遺産の相続人とは? 法定相続人との違い、相続順位や範囲、確認方法を紹介

更新日:2025年6月18日
監修者:庄田和樹(司法書士・土地家屋調査士・行政書士 司法書士法人 土地家屋調査士法人 行政書士法人 神楽坂法務合同事務所 代表 株式会社 遺言執行社 代表取締役)

財産を持つ方が亡くなると、遺言書の内容や民法で定められた方法に基づいて遺産の行方が決まります。遺産の相続順位や法定相続人の範囲などについてわかりやすく解説します。

目次

遺産からの寄付の方法や注意点などをご説明した資料をご用意しています。

パンフレットに掲載されている内容は以下の通りです。(一部)

  • 国境なき医師団とは?
  • 遺贈寄付までの流れ
  • 公正証書遺言とその作り方
  • 自筆証書遺言とその書き方
  • 遺贈Q&A

1. 遺産の相続人とは?

民法に定める相続権がある人(=法定相続人)で、かつ、亡くなった人(被相続人)から財産を実際に受け取った人のことを「相続人」といいます。民法によって相続人になる人の優先順位や遺産を引き継ぐ割合などが定められています(法定相続分)が、これは相続人の間で遺産分割の合意ができなかった時の遺産の持分の目安であり、必ずこの相続分で遺産の分割をしなければならないわけではありません。ただし、被相続人が遺言書を遺していれば、その内容が法定相続分よりも優先されます。

受遺者との違い

遺言書によって特定の人に遺産を渡すことを「遺贈(いぞう)」、遺贈を行う人を「遺贈者(いぞうしゃ)」といいます。反対に、遺贈を受ける人のことを「受遺者(じゅいしゃ)」といいます。

例えば、遺言書に「○○にA銀行の預金全てを遺贈する」といった内容の記載があった場合、この時A銀行の預金を受け取ることになる人が受遺者に該当します。

法定相続人との違い

法定相続人は、民法の定める相続権を持つ人です。民法では相続人になれる人の範囲や遺産をもらえる割合について定められています。

相続人は「実際に財産を相続する人」、法定相続人は「民法で定められた規定に基づき、被相続人の財産を相続する権利を持つ人」であるといえます。

2. 法定相続人の範囲

法定相続人の範囲について解説します。

配偶者について

被相続人の配偶者は、次項で紹介する相続順位にかかわらず、常に法定相続人になります(※)。ただし、事実婚など婚姻届を提出していない関係性であれば法定相続人とはなりません。

相続順位

配偶者以外の法定相続人は、被相続人との血縁関係によって順位が決まっています。

まとめると、以下の順に法定相続人になります。

第1順位〜第3順位に関しては、上位の順位の人が優先して法定相続人になるため、それよりも下位の人には相続権が与えられません。例えば、被相続人に第1順位である子どもがいる場合、第2順位の親は相続する権利がないということになります。

また、相続人が亡くなっているためにその子どもが代わりに相続することを「代襲相続」といいます。代襲相続の具体例については本記事でも後述します

親類であっても相続権がない人とは?

被相続人の親類であっても、前項で紹介した法定相続人に該当しなければ、基本的には遺産を受け取れません。具体的には以下のような人が挙げられます。

これらの人については、遺言書に記載がない限り、原則として遺産を受け取れません。生前、被相続人と親しい関係にあったり、生活や仕事の手助けをしていたりしても、被相続人の財産は受け取れない点に注意が必要です。

しかし「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族」は、一定の要件を満たすことで相続人に「特別寄与料」を請求することもできます(※1)。例えば、被相続人の息子の配偶者が介護や看護に尽力していたといったケースです。

特別寄与料については、相続人と直接交渉を行うか、もしくは家庭裁判所に「特別の寄与に関する処分調停」を申し立てることで受け取れる可能性があります(※2)。

3. 法定相続人でも相続権がないケース

法定相続人であっても、次の例に該当する場合は遺産を受け取れません。

相続人の欠格事由に該当する場合

以下の人は民法で定める「相続人の欠格事由」に該当するため、配偶者や子どもであっても法定相続人となることができません。

相続においては、被相続人の意思を尊重することが重視されています。上記のような行為によって被相続人の意思を無視したり、自らが得をするために法律に触れるような行いをしたりした場合、その人は相続する権利を失います。

推定相続人の廃除によって相続権を剥奪された場合

「推定相続人の廃除」とは、被相続人の申し立てによって推定相続人(相続が開始された場合に相続人となるべき人)から相続権を剥奪する制度です。以下の条件に該当する際は、推定相続人の廃除ができる可能性があります。

例えば、子どもが高齢の被相続人に対して手を上げていたために「この子に遺産を渡したくない」と感じるといったケースです。

推定相続人の廃除は、家庭裁判所に規定の書類を提出することによって請求できます(※2)。ただし、廃除できるのは遺留分のある配偶者と第1順位の子ども、第2順位の直系尊属に限られます。第3順位の兄弟姉妹に関しては遺言書にて相続させない旨を記載すれば相続させないことができます。また廃除の申し立てや遺言による廃除ができるのは被相続人本人のみとなります。

相続放棄した場合

遺産を相続する権利があっても、相続放棄をするケースがあります。相続する財産には、現金や不動産など一般的に価値のあるとされる「プラスの財産」だけではなく、借金や未払金といった「マイナスの財産」も含まれます。マイナスの財産だけを相続放棄することはできないため、相続人が遺産を相続することにメリットを感じなければ、相続を放棄することも選択肢に入ります。

相続放棄をする場合、相続の開始があったことを知った時(原則として被相続人が亡くなった時)から3カ月以内に家庭裁判所で手続きを行います(※)。

相続順位が同順位であれば、複数の相続人がまとめて相続放棄をすることもできます。例えば、被相続人の遺した古い建物を誰も受け取りたがらない場合、被相続人の子どもたちが同時に相続放棄をして、手続きの負担を減らす方法があります。

ただし、異なる相続順位の人がまとめて相続放棄をすることはできません。上位の相続人全員が相続放棄を行ってから手続きを行い、受理されてから次の順位の相続人が改めて手続きを行うことになります。

4. 相続割合の例

法定相続人が複数いる場合には、その相続割合である「法定相続分」が民法で定められています。よくある相続割合の例をケース別に紹介します。

配偶者と子どもの場合

被相続人の配偶者と子どもの場合、以下の割合で遺産を分割します。

例えば、被相続人の配偶者と子ども1人だとすると、1/2ずつ遺産を相続することになります。このケースでは、被相続人の孫や両親、兄弟姉妹などは相続人になりません。

また、被相続人の子どもが複数人いる場合には、1/2をさらに等分します。例えば、子どもが2人であれば、子どもが受け取れる遺産の割合は全体の1/4ずつになります。

もし被相続人の配偶者がすでに亡くなっていれば、子どもが遺産を分けます。子どもが2人であれば全体の1/2ずつ、子どもが3人であれば1/3ずつの割合で受け取ることになります。

配偶者と親、兄弟姉妹の場合

相続人が配偶者と親もしくは兄弟姉妹の場合は、以下のように遺産を分割します。

被相続人に子どもや孫といった直系卑属がいない時、もしくはその全員が相続放棄をした時は、第2順位の直系尊属が相続人になります。さらに、第2順位の人もいない、もしくはその全員が相続放棄をした場合には、第3順位の兄弟姉妹が相続人になります。

第1順位の子どもと比べて直系尊属や兄弟姉妹は順位が低く、受け取れる遺産の割合も低く設定されています。

代襲相続する場合

被相続人が亡くなった時に、配偶者・孫・両親が存命で、かつ子どもがすでに亡くなっている場合は、以下の割合で相続します。

孫は亡くなっている子どもに代わって遺産を受け取ります。第1順位の子どもの代わりとして相続人になるため、第2順位である被相続人の両親は相続人になりません。

このように、本来なら相続人になるはずの人が亡くなっている場合に、その直系卑属が代わりに相続することを「代襲相続」といいます。代わりに相続する人のことを「代襲相続人」もしくは「代襲者」といいます。上記の例は、被相続人の亡くなった子どもの代わりに、孫が代襲相続人になったケースです。

5. 相続人や受遺者の確認・手続き方法

自身の死後、相続が開始されるとどのような手続きが行われるのでしょうか。相続人などが行う具体的な手続きについて紹介します。

遺言書の捜索・検認

被相続人が亡くなると、自宅などに遺言書がないか、遺された家族が探すことになります。銀行の貸金庫に入れたり、弁護士や税理士などの専門家に預けたりするケースもあるため、確認すべき場所は多岐にわたります。遺言書の作成・保管方法によっては、家庭裁判所で遺言書の開封やチェックを行う「検認」(「検認」のコラム公開後にリンク)と呼ばれる手続きが必要になるケースもあります(※1)。

このように、状況に応じて家族が各機関などで手続きを行うことになります。作成・保管方法によっては家族に負担をかける可能性があるので、注意が必要です。

なお、法務局で遺言書を保管する「自筆証書遺言書保管制度」を利用すると、被相続人が亡くなった後、相続人に遺言書が保管されている旨が通知できるので便利です(※2)。

戸籍謄本を確認する

前項で紹介した遺言書の捜索・検認と並行して、遺産を受け取る可能性のある人(法定相続人)を調べる作業も行います。具体的には、被相続人が生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍謄本と、相続人全員の戸籍謄本を取得する必要があります。

「家族は配偶者や子どもだけだから、調べる必要はない」と思う人もいるかもしれません。しかし、認知していた子がいたり、前の配偶者との間に子がいたりと、思わぬ法定相続人が出てくるケースもあります。「遺産の分割方法を決め終わったのに、後になって他にも法定相続人がいることが発覚した」といったことにならないよう、あらかじめ相続権のある人を調べて把握しておくことが必要です。

被相続人の戸籍を確認して新たな相続人が見つかったら、法定相続人はその相続人に連絡することになります。これまでに関わりのなかった人や、行方不明になっている人であっても同様です。

6. よくある質問

遺産を相続するにあたってよく寄せられる疑問点をQ&A形式で紹介します。

Q. 養子は相続人になれますか?

A. 養子は基本的に実子と同じ扱いになるため、遺産の相続人になれます。

養親と実親両方の親族関係を継続する普通養子であれば、養親・実親の両方の相続人になれる可能性があります。実親との親族関係が途絶える特別養子の場合、実親の相続人にはなれません。

法定相続人の数が増えると相続税の節税効果があることから、積極的に養子を検討する人もいます。民法上は養子縁組をする人数の制限はありませんが、相続税の計算をする上で人数に関する制限が設けられている点に注意が必要です。相続税法では、被相続人に実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までが養子として認められています。

Q.未成年は相続人になれますか?

A. 被相続人に未成年の子どもがいると、代わりに法律行為を行う代理人が必要です。通常は子どもの親が代理人(法定代理人)になりますが、親(被相続人にとっての配偶者)と子どもがどちらも相続人であると、利益が相反することが考えられます。親が子どもに隠してより多くの遺産を受け取るなど、不正を働くケースもあるかもしれません。

そのため、親と未成年の子どもの両方が相続人の場合、特別代理人が必要になり家庭裁判所にその選任を申し立てます。選ばれた特別代理人は、未成年の子どもの代わりに遺産分割協議に参加し、子どもの利益を守ります。ただし、親が相続人でない場合、親が相続放棄した場合、遺産分割協議を行わず法定相続分に則り相続する場合は、特別代理人の選任は不要となります。

Q. 胎児は相続人になれますか?

A. 民法上はでは出生前の胎児は「人」として認められていませんが(民法第3条1項)、相続について、胎児は民法上「既に生まれたものとみなす」ため(民法第886条1項)、胎児も相続人になれます。相続が開始された時点で、被相続人に子どもや孫、兄弟姉妹となる胎児がいたケースです。

なお、胎児が相続人になれるのは、その後無事に生まれた場合のみです。胎児が残念ながら亡くなった状態で生まれた場合は、相続人となりません(※)。

Q. 相続人が行方不明の場合はどうなりますか?

A.遺産の分割方法を協議する際は法定相続人全員で行わなければいけないという決まりがあり、相続人全員の同意が得られない遺産分割協議は無効になります。そのため、相続人が行方不明の場合は戸籍から住所を探して手紙を出したり、直接訪ねたりして接触を試みます。

どうしても連絡がつかなければ、家庭裁判所に「不在者財産管理人選任」の申し立てを行います。選任された不在者財産管理人は、家庭裁判所の許可を得た上で行方不明の相続人の代わりに遺産分割協議に参加し、不動産の売却なども行います(※)。

また、弁護士などの専門家に相談して、行方不明の相続人への対処を依頼することもあります。

Q. 遺言書を用意せず、相続人もいない場合はどうなりますか?

A. 被相続人が遺言書を用意せず、遺産を相続する人もいない場合は、家庭裁判所が相続財産清算人の選任を行います。

相続財産清算人が選任されたことを知らせるための公告、及び相続人を捜索するための公告などを行い、定められた期間を経過しても相続人が現れなければ「相続人の不存在」と認められ、遺産は国庫に帰属します(※)。

7. まとめ

相続人の範囲や相続割合については民法で細かく定められているため、個々の状況に応じてその後の対応は異なります。ただし、被相続人の意思は重視すべきと考えられているため、遺言書が作成されている場合には、相続順位などにかかわらず基本的に記載した内容で遺産を渡すことが可能です。

財産や家族の状況、遺言書の作成方法によっては、遺された家族に大きな負担をかけるケースもあります。また、遺言書がなく相続人がいない場合には、自らの財産が国庫に帰属する可能性があります。いざという時のために、自分の財産の行方について考え、遺言書を用意されることをおすすめします。

遺産からの寄付の方法や注意点などをご説明した資料をご用意しています。

パンフレットに掲載されている内容は以下の通りです。(一部)

  • 国境なき医師団とは?
  • 遺贈寄付までの流れ
  • 公正証書遺言とその作り方
  • 自筆証書遺言とその書き方
  • 遺贈Q&A

8. 遺贈寄付に関するご相談

遺贈寄付の手続きは、誰にとってもはじめての体験。でも、相談できる人が身近にいない、という声も聞かれます。「国境なき医師団遺贈寄付ご相談窓口」には、幅広い知識と経験豊富な専任のスタッフがいます。遺言書の書き方から手続き上のことまで、遺贈のことなら何でも、お気軽にご相談ください。

お問い合わせ

国境なき医師団 遺贈寄付ご相談窓口

遺贈寄付専任スタッフがお手伝いします。

国境なき医師団には、幅広い知識と相談経験豊富な専任のスタッフがいます。
遺言書の書き方から、手続き上のことまで、遺贈のことなら何でも、お気軽にご相談ください。

監修者情報

庄田和樹 司法書士・土地家屋調査士・行政書士 司法書士法人 土地家屋調査士法人 行政書士法人 神楽坂法務合同事務所 代表 株式会社 遺言執行社 代表取締役

信託銀行、司法書士法人勤務を経て独立。司法書士、土地家屋調査士、行政書士として相続等の問題の解決に注力するとともに、株式会社 遺言執行社を設立し、遺言書作成サポート、死後事務委任契約をはじめとする専門的なサービスを提供している。