相続とは?範囲・順位・手続きなど知っておきたい基本を解説

更新日:2025年6月2日
監修者:庄田和樹(司法書士・土地家屋調査士・行政書士 司法書士法人 土地家屋調査士法人 行政書士法人 神楽坂法務合同事務所 代表 株式会社 遺言執行社 代表取締役)|脇坂誠也 認定NPO法人NPO会計税務専門家ネットワーク理事長(脇坂税務会計事務所 所長)

相続とは、亡くなった人の財産を引き継ぐことです。スムーズに相続を行うためには、さまざまな制度を把握しながら手続きを行うことが大切です。今回は相続の基礎知識についてわかりやすく解説します。

目次

遺産からの寄付の方法や注意点などをご説明した資料をご用意しています。

パンフレットに掲載されている内容は以下の通りです。(一部)

  • 国境なき医師団とは?
  • 遺贈寄付までの流れ
  • 公正証書遺言とその作り方
  • 自筆証書遺言とその書き方
  • 遺贈Q&A

1.相続とは

相続とは、ある人が亡くなった際に、その人の財産を家族などの特定の人が引き継ぐことです。亡くなった人のことを「被相続人」、財産を引き継ぐ人を「相続人」といいます。

相続はトラブルが起こりやすい

被相続人が遺言書を遺さなかったり、遺産分割協議で話がまとまらなかったりすると、関係者間でトラブルに発展することもあります。

2021年の調査によれば、相続に関して裁判所で調停もしくは審判を行った件数を遺産の価額別に表すと、以下のようになります。

1000万円以下の相続も2279件と多いため、財産が少ないからといってトラブルが生じないというわけではないことがわかります。「うちの家族は大丈夫」と軽く考えず、事前にできる対策は行っておくことが望ましいでしょう。

2.相続の対象となる財産・遺産

相続の対象となる財産にはどのようなものがあるのでしょうか。相続の対象となるもの・そうでないものについて整理してみましょう。

プラスの財産(遺産)からマイナスの財産(遺産)までが対象

財産というと、現金や預金・不動産など、一般的に価値があるとされるものを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、これらプラスの財産(遺産)だけではなく、マイナスの財産(遺産)も相続の対象となります。このような相続の制度を「包括承継」といいます。

プラスの遺産・マイナスの遺産の主な例は以下の通りです。

相続の対象とならない財産(遺産)もある

以下に関しては相続の対象とはなりません。

国家資格や生活保護受給権は「一身専属権」といい、その個人などに帰属し、他者に譲渡できない性質があります。例えば、自身が税理士の資格を持っているからといって、子どもが税理士の資格を引き継げるわけではありません。

また、上述の墓地、墓石、仏壇、位牌は「祭祀財産」といい、民法(第897条)では、その継承については「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する(※)」となっています。よって相続財産ではない扱いとなり、遺産として分割したり、その分の相続税を支払ったりする必要はありません。

以下に関しては、相続財産には含まれないものの相続税の対象となる財産です。

これらは被相続人が持っていた財産ではありませんが、亡くなるタイミングで家族が受け取れるお金です。このようなお金は「みなし相続財産」と呼ばれ、現金や不動産といった通常の遺産と同じように相続税が発生します(※1)。
なお、課税対象となるのは、相続人が受け取った保険金や退職金の合計額が、それぞれ500万円×法定相続人の数で計算される非課税限度額を超えた部分のみです(※2、※3)。

3.相続人の範囲と相続順位

原則として遺産を受け取るのは法定相続人と受遺者(じゅいしゃ)です。

被相続人が遺言書を遺していた場合とそうでない場合について、相続方法をケース別に紹介します。

遺言書があれば、遺言書の内容が優先される

遺言書は被相続人の遺志を伝えるために作成するものであり、法的効力のある重要な書類です。遺言書があれば、法定相続人とその割合は関係なく、原則として遺言内容に従って相続を行います。

また、遺言書で遺産の受取人に家族以外の人や団体を指定することもできます。例えば「お世話になった人に財産を残したい」「自分の興味のある活動団体を支援したい」といったケースです。

遺言書がなければ、法定相続人が受け取る

遺言書がなければ、民法で定められている法定相続人が、遺産分割協議によって誰がどの財産をどれだけ相続するかを決め、受け取ります。

死亡した人の配偶者は常に相続人となり、それ以外の人は以下の優先順位通りに相続人になります。

第1順位
死亡した人の子どもおよびその代襲相続人
第2順位
死亡した人の直系尊属(父母・祖父母など。なお、親等の異なる者の間では、その近い者が優先される)
第3順位
死亡した人の兄弟姉妹およびその代襲相続人

例えば、被相続人に子どもがいれば第1順位である子どもが相続人になり、それ以下の順位の人は相続人になりません。子どもが先に亡くなっている場合には孫に、そもそも子どもがいなければ第2順位である被相続人の父母・祖父母などが相続人になります。

これらの法定相続人は、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を見て把握することになります。

法定相続人が亡くなっている場合

相続権のある人が被相続人より先に亡くなっている場合は、その直系卑属(子や孫など)が相続権を引き継ぎます。このような方法によって相続する人を「代襲相続人」と呼びます。

被相続人に子どもがいたが被相続人より先に亡くなっているケースでは、代わりに孫が代襲相続人になります。被相続人の兄弟姉妹が亡くなっている場合は、甥や姪が代襲相続人になります。

孫も亡くなっていた場合は曾孫など直系卑属に代襲相続が引き継がれますが、兄弟姉妹の場合は甥や姪までとなります。また、被相続人の子や兄弟姉妹が相続放棄をしていた場合には、代襲相続は生じないことになります。

他の相続人が代襲相続人の制度を知らず、本来なら代襲相続人になるはずの人がいたにもかかわらず、その存在を考慮せずに遺産分割をしてしまったという事例もあります。遺産分割協議には相続人全員の同意が必要になるため、相続人の調査は慎重に行うことが大切です。

4.相続割合

相続の割合については、相続人と同じく遺言書の内容が優先されます。

遺言書がない場合や、遺言書に記載がなかった遺産については、相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。協議で決まらなければ、家庭裁判所で調停もしくは審判を行います。

法定相続分

遺言書がない場合、各相続人が相続する割合は遺産分割会議で決められますが、その際に目安とされるのが民法で定められている割合である「法定相続分」です。

<配偶者と子どもが相続人の場合>
配偶者に1/2、子どもに1/2
子どもが複数人いれば、1/2をさらに均等に分ける

<子どもだけが相続人の場合>
子どもの人数で均等に分ける

<配偶者と親が相続人の場合>
配偶者に2/3、親に1/3
親が2人なら、1/3をさらに均等に分ける

<配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合>
配偶者に3/4、兄弟姉妹に1/4
兄弟姉妹が複数人いれば、1/4をさらに均等に分ける

なお、この法定相続分は遺産分割をする際の一応の目安であり、必ずこれに従わなければならないというわけではありません。遺産分割協議で相続人全員が同意すれば、これ以外の割合で遺産を分けても構いません。

遺言書があっても遺留分は請求できる

遺言書では「遺産の全てを孫に相続させる」といった内容を書くことも可能です。しかし、本来なら遺産を受け取れるはずだった家族が不満に思ったり、生活に支障をきたしたりする可能性もあります。

そこで、配偶者など規定の家族には、最低限の取り分である「遺留分」が認められています。遺留分を認められている相続人は以下の通りです。

兄弟姉妹の遺留分は認められていません。

遺留分を侵害する遺言書を書くことも可能ですが、遺留分を侵害された相続人は遺留分を請求することが認められています。話し合いによって解決しなければ、家庭裁判所で「遺留分侵害額の請求調停」を申し立てます(※)。

5.相続税と基礎控除額

相続税を考える上では、遺産の金額を調べるとともに、相続税が発生するかどうかも確認する必要があります。相続税を計算する際のポイントについて紹介します。

基礎控除額とは

相続税の基礎控除額とは、課税価格の合計額(正味の遺産額)から差し引くことで、税負担を抑えられる制度です。基礎控除額は以下のように計算します。

3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 = 基礎控除額

課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いた金額が、相続税の課税対象となる遺産です。

課税価格の合計額 − 基礎控除額 = 課税遺産総額

つまり、課税価格の合計額(正味の遺産額)が基礎控除額より少なければ、相続人は相続税の申告と納税が不要になります。

課税価格とは

そもそも「課税価格」は、相続人が受け取った遺産の価格に死亡保険金や死亡退職金といった「みなし財産」を足して、借金や未払金などの負債を差し引くなどして求めた金額です。計算式にして表すと、以下のようになります。

相続または遺贈により取得した財産の価額 + みなし相続等により取得した財産の価額 −非課税財産の価額 + 相続時精算課税適用財産の価額 − 債務および葬式費用の額=純資産価額

また、相続開始前(被相続人の死亡前)の3~7年間(※1)で生前贈与された財産があれば、こちらも考慮した上で各相続人の課税価格を求めます。

純資産価額 + 相続開始前3年~7年(※2)以内の生前贈与の財産の価額 = 各相続人の課税価格

6.3つの相続承認方法

相続というと「被相続人の財産を全て引き継ぐ」というイメージがありますが、被相続人に借金があることなどを理由に、それ以外の方法を取ることもあります。単純承認、限定承認、相続放棄の3つの方法を紹介します。

全ての財産を相続する単純承認

単純承認とは、被相続人の全ての財産を引き継ぐことです。プラスの財産はもちろん、マイナスの財産も含めて引き継ぐことになります。

単純承認は特別な手続きが不要で、選びやすい方法です。しかし、相続した後に「家族も知らない借金があった」といった事態にならないよう、事前に被相続人の財産を調査することが望ましいでしょう。

マイナスの財産を限定的に相続する限定承認

限定承認とは、被相続人のプラスの財産の分だけマイナスの財産も引き継ぐ方法です。プラスの財産の範囲を超えたマイナスの財産に関しては放棄できます。

例えば「被相続人の自宅を手放したくないものの、借金を全て支払うことはできない」といったケースに用いられます。限定承認を選択するには、相続人全員が同意して指定の書類を揃えた上で、家庭裁判所に申述します(※)。

全ての財産を相続しない相続放棄

相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産もどちらも放棄することをいいます。マイナスの財産が多い時や、プラスの財産でも相続人にとって不要である時などに選択する方法です。

相続放棄は、限定承認と同じく必要書類を揃えて家庭裁判所に申述します。いずれも相続の開始があったことを知った時(通常は被相続人が亡くなった時)から3カ月以内に行うものと定められています(※)。

7.相続に必要な手続き

被相続人が亡くなった後、家族や相続人はさまざまな手続きを行うことになります。必要な手続きとその期限について整理してみましょう。

亡くなってから7日以内に必要な手続き

亡くなってから14日以内に必要な手続き

亡くなってから3カ月以内に必要な手続き

亡くなってから4カ月以内に必要な手続き

10カ月以内に必要な手続き

その他の手続き

以下の手続きには期限が設けられていません。

8.まとめ

相続の際は被相続人が亡くなって慌ただしい中で、遺された方々は複雑な制度について調べながらさまざまな手続きを行うことになります。相続人の方々の精神的負荷も少なくありません。

生前に遺言書を作成したり、財産を整理したりするなどして、いざという時のために準備されることをおすすめします。また「何から始めていいかわからない」という場合には、専門家への相談も検討するといいでしょう。

遺産からの寄付の方法や注意点などをご説明した資料をご用意しています。

パンフレットに掲載されている内容は以下の通りです。(一部)

  • 国境なき医師団とは?
  • 遺贈寄付までの流れ
  • 公正証書遺言とその作り方
  • 自筆証書遺言とその書き方
  • 遺贈Q&A

9.遺贈寄付に関するご相談

遺贈寄付の手続きは、誰にとってもはじめての体験。でも、相談できる人が身近にいない、という声も聞かれます。「国境なき医師団遺贈寄付ご相談窓口」には、幅広い知識と経験豊富な専任のスタッフがいます。遺言書の書き方から手続き上のことまで、遺贈のことなら何でも、お気軽にご相談ください。

お問い合わせ

国境なき医師団 遺贈寄付ご相談窓口

遺贈寄付専任スタッフがお手伝いします。

国境なき医師団には、幅広い知識と相談経験豊富な専任のスタッフがいます。
遺言書の書き方から、手続き上のことまで、遺贈のことなら何でも、お気軽にご相談ください。

監修者情報

庄田和樹 司法書士・土地家屋調査士・行政書士 司法書士法人 土地家屋調査士法人 行政書士法人 神楽坂法務合同事務所 代表 株式会社 遺言執行社 代表取締役

司法書士開業当初から、相続の専門家として多くの相続の支援を行う。誰もが最後の想いを残せる少額からの遺贈寄付にも力をいれている。

信託銀行、司法書士法人勤務を経て独立。司法書士、土地家屋調査士、行政書士として相続等の問題の解決に注力するとともに、株式会社 遺言執行社を設立し、遺言書作成サポート、死後事務委任契約をはじめとする専門的なサービスを提供している。

脇坂誠也 認定NPO法人NPO会計税務専門家ネットワーク 新規ウィンドウで開く 理事長 脇坂税務会計事務所 所長

会計税務を通してNPOの健全な発展に寄与することを目指し、NPOの会計税務及びその周辺の情報、知識、ノウハウの発信にも力を入れている。