海外派遣スタッフ体験談

紛争地で人びとの豊かな感情に触れた

2019年08月13日

滝上 隆一

職種
外科医
活動地
イエメン
活動期間
2019年4月~6月

離島の病院で勤務中。県職員なので、MSFの活動を「研修」としてもらうことで、特別研修として活動に参加しました。イエメンのプロジェクトは今回が3回目です。

紛争地で患者さんを診ること

銃で撃たれた患者さんの手術にあたる滝上隆一外科医<br>  © Agnes Varraine-Leca/MSF
銃で撃たれた患者さんの手術にあたる滝上隆一外科医
 © Agnes Varraine-Leca/MSF
紛争が続くイエメン、ホデイダの病院での活動で、外科医として手術、外来、病棟回診や救急室からのコンサルト、病院スタッフのトレーニングと評価やリクルート活動にも携わりました。
 
想像していたより戦況は落ち着いていましたが、銃声や爆撃の音は毎日聞こえていて、銃弾が病院に飛んできたこともありました。時間が経つにつれて感覚が麻痺してくるのか、自分たちがそういう状況にいることを忘れてしまうことがあります。毎朝のミーティングで治安情勢の話もあったので、この状況に慣れないよう気を引き締めていました。
 
バイクの運転中に事故に遭った青年は、脳挫傷とひ臓・すい臓の損傷、大量出血で心肺停止寸前でした。手術と同時進行で、病院スタッフ皆で術後の脳管理のマネジメントについて話し合い、腹腔内手術後にすぐに後方支援の病院に安全に搬送できました。紛争地域でも、マネジメントをしっかりやれば患者さんを失わずにすむと感じた出来事でした。 

痛みに耐え前向きに生きる患者さん

胸部銃創の少女と退院前に<br> Tシャツと帽子のデザインが一緒で盛り上がった © MSF
胸部銃創の少女と退院前に
Tシャツと帽子のデザインが一緒で盛り上がった © MSF
病院では、交通事故や高いところからの転落、紛争による外傷の患者さんを多く診ました。胸部を撃たれた女の子は、手術室ではいつもふくれ面をしていましたが、涙も流さず心を強くもって頑張っていました。ディズニーのキャラクターが好きな少女でした。背中から撃たれた男の子は大血管損傷で、手術中は助かるかどうかのギリギリでしたが、耐えてくれて、術後は家族が熱心にリハビリについていました。
 
車の事故で搬送された母娘は、お母さんは残念ながら助からず、娘は手術で一命を取り留めました。母を失ってしばらくリハビリにも後ろ向きでしたが、病棟スタッフの熱心なサポートで、だんだんと前向きに取り組めるようになっていきました。
 
そして、何度も手術を受け、痛い患部の洗浄にも耐えていた患者さんたち。自分がいた期間は断食月のラマダンで、夕方の回診に行くとちょうど食事の時間で、いつも食べ物を分けてくれました。 

アラビア語で挨拶を

回診で患者さんのようすをみる<br> © Agnes Varraine-Leca/MSF
回診で患者さんのようすをみる
© Agnes Varraine-Leca/MSF
活動するなかで、だんだんとアラビア語の雰囲気がわかるようになってきました。もっと理解できれば患者さんとよりコミュニケーションが取れると思います。一方で、言葉以外で必死にコミュニケーションを取ろうとする姿が、患者さんやご家族との信頼関係を作っているようにも感じました。しゃべればいい、というわけでもないのだと思います。
 
現地の通訳スタッフが時間のあるときにアラビア語を教えてくれたおかげで、活動終了時には、スタッフの前でそこそこの長いアラビア語で、こんな挨拶ができました。
 
「皆さんの親切や協調性、献身的な姿に深く感謝します。早くこの国に平和が訪れることを祈っています。いつか皆さんが日本に来て、僕と一緒にトヨタの車でドライブし、スシを食べにいけることを楽しみにしています!健康に気をつけて、さようなら」
 
英語でのコミュニケーションも、ネイティブではないし英語文化で育ってもいないので、わからないことも当然あります。わからない、と伝えることで、特に問題にはなりませんでした。 

人の心に触れ、支えられる

日本の同僚から送られた手術帽は気持ちの支えにもなった<br> © Agnes Varraine-Leca/MSF
日本の同僚から送られた手術帽は気持ちの支えにもなった
© Agnes Varraine-Leca/MSF
今回の参加に際し、日本で勤務している病院のスタッフさんから、手術帽子やTシャツをいただきました。現場では毎日身につけていて、背中を押してもらっているような気がしました。特に帽子は、手術の前に紐をギュッと結ぶことで、これから手術に入る気持ちの準備ができました。実用的で、精神的な支えにもしていました。
 
現地では、いろいろな人から、イエメンのために遠くから来てくれてありがとう、と言ってもらいました。現地の手術室看護師さんからは、イエメン人と結婚してずっとこの国にいて!とも言われました。イエメンが日本のように平和で豊かな国になるまで自分は生きていないだろうが、子どもや孫には平和に生活してほしい、と言う患者さんもいました。
 
自分の手術で救える命がある、というやりがいとともに、貧しく、厳しい状況のなかでも相手を思いやる気持ちや優しさ、豊かな感情があり、それに触れることができました。 
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