。

配偶者の税額軽減制度を利用する条件

配偶者の税額軽減制度を利用するためには、次の3つの条件を満たす必要があります。

①相続人の配偶者であること

配偶者は、被相続人と法的に認められた夫婦であることが必要です。事実婚など、婚姻届を出していない場合はこの制度を利用できません。

②期限内に相続税の申告書を提出すること

期限内に相続税を申告すること、つまり相続税の申告書を提出することも条件の1つです。相続税の申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内に行います。

③遺産が分割されていること

相続人で遺産の分け方について話し合う協議のことを「遺産分割協議」といいます。この協議は、相続人全員が遺産の分け方に合意できれば、遺産分割協議書を作成し、署名・押印を行うものです。配偶者の税額軽減制度を利用するためには、相続税の申告期限までに遺産分割協議を済ませる必要があります。

ただし、相続税の申告書または更正の請求書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付することもできます(※)。この書類を添付すると、相続税の申告期限までに分割されなかった財産を期限から3年以内に分割した時、制度の対象とすることが可能になります。一旦は制度を適用しない金額で相続税を支払っても、更正の請求を行うことで支払った税金の還付を受けられます。

計算例

先ほど紹介した例に基づいて制度を適用すると、被相続人の配偶者に対して課税される相続税額は以下の通りです。ここでは配偶者が全ての遺産(2億円)を取得したと仮定して計算しています。

なお、配偶者の税額軽減の適用額は「1億6000万円」と「1億円(配偶者の法定相続分)」を比較し、多い方の1億6000万円を採用しています。

4. 配偶者の「相続権」におけるよくある間違い

配偶者の相続権について、間違いやすいポイントを3つ紹介します。

誤解①子どもがいなければ配偶者が遺産を全てもらえる

もともと子どもがいない、あるいは被相続人より先に亡くなったために相続開始時点で子どもがいないと、配偶者が被相続人の遺産を全て取得できるというイメージを持つ人もいます。しかし、孫がいる場合には孫、さらには被相続人の父母や兄弟姉妹などが相続人になるため、この認識は正しくありません。

「配偶者に全て、または法定相続分よりも多くの遺産を渡したい」など、遺産の行方について具体的な希望がある場合は、いざという時のために遺言書を作成しておくことをおすすめします。

誤解②事実婚であっても相続できる

婚姻届を出さずに内縁関係の夫婦として生活している場合、配偶者に相続権はありません。

事実婚の配偶者が利用できる可能性のある相続の制度としては、「特別縁故者に対する相続財産分与」があります。制度の対象となる人に「被相続人と生計を同じくしていた者」が含まれており、事実婚の配偶者はこれに該当する可能性が高いでしょう。

しかし、これは家庭裁判所が相続財産清算人(亡くなった人の財産の管理などを行う人)を選任した場合で、かつ他の相続人が出てこなかったなど、限定的な場面において効力を発揮する制度です(※)。したがって、事実婚なので特別縁故者の制度を利用すれば遺産を受け取ることができるという前提で考えず、遺言書を作成するなどの対策を講じる必要があります。

誤解③配偶者であれば相続で確実に家を取得できる

被相続人と一緒に持ち家で暮らしていれば、配偶者は自動的に家を相続できるというイメージを持つ人も少なくありませんが、この認識は正しくありません。被相続人の家や土地も遺産に含まれるため、遺言書がなければ遺産分割協議を行ってどのように相続すればいいのか考える必要が生じます。

また、遺産の大半が不動産である場合には、遺産の分割が複雑になります。不動産を売り払って、そのお金で遺産を分けることもあるでしょう。配偶者と他の相続人の間でトラブルに発展することもあるかもしれません。遺産をめぐってトラブルが発生することが予想される場合は、事前に税理士や弁護士などの専門家に相談することも視野に入れましょう。

なお、被相続人の死後、残された配偶者が住み慣れた住居に住み続けながら、生活資金として預貯金も確保したいというニーズに応えて、配偶者が住居を所有しているかどうかに関係なく、配偶者が、無償で、住み慣れた住居に居住する権利を取得できるようになりました(配偶者居住権)。

5. 配偶者の「相続税」におけるよくある間違い

配偶者の相続税について、誤解しやすいポイントを2つ紹介します。

誤解①配偶者は相続税の申告をしなくていい

配偶者の税額軽減制度を利用するためには期限内に相続税の申告をすることが条件の1つとして挙げられているため、期間内に相続税の申告を行う必要があります。制度を利用することによって相続税の金額が0円になる見込みであっても、申告しなければ制度が適用されず、本来納めなくてもよい相続税が発生してしまいます。

ただし、相続した遺産の評価額が基礎控除額を超えていなければはじめから相続税が発生しないため、申告は不要です。

誤解②配偶者が遺産を相続した方が得

「配偶者には税額軽減制度があるから、配偶者が全ての遺産を相続して節税しよう」と考える方もいるかもしれません。しかし、そのような相続方法が必ずしも得であるというわけではありません。

配偶者の税額軽減制度のデメリットとして、遺産を相続した配偶者が亡くなった際に、子どもなどの相続人の相続税額が大きくなる場合があります。

例えば、父母と子どもの3人家族で、父から母へ、母から子どもへと順番に遺産を相続したとしましょう。母は配偶者の税額軽減制度を適用して相続税が0円でした。この場合、相続税を支払わなかった分、母から子どもに受け継ぐ遺産は大きくなります。法定相続人の人数が減って基礎控除額も減ってしまうため、子どもの相続税額が高額になる恐れがあります。結果として、配偶者の税額軽減制度を利用しない方が2回にわたる相続税額が抑えられることになります。

このように、配偶者が遺産を取得する場合には2回目の相続(二次相続)についても考えながら、慎重に対応することが望ましいでしょう。

6. まとめ

被相続人の配偶者は基本的に相続人となり、第1順位から第3順位のうち最も高い順位の他の相続人と遺産を分割することになります。それぞれの順位の相続人に対して法定相続分が定められており、割合に応じた遺産を取得します。

遺産を受け取った配偶者は、課税対象となる遺産があれば相続税を支払うことになりますが、配偶者の税額軽減制度を利用して、税負担を大幅に軽減できる可能性もあります。

遺言書を作成すれば、その内容に基づいて遺産を相続することができます。これを機に、自らの財産の行方について考え、必要に応じて遺言書を作成されることを考えてみてはいかがでしょうか。

遺産からの寄付の方法や注意点などをご説明した資料をご用意しています。

パンフレットに掲載されている内容は以下の通りです。(一部)

  • 国境なき医師団とは?
  • 遺贈寄付までの流れ
  • 公正証書遺言とその作り方
  • 自筆証書遺言とその書き方
  • 遺贈Q&A

7. 遺贈寄付に関するご相談

遺贈寄付の手続きは、誰にとってもはじめての体験。でも、相談できる人が身近にいない、という声も聞かれます。「国境なき医師団遺贈寄付ご相談窓口」には、幅広い知識と経験豊富な専任のスタッフがいます。遺言書の書き方から手続き上のことまで、遺贈のことなら何でも、お気軽にご相談ください。

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監修者情報

庄田和樹 司法書士・土地家屋調査士・行政書士 司法書士法人 土地家屋調査士法人 行政書士法人 神楽坂法務合同事務所 代表 株式会社 遺言執行社 代表取締役

信託銀行、司法書士法人勤務を経て独立。司法書士、土地家屋調査士、行政書士として相続等の問題の解決に注力するとともに、株式会社 遺言執行社を設立し、遺言書作成サポート、死後事務委任契約をはじめとする専門的なサービスを提供している。