不動産を相続する際の手順とは? 遺産分割や相続方法について紹介

更新日:2024年10月16日
監修者:三浦美樹 司法書士(日本承継寄付協会 代表理事)

不動産の相続には、分割方法の決定や相続登記をはじめとするさまざまな課題が発生します。不動産を所有している方や、不動産を相続する可能性のある方は、いざという時に備えて不動産の相続について把握しておくことをおすすめします。今回は、不動産を相続する際の手順や分割方法、注意点などについて紹介します。

目次

遺産からの寄付の方法や注意点などをご説明した資料をご用意しています。

パンフレットに掲載されている内容は以下の通りです。(一部)

  • 国境なき医師団とは?
  • 遺贈寄付までの流れ
  • 公正証書遺言とその作り方
  • 自筆証書遺言とその書き方
  • 遺贈Q&A

1.不動産の相続に必要な手順

不動産の相続は以下の流れで行います。

  1. 遺言書の有無の確認
  2. 法定相続人の確認
  3. 相続する財産の確認
  4. 遺産分割協議
  5. 相続登記(相続財産の名義変更)
  6. 相続税の申告・納付

不動産の相続に必要な手順① 遺言書の有無の確認

まずは遺言書の有無を確認します。遺言書が遺されていた場合には、原則としてその内容通りに相続を行うことになります。

遺言書には自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3つの種類があります。

  自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
作成方法 遺言者が自筆する 証人2人の立会いのもとで、遺言者が話した内容から作成する 内容を秘密にして、存在だけを公証役場で証明してもらう
保管者・保管場所 遺言者 法務局 公証役場 遺言者
検認

必要

不要 不要 必要

自筆証書遺言(遺言者の自宅などで本人が保管する場合)や秘密証書遺言で必要となる「検認(※)」とは、家庭裁判所で行う手続きです。相続人に対してその存在を知らせ、遺言書の偽造・変造を防止するために行います。

不動産の相続に必要な手順② 法定相続人の確認

遺言書がない場合には、民法で定められた法定相続人が相続することになります。法定相続人とは、相続する権利を持つ人を指し、実際に相続することになった人を相続人といいます。相続を放棄した人は、相続人ではなくなります。
そのため、相続の手続きを進めるためにはまず、「誰が法定相続人か」を確認しなければなりません。「相続人は自分たち家族だけだから大丈夫」と思っても、被相続人の非嫡出子が現れたなど、思わぬ事実が発覚する可能性があるためです。

相続人を確認するためには、被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本を取得します。このような手順は「相続人を確定する」といい、遺産(相続財産)を分割するために必要です。後から新たな法定相続人が発覚した場合には、遺産分割協議を最初からやり直すことになるので注意しましょう。

不動産の相続に必要な手順③ 相続する財産の確認

被相続人の死亡後は、相続人の確定とともに、被相続人の遺した財産を把握するための財産目録を作成します。預貯金や不動産といったプラスの財産はもちろん、借金などのマイナスの財産についても記載しましょう。

財産目録に不動産を記載する際、不動産の情報は、市区町村から届く「固定資産税の課税明細書」などによって確認できます。被相続人の自宅に課税明細書がなければ、所有する不動産のある市区町村の役所(東京23区では都税事務所)にある「名寄帳」によって確認することも可能です。

財産を洗い出した結果、負債が多いために相続放棄をするケースもあります。相続放棄をする際は、相続の開始があったことを知ってから3カ月以内に家庭裁判所に必要書類を提出します。

不動産の相続に必要な手順④ 遺産分割協議

相続人と相続財産の確認が終わったら、遺産分割協議を行います。遺産分割協議は相続人全員で、誰がどの財産をどんな割合で取得するのかを決めるための協議です。

協議の結果、相続人全員が合意できたら、協議の内容をまとめた「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員の署名・捺印を行います。1人でも相続人が同意していなかったり、署名がなかったりすると、その協議書は無効となる点に注意が必要です。

遺産分割協議で話がまとまらなければ、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、第三者の立会いのもと話し合いを行うことになります。調停でも決まらなければ遺産分割審判に移行し、財産の性質や個々の事情などを考慮した上、裁判所の判断で遺産分割の方法が決定されます。

不動産の相続に必要な手順⑤ 相続登記(相続財産の名義変更)

[相続登記の申請の義務化が始まります!]
分割方法が決まれば、財産の名義変更の手続きを行います。不動産の場合、相続のために不動産の名義を変更する登記(相続登記)が必要です。

相続登記の際は役所で複数の書類を取得したり、申請書や遺産分割協議書などの書類を用意したりするため、多忙な方や複雑な相続を行う方は司法書士に依頼することもあります。

所有者が不明な土地の解消のため、民法が改正されて、相続登記の申請が義務化されました(令和6年4月1日施行)。不動産を相続された場合は、登記申請を忘れずに行ってください。

不動産の相続に必要な手順⑥ 相続税の申告・納付

相続税の申告・納付(※1)は、相続の開始があったことを知った日(基本的に被相続人が亡くなった日)の翌日から10カ月以内に行います。申告書の提出先は被相続人の住所地の管轄の税務署です。納付は税務署の窓口で直接行う方法の他にも、インターネットバンキングやコンビニの窓口など、さまざまな方法があります。

相続税を納付する義務のある人が納付しなかった場合、期限の翌日から納付の日までの日数に応じた割合の延滞税が発生します。相続税を支払うのが難しい方は、被相続人の住所地の税務署長に申請することで延納の許可を受けられることもあります(※2)。

2.不動産を相続する方法

不動産をはじめとする財産を複数の相続人が相続する際は、以下のいずれかの方法によって分割します。

次項からそれぞれの方法について詳しく解説します。

現物分割

現物分割とは、財産をそのままの形で相続する方法です。例えば、相続する建物が2つで、相続人が2人の場合には、相続人が建物を1つずつ取得するといったケースです。

不動産を売却しないためシンプルな方法ですが、相続人の数に対して不動産の数が足りなかったり、不動産の評価額に差があったりして、現実的ではないこともあります。また、土地を複数の相続人で分割することもできますが、土地が細分化されて活用が難しくなるといった課題があります。

代償分割

代償分割とは、特定の相続人が財産を相続し、それ以外の相続人に対して代償となる財産を渡す方法です。例えば、相続人が長男と次男の2人で、相続する財産が評価額5000万円の不動産のみの場合であれば、長男が不動産を相続する代わりに、2500万円の代償金を次男に支払います。

不動産を売らずに相続できるため、親から受け継いだ大切な不動産を手放したくないといったケースに用いられます。不動産を相続した人が代償金を支払う資力があることが前提ですが、当事者間で合意が取れていれば代償金の分割払いを行うこともあります。

換価分割

換価分割とは、不動産を売って現金化してから、現金を相続人で分割する方法です。例えば、相続人が子ども2人で、売却価格5000万円の不動産がある場合には、現金2500万円ずつを相続することになります。

換価分割は、被相続人の不動産を誰も相続したくない時などに用いられる方法です。現金で分割するため相続人が公平さを感じられる点にメリットがありますが、不動産がすぐに売れるかわからない点や、受け取る金額が不動産の売却価格に影響される点に注意が必要です。

共有分割(共有名義)

不動産などの財産を複数の名義人が共同で所有することを共有名義といいます。子ども2人で土地を共有したい場合には、1/2ずつの割合で所有することになり、その各割合を「共有持分」といいます。単独で名義を持つ場合と同様に登記は必要で、共有者全員に対して登記識別情報通知書が発行されることになります。

不動産を貸したり売ったりする際には、共有者全員の合意が必要です。共有名義は相続時には問題なくても、将来的に管理方法などに関する揉めごとが起きやすいというリスクもあります。

3.不動産の資産価値の指標となる価格

不動産を分割したり相続税を申告したりする際は、その不動産の価値を知る必要があります。建築時の価格ではなく時価で把握する必要がありますが、その価格は以下の方法で評価します。

それぞれの評価方法について詳しく解説します。

相続税評価額

相続税評価額とは、土地や建物を相続によって取得する際、それらにどれくらいの価値があるのかを算出した金額です。相続税評価額は「路線価方式」と「倍率方式」に分けられます。

路線価方式とは、全国の道路ごとに定められた価格である「路線価」によって、そこに面している宅地の価値を評価する方法です。それに対して倍率方式とは、路線価が定められていない地域で主に用いられている方法で、地域ごとに定められた倍率を固定資産税評価額に乗じることによって評価します。

路線価方式で用いる路線価や、倍率方式で用いる倍率は、国税庁のホームページ(※)から確認できます。

実勢価格

実勢価格は、その不動産を実際に売買する際にいくらになるのかを想定して計算する価格です。国土交通省の提供する「不動産情報ライブラリ(※)」を閲覧したり、不動産会社に査定を依頼したりすることで目安をチェックできますが、必ずしもその価格の通りになるとは限りません。

公示価格

公示価格とは、不動産鑑定士の評価額をもとに国土交通省が公表している土地の価格です(※)。公示価格は実際に取引をする価格ではなく、土地の形状や取引する人の事情といった細かな状況が加味されないため、実勢価格よりも低くなる傾向にあります。

固定資産税評価額

固定資産税評価額は、不動産に関連する税金を計算するために設けられた基準となる価格であり、各自治体の担当者が1つずつ個別に決めるものです。土地の場合は属する地域や面積・形状、建物の場合は家の規模や築年数・構造などを考慮して決定されます。

4.不動産相続の際に必要な費用

不動産を相続する際に必要な費用について、その種類や金額の目安を紹介します。誰がいくら払うことになるのかイメージしておきましょう。

相続税

被相続人の財産を相続人が受け継いだ際に発生するのが相続税です。不動産はもちろん、預貯金や株式、車など、全ての財産がその対象となります。

相続税には課税対象となる金額から差し引くことのできる基礎控除があり、基礎控除額を超えている場合に相続税が課税されます。基礎控除額の計算方法は以下の通りです。

相続税の基礎控除額 = 3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数(※)

登録免許税

登録免許税とは、登記の申請や登録を受ける際などに国に納める税金です。不動産を購入した際の登記や国家資格の登録といったさまざまなものに対して課税されますが、不動産の相続登記を行う際もこの税金が課されます。

不動産の相続登記に必要な登録免許税の金額は、以下のように計算します。

登録免許税の金額 = 土地と建物の固定資産税評価額 × 1000分の4(※)

計算に使用する固定資産税評価額は、市区町村から送られてくる「固定資産税の納税通知書」で確認できます。

不動産取得税

相続人が不動産を取得(相続)した場合は、不動産取得税は課税されません。

ただし、孫や第三者が特定遺贈で不動産を取得した場合は、不動産取得税が課税されます。

その他

相続登記を行うためには、役所で登記事項証明書、戸籍謄本、住民票といった書類を取得するための手数料や、法務局に書類を郵送するための費用がかかります。

また、相続登記を司法書士に依頼したり、税理士に相続税に関する相談をしたりする場合は、それに伴う費用も必要です。

5.不動産相続の際に用意が必要な書類

相続登記の際に必要な書類は、遺産分割協議の場合、法定相続分の相続の場合、遺言書がある場合といったパターンによっても異なります。多くの書類が必要となるため、相続するとわかった段階で早めに集め始めることをおすすめします(※1)。

なお、登記の申請では基本的に原本を使いますが、登記の手続きを行っている間に別件の登記を行いたい場合に、原本を返してほしいと考えることもあるでしょう。その際は、申請者が原本のコピーを取り、そのコピーに「原本に相違ない」という旨を記載して署名することで、原本の返還を請求することが可能です(※2)。

法定相続証明情報制度とは

法定相続証明情報制度(※)は、相続手続きをする際に用いる制度で、手続きの負担を軽減する目的で設けられました。

相続手続きを行う上では、被相続人の全ての戸籍謄本を集めて相続人を確定する必要がありますが、以前はその戸籍謄本の束を持ち運び、さまざまな申請窓口に何度も提出しなくてはなりませんでした。

法定相続情報証明制度とは、「法定相続情報一覧図」によって法定相続人が誰なのか証明することを認める制度です。これにより、戸籍謄本の束を持ち歩く必要がなくなります。

法定相続情報証明制度を利用するためには、申出書に記入し、登記所で手続きを行います。また、法定相続情報一覧図を自分で作成する他、以下の書類も用意する必要があります。

6.不動産の種類別の注意点

不動産を相続する際はどのような点に気をつければいいのでしょうか。土地、一戸建て、マンションといったケース別に注意点を紹介します。

土地のみを相続するケース

特定の相続人が他の相続人に対して代償金を支払う代償分割では、土地の価格がいくらであるのかを把握します。代償分割では原則として分割時点での時価を使用しますが、土地の価格は変動するため、将来的な価格変動も考慮しながら話し合いを進めるといいでしょう。「話し合いが長引いて、当初想定していたよりも高額の代償金を支払うことになってしまった」といったことにならないように注意が必要です。

一戸建てを相続するケース

相続した一戸建てを空き家にすると、「特定空家等(※)」に指定されるリスクがあります。特定空家等とは、放置することで倒壊や景観破壊などの恐れがあるもので、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(通称:空家等対策特別措置法)によって規定される空き家のことです。

空き家に調査が入り特定空家に指定されると、助言・指導などが行われます。さらに、自治体から改善するよう勧告を受けると、固定資産税の優遇措置が適用されなくなるため、固定資産税の金額が最大6倍に増加してしまう可能性があります。すぐに使う予定のない空き家を相続した場合は、今後どうするのか早めに考え始めるといいでしょう。

マンションを相続するケース

マンションを相続してそこに住む予定がない方は、賃貸として貸し出すことで家賃収入を得られます。しかし、築年数や立地によっては入居者が決まらず、家賃収入が得られないままに管理費や修繕積立金などの支払いを行わなくてはならない可能性がある点に注意しましょう。

7.生前贈与における贈与税の控除

財産を所有している人が生きている間に財産を贈与することを「生前贈与」といいます。不動産の所有者で、不動産を相続してもらいたい人が決まっている場合には、生前贈与を行うのも一つの選択肢です。

生前贈与を行う際に利用できる各種控除について解説します。

暦年課税の基礎控除

1月1日〜12月31日の1年間に行った贈与の合計額が110万円以下であれば、贈与税(※)がかかりません。

配偶者控除

夫婦の間で居住用の不動産を贈与した際は、上記の基礎控除110万円に加えて、最高2000万円まで控除されます。この制度を利用するためには、夫婦の婚姻期間が20年を経過した後に贈与が行われたことや、規定の書類を添付して贈与税の申告をすることなどが条件として挙げられています。

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母・祖父母などから、18歳以上の子・孫などに対して財産を贈与した場合に利用できる制度です。規定の書類を添付した上で、翌年の2月1日〜3月15日に贈与税の申告を行います。

8.まとめ

不動産を相続する際は、分割方法の決定や相続登記、税金の支払いなど、多くの対処するべき課題が発生します。特に、財産が多いケースや遺言書がないケースに関しては、状況が複雑化して協議が長引くことも少なくありません。不動産を所有する方や今後相続することになる方は、事前に相続について学び、万が一のために準備しておくことをおすすめします。

遺産からの寄付の方法や注意点などをご説明した資料をご用意しています。

パンフレットに掲載されている内容は以下の通りです。(一部)

  • 国境なき医師団とは?
  • 遺贈寄付までの流れ
  • 公正証書遺言とその作り方
  • 自筆証書遺言とその書き方
  • 遺贈Q&A

9.遺贈寄付に関するご相談

遺贈寄付の手続きは、誰にとってもはじめての体験。でも、相談できる人が身近にいない、という声も聞かれます。「国境なき医師団遺贈寄付ご相談窓口」には、幅広い知識と経験豊富な専任のスタッフがいます。遺言書の書き方から手続き上のことまで、遺贈のことなら何でも、お気軽にご相談ください。

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監修者情報

三浦 美樹 司法書士 (一社)日本承継寄付協会新規ウィンドウで開く 代表理事 司法書士法人東京さくら新規ウィンドウで開く 代表

司法書士開業当初から、相続の専門家として多くの相続の支援を行う。誰もが最後の想いを残せる少額からの遺贈寄付にも力をいれている。

平成19年 司法書士試験合格
平成23年 チェスター司法書士事務所を開業
平成29年 さくら本郷司法書士事務所に名称変更
令和元年 一般社団法人承継寄付協会設立 代表理事就任
令和2年 司法書士法人東京さくらとして法人化