海外派遣スタッフ体験談

意識の高い現地スタッフと協働し地域へ活動周知:宮家佐知子

2018年03月09日

宮家佐知子

職種
ヘルスプロモーター
活動地
イラク
活動期間
2017年4月~2017年10月

Q国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?

過去2回の派遣(南スーダンナイジェリア)が非常に充実していたので、2回目の派遣終了前には次の派遣先のことを考えていました。

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか?どのような準備をしましたか?

2017年1月初旬にナイジェリアから帰国し、2ヵ月ほどでイラクへ出発となりました。この期間は休息の時間として、家族と遊びに行ったり、友人と食事をしたり、なまった体を鍛えて体力作りに励んだりしていました。

技術面に関しては、公衆衛生・健康教育・質的調査法に関する文献を読み直して、これまでの活動で気づいた課題への取り組みを自分なりに行いました。また、イラクに関する文献を読んで、この国に関する知識を得るように努めました。

Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか?どのような経験が役に立ちましたか?

今回の派遣地の状況は、過去2回の派遣とは異なりますが、これまでのMSFでの活動経験や前職での政府開発援助業務の経験が非常に大きく役立ったと思います。

新規プロジェクトで、健康教育チームの立ち上げから始めたのですが、スーパーバイザーや地域の保健教育スタッフの新規雇用とトレーニングを、過去の経験から自分なりに手順のイメージを持って行うことができました。

また、対象地域の情報収集、IECの活動方針の計画立案、対象地域の人びとに伝えるための主要なメッセージの作成、インタビュー調査の実施、活動で使う資料の作成など、過去の派遣で経験していたことで、スムーズに業務を遂行できたと思います。

Q今回参加した海外派遣はどのようなプロジェクトですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?

プロジェクトのチームメンバーとともに<br> (筆者前列左から3番目)<br>
プロジェクトのチームメンバーとともに
(筆者前列左から3番目)
2017年4月から開始された新規プロジェクトで、小児科と心理ケアに特化したプロジェクトです。プロジェクトの立案過程では、特に2014年にモスルから避難してきた国内避難民を主な受益者と想定していたのですが、実際にはもともとムサイブ県に住んでいる人びとが大きな割合を占めていました。

プロジェクトではMSF独自の病院を持つのではなく、イラク政府が管轄する二次医療施設の小児専門病院(40床)を支援する形で行われました。
 
主な症例は呼吸器感染症、下痢症、尿路感染症、発熱、糖尿病やその他の慢性疾患です。公立病院を支援するMSFのプロジェクトはほかにもありますが、このプロジェクトが通常のMSFのやり方と大きく異なるのは、現地のイラク人医療スタッフを雇用して病院に配置しない点、公務員である病院のスタッフに対してインセンティブを払わない点です。

MSFが現地保健省の医療施設を支援しているプロジェクトでは、業務量の増加を見込んで、またモチベーション向上のため保健省スタッフにインセンティブを支払うことがあります。
 
しかし今回のプロジェクトでは、トレーニングなどを通じて病院スタッフの能力向上を図り、必要な機材や主要な医薬品を提供して、患者がよりよい医療サービスを享受できるよう環境改善をすることを主な目的としたいたため、金銭的なインセンティブではなく、トレーニングや機材、医薬品自体がインセンティブになるよう務めました。
 
MSFの外国人派遣スタッフ(医師と看護師)が直接患者を診察することはせず、あくまでも、すでに病院に勤務している医師や看護師への技術支援を行う構想です。これは健康教育に関しても同じで、病院の健康教育担当スタッフに必要な支援を行う形でした。
 
ただ、心理ケアに関しては事情が異なります。現地ではまだ心理ケアに対する偏見が強いために、サービス利用率の向上につながらない経験を他のMSFプロジェクトでしていました。そこで、小児科病院に心理ケアの専門科を設置することにより、子どもの病気で病院にやってきた家族が必要に応じてカウンセリングを受けられるような環境を作り、少しずつ偏見の垣根を下げていこうという構想でした。
 
私が担当したIEC活動は、病院外のコミュニティーでの活動も含まれます。対象コミュニティーの住民に対してMSFの活動を周知させ、小児科および心理ケアに関連した健康教育活動を行うものです。私はプロジェクト立ち上げ期に赴任したので、具体的な活動を立案するための情報収集と、対象コミュニティーのリーダーに対してMSFの活動を知ってもらうよう働きかけました。
 
IECのマネジャーとしては、人材育成も重要な役割です。私のチームには健康教育スーパーバイザーが1人と地域の保健教育スタッフ3人がいたのですが、業務指示書の作成や、採用試験の問題作成、健康教育や質的調査に関するトレーニング、業務評価などを行いました。
 
外国人派遣スタッフは合計10人(プロジェクト・コーディネーター、アドミニストレーター、ロジスティシャン、医療チームリーダー、小児科医、看護師2人、心理ケア活動担当者2人、IEC担当)です。
 
MSFが雇用したイラク人スタッフは、心理ケアカウンセラー3人と健康教育チーム4人の計7人がいました。またそれ以外に各部署のアシスタント、通訳、警備員やドライバーなどを含めると合計25人ほどいました。
 
立ち上げたばかりのプロジェクトですが、2017年11月末に終了となりました。理由の1つが治安の問題です。
 
プロジェクトは9月上旬から一時停止状態となり、外国人派遣スタッフは首都バグダッドで待機していました。10月中旬には首都から現場に週2~3日ほど日帰りで通えるようになりましたが、残りの日は遠隔で現地の病院スタッフに指示を出す形でした。
 
プロジェクト終了に伴い、外国人・現地スタッフ両方の人員調整も行われ、徐々にチームは小さくなっていきました。

Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか?また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?

休日にイマーム・アリ廟を訪れた
休日にイマーム・アリ廟を訪れた
プロジェクトが支援していた公立病院の外来診療時間は短く、朝8時半から午後2時半でした。対象コミュニティーにある公立の一次医療施設も同じです。そのため、午前中は病院スタッフとの共同作業や、情報収集のために一次医療施設や対象コミュニティーの訪問に時間を割きました。午後は事務所で事務作業を行い、夕方6時には事務所が閉まりますので、やり残した仕事は宿舎でしていました。

週末の少なくとも1日は仕事をしないように心がけ、食料品の買い出しに行ったり、宿舎内で運動をしたり、本を読んだりして気分転換を行いました。休日には、世界史の教科書で学んだバビロンの遺跡やチグリス・ユーフラテス川、イスラム教シーア派のイマーム・アリ廟などいくつかの有名な場所を訪れました。
Q現地での住居環境について教えてください。

安全上の理由で移動は制限されていた
安全上の理由で移動は制限されていた
赴任当初、宿舎はまだ建設途中のため相部屋だったのですが、3ヵ月後ぐらいにはそれぞれ個室を持てるようになりました。MSFでは中東のプロジェクトは居住環境が非常に良いといわれています。実際に今回の住居は、テント生活をしていた南スーダンや、簡易な建物に住んでいたナイジェリアの活動と比べて格段に良かったと思います。部屋には大きなベッドやクローゼット、エアコン、きちんと水が出るシャワーがあり、インターネット環境も整っていました。ただし安全対策上の規則は厳しく、徒歩で動ける範囲は宿舎からプロジェクト事務所が入っている病院までの300mほどに限られました。それ以外の移動は車両のみでしたので、外国人派遣スタッフは私のほかにも、自由に動けないことに対するストレスを感じていたようです。
Q活動中、印象に残っていることを教えてください。

実際に参加してみて、イラクという国への印象は大きく変わりました。オファーを受けたときは、治安の問題が気になり正直ためらいました。しかし、せっかくの機会だからと思い切って行ってみると、自分が持っていた印象はほんの一部の側面でしかないことに気づきました。

紛争状態に陥っている地域や首都のバグダッド、そのほかいくつかの地域でマーケットやモスク近郊での爆破事件が起こっているなど、悲しい事実があります。一方で、家族で出かけたり友達と遊んだりといった、自分たちと何ら変わらない普通の日常が当然あります。現地の人は、そういった時間をとても大切にしていると思いました。

苦労したことは、全てにおいてとても時間がかかることです。MSF経験の長い外国人派遣スタッフでさえも、イラクで物事を進めるのは2~3倍の時間がかかると言っていました。そのため、計画通りに進まないことが多々ありました。

印象に残ったこととして、ある現地スタッフが言った言葉があります。

「今のイラクでは自分がしたい仕事に必ず就けるわけではない(学業を終えてもなかなか就職口がないのが現状)。けれども、自分が引き受けた仕事は好きだろうが嫌いだろうがプロフェッショナルとしてきちんとやり抜く」

こういった意識の高いスタッフと仕事できたことはうれしかったですし、自分もそうありたいと思わせてくれました。

Q今後の展望は?

引き続き、次の派遣を希望しています。それまでの期間は、まず少し休養して心身を回復させようと思います。また複数回の派遣を経て、自分の課題も見えてきました。次回の派遣では見えてきた課題を少しでも乗り越えられるように準備していこうと思います。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

新たな一歩を踏み出すのは、勇気がいるかもしれません。しかし、気負う必要はないだろうと思います。これまで出会ったスタッフの中にはMSFで働くのが夢だったという人ももちろんいましたが、面白そうだから参加したという人もいました。いろんなバックグランドや価値観を持つ人と一緒に働くことはエネルギーがいりますし、ストレスがたまることもあります。しかし、それ以上に学ぶことがあります。

キャリアや私生活についていろいろ考え、悩みがあるのは国籍を問わずみんな同じです。少しでも興味があれば、ぜひ一度チャレンジしてみてください。

MSF派遣履歴

  • 派遣期間:2016年1月~2016年6月
  • 派遣国:南スーダン
  • プログラム地域:上ナイル州ワウ・シルク
  • ポジション:ヘルスプロモーター
  • 派遣期間:2016年7月8日~2017年1月8日
  • 派遣国:ナイジェリア
  • プログラム地域:ナイジャ州
  • ポジション:ヘルスプロモーター

この記事のタグ

職種から体験談を探す

医療の職種

非医療の職種

プロジェクト管理の職種

活動地から体験談を探す

国・地域