海外派遣スタッフ体験談

産科フィスチュラの名医・ババジーとの出会い

2019年04月23日

空野 すみれ

職種
産婦人科医
活動地
ナイジェリア
活動期間
2018年11月~12月

高校時代からの夢だった国境なき医師団(MSF)に参加するため、勤務先を退職。現在はフリーランスの医師として活動。初回の南スーダンに続き、今回が2回目の活動。MSFでの活動は、日本で経験する以上の成長に繋がると感じている。

先進国では珍しい病気「産科フィスチュラ」

同僚と共に © Sumire Sorano/MSF
同僚と共に © Sumire Sorano/MSF
ナイジェリア北部のジャフン病院で、産婦人科と新生児病棟を支援しました。毎月600~700件弱の分娩を取り扱い、子宮破裂や子癇など、重症な合併症が多かったです。特に子癇の妊婦さんは、いつも同時に3~4人いるような感じでした。重症貧血の妊婦さんも多く、心不全に注意しながら輸血するなど、対応も難しかったです。
 
特に貴重な経験だったのは、産科フィスチュラの症例を見たことです。産科フィスチュラとは、長時間分娩が進まず、赤ちゃんの頭が骨盤を圧迫し続けることで、膣やその周りの組織が壊死し、膀胱や直腸と膣が繋がってしまう疾患です。失禁などの症状が起き、社会的な偏見へとつながる場合もあります。先進国では珍しい疾患で、私自身、初めて見たのは前回活動した南スーダンでした。MSFはジャフンのプロジェクトで産科フィスチュラの治療のために専門の医師を年に何度か派遣しています。私も何度も手術を見学させてもらい、対応を学ぶことができました。 

産科フィスチュラの名医・ババジーとの出会い

産科フィスチュラの名医・ババジー(左)と<br>  © Sumire Sorano/MSF
産科フィスチュラの名医・ババジー(左)と
© Sumire Sorano/MSF
今回、地元の人から「ババジー(ババとは現地の言葉で、賢い、年上の男の人、という意味)」の愛称で親しまれている、ベルギー出身の外科医と出会いました。産科フィスチュラの手術やケアの専門知識を持っているMSFの医師です。彼は「医師として途上国の医療支援に携わりたい」と、一年の大半を途上国で活動。ジャフンにも、年2回のペースで毎年訪れ、定期的に産科フィスチュラの患者さんのケアをしていました。
 
ババジーは、技術はもちろん、人柄もとても素晴らしい医師でした。治療してきたことを症例と共にリストにまとめ、「この処置は適切だったのか」と何度も振り返り、次の手術に生かしていました。また、私が担当した難しい症例の手術を喜んで介助してくれました。そのために彼の手術時間が遅れることもありましたが、「フィスチュラの治療より、予防の方が大事だ」と笑っていました。患者さんのこともよく覚えていて、患者さんからもスタッフからも愛されていました。茶目っ気があって辛辣なジョークがたまに飛び出てくる一方、卓球や紙相撲など勝負事になると真剣そのもの!とても素敵な先輩ドクターでした。こうした先輩ドクターと出会い、多くを学べることもMSFの魅力だと思います。 

患者さんの退院式

患者さんにプレゼントが手渡される様子 © Sumire Sorano/MSF
患者さんにプレゼントが手渡される様子 © Sumire Sorano/MSF
滞在中に、産科フィスチュラの患者さんの退院を祝う退院式にも参加できました。年に1回開かれており、既に退院した女性たちも招待し、たくさんの女性たちが参加していました。この式は、退院のお祝いと、産科フィスチュラの啓発活動も兼ねています。患者一人一人が、病院から桶やサンダル、タオルなどのささやかなプレゼントを受け取っていました。まるで卒業式のようでした。とても嬉しそうな彼女たちの笑顔が今も忘れられません。 

成長を感じることができた2ヵ月

エコーを使って妊婦さんを検診中。<br> 帽子は市場で購入した布から手作りしました<br>  © Sumire Sorano/MSF
エコーを使って妊婦さんを検診中。
帽子は市場で購入した布から手作りしました
© Sumire Sorano/MSF
産科フィチュラはすぐに命に関わる病気ではないため、専門の医師によるケアを受けられるのを待っている患者が多くいます。ナイジェリアの医師にケアしてもらうこともありますが、対応が難しい症例は、ババジーのような専門の医師が担います。女性たちは手術をとても楽しみにしていて、手術当日、綺麗にお化粧をして手術室にやってくるのが可愛らしくて印象的でした。
手術中の空野医師(左)© Sumire Sorano/MSF
手術中の空野医師(左)© Sumire Sorano/MSF
今回、ババジーから産科フィスチュラの治療を学ぶ機会を得られて本当に良かったです。フィスチュラの手術を見て、産婦人科にも応用できる手技の知見が広がりました。次に産科フィスチュラの患者さんを診ることがあれば、今回の経験を踏まえて、対応できることも増えたように思います。産婦人科医として新しい研鑽を積むことができました。
 
また、今回の活動で90件を超える手術を経験し、手術も格段に早くなりました。重症患者が多い中、時間が命の明暗を決めることもあるため、医師として、またチームとして成長することは、患者さんを救うことに繋がります。命を救えることは、重い責任の先にある臨床家としての喜びだと改めて思いました。 
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