海外派遣スタッフ体験談
ロヒンギャ緊急援助で治療経験のないジフテリアを診る:山梨 啓友
2018年04月20日山梨 啓友
- 職種
- 内科医
- 活動地
- バングラデシュ
- 活動期間
- 2017年12月~2018年1月

- Q国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?
前回のパプアニューギニアへの派遣を終えた時点で、国内での診療医としての仕事と両立して、MSFの活動を続けていきたいと強く感じました。それは、国内での診療にMSFの経験が活かされ、国内で診療を続けることでMSFでの活動の幅も広がると考えたからです。
- Q派遣までの間、どのように過ごしましたか?どのような準備をしましたか?
急に派遣が決まったので、特に準備はしていませんでした。
- Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか?どのような経験が役に立ちましたか?
今回の派遣は緊急支援でしたので、事前の情報や現地での余裕が前回ほどはありませんでした。MSFの組織運営、医薬品の管理方法、現場の治安上のルールなどの仕組みについては、前回の派遣で経験していたため、感染症アウトブレイクへの対応という流動的なプロジェクトでもスムーズに活動できました。
- Q今回参加した海外派遣はどのようなプロジェクトですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?

診察を行う場所
バングラデシュのロヒンギャ難民の間で発生していたジフテリアのアウトブレイクの緊急援助プロジェクトでした。ミャンマーの少数民族ロヒンギャは、以前からバングラデシュ東部に移動していましたが、2017年8月に起きた警察・軍との武力衝突をきっかけに、大規模な移動が起こりました。これにより、ロヒンギャ難民のための医療が必要になり、プロジェクトが開始されました。
11月にはジフテリアのアウトブレイクが発生したため、その治療のために緊急派遣されました。75床の小児病院をジフテリアの専門治療病院に変え、ジフテリア抗毒素を大勢の患者に投与するために、現地スタッフとともにチームを構成し、24時間対応の医療を展開していました。
11月にはジフテリアのアウトブレイクが発生したため、その治療のために緊急派遣されました。75床の小児病院をジフテリアの専門治療病院に変え、ジフテリア抗毒素を大勢の患者に投与するために、現地スタッフとともにチームを構成し、24時間対応の医療を展開していました。

ジフテリアはキャンプ内で蔓延しており、成人でも発症していましたが、乳幼児で致命的な患者がいました。典型的な咽頭の偽膜(ぎまく)と牛頸(うしくび)<※>の所見がある患児では、抗生剤、ジフテリア抗毒素を投与しても治療が追いつかず、心肺停止になってしまうこともありました。4歳の女の子は、急性期を乗り切れたあと心筋炎を起こして亡くなってしまいました。ジフテリアだけではないですが、キャンプでは感染症や外傷などで子どもが亡くなることが多く、母親の悲痛な嘆きの声はたまらないものでした。
ジフテリアは予防接種により「予防可能な病気」とされていますが、科学的な事実と現実に大きなギャップを感じました。学問としての医学を高めることはもちろん重要ですが、こうした人びとに基礎的な医療を届ける努力も、同じように大切だと思います。
ジフテリアは予防接種により「予防可能な病気」とされていますが、科学的な事実と現実に大きなギャップを感じました。学問としての医学を高めることはもちろん重要ですが、こうした人びとに基礎的な医療を届ける努力も、同じように大切だと思います。
- ※偽膜:のどの粘膜の壊死(えし)による白色の膜、牛頸:ジフテリア毒素による頸部のむくみ
- Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか?また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?

毎日、朝7時過ぎに宿舎を出発し、7時30分頃から業務を行いました。その後、回診、救急救命(ER)などを担当しましたが、業務時間の大半はジフテリアの診断や治療にかかりっきりでした。業務を終了するのは夜7時過ぎになることが多かったです。
ジフテリア治療を始めてから1週間ほどして、3人の医師で当直業務を開始しました。ジフテリアの抗毒素を投与する際にアナフィラキシーの危険があるため、アウトブレイクならではの緊急対応です。
アウトブレイクが収束してからは、小児病院として若干、時間的な余裕がでるようになりました。休日を取るのが難しく、年末年始を含めて休みをとることがあまりできませんでした。少し離れた場所にビーチがあり、1日休みを取ったときに海辺でゆっくり過ごせました。
- Q現地での住居環境について教えてください。
50人以上のスタッフが4階建のアパートに住んでいましたが、緊急対応で急激にスタッフが増え、十分なスペースがなかったため、派遣期間の大半は個室の前の共有スペースにマットレスを敷き、簡単なパーテーションを使って生活していました。
- Q活動中、印象に残っていることを教えてください。

竹やビニールシートで出来た住居が並ぶ
巨大な難民キャンプにおいては、医療ニーズについて予見して対応を考えること、提供できる医療サービスの規模を勘案して適切なトリアージ(※)を行うことが重要だと実感しました。ジフテリアの迅速トリアージや、他の医療施設への抗毒素治療の拡張が非常に有効でした。
- ※重症度、緊急度などによって治療の優先順位を決めること。
- Q今後の展望は?
私は日本で疫学研究を中心に行っていますが、フィールドでも、ニーズの高い疫学研究に関連した仕事をしてみたいです。
- Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス
国際援助に興味・関心を持たれている方は、ぜひトライしてみてください。
MSF派遣履歴
- 派遣期間:2016年11月~2017年2月
- 派遣国:パプアニューギニア
- プログラム地域:ケレマ
- ポジション:内科医