海外派遣スタッフの声

医療機器に頼っていた自分を再認識:小杉郁子

ポジション
外科医
派遣国
ナイジェリア
活動地域
ポートハーコート
派遣期間
2008年2月~2008年3月

なぜMSFの海外派遣に参加したのですか?

ドイツに留学した際にカメルーンからの留学生と知り合い、医療後進国から勉強したいと思ってやって来ている彼と自分のモチベーションには大きな違いがあると感じました。極端な話、温室育ちな自分の頭をガツンと殴られたような気がしました。また、他の同僚と帰国後を含めた将来のことを話している時に、「海外で仕事したいと思っているならMSFがある。発展途上国は医者を必要としているし、日本やドイツとは異なった医療が経験できる」と言われました。MSFの活動では実際の現場から地に足の着いた、その国の医療事情が見られることがいい点でしたし、国際的な実績のある団体であることから、NGOやボランティア経験のない私でもサポートしていただける点も参加を決心した理由です。

今までどのような仕事をしていたのですか? また、どのような経験が海外派遣で活かせましたか?

1994年に医学部を卒業したのち、7年間は一般外科医として大学病院や関連病院で勤務していました。その後は血管外科を中心とした病院に勤務し、2005年に留学目的で渡独しました。最初の5ヵ月間はドイツ語学校に通い、9月よりドイツ・デュッセルドルフ大学病院血管外科および腎移植科に2年間弱留学しました。ここでは大小さまざまな血管外科手術と腎移植を年間平均1800例行っており、私は毎日平均して3~4件の手術に参加していました。その経験を生かし、上腕動脈や撓骨動脈切断症例に血行再建を行い、救肢できた症例が2例ありました。

また、同大学にはカメルーン、ギリシャ、ウクライナ、インド、アルジェリアからの長・短期留学生が外科技術を勉強しに来ていましたし、医師や看護婦などのスタッフもドイツ国籍であっても出身地がドイツ以外であったり、トルコやポーランドからの移民だったりと、さまざまな背景の外国人と過ごした経験から、派遣中にも外国人アレルギーはありませんでした。ただ、この3年近くドイツ語にどっぷり浸かっていたので、自分の頭の中で優先外国語を英語に切り替えるのに相当時間を要しました。

今回参加した海外派遣はどのようなプログラムですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?

開放創に皮膚移植を行う

ナイジェリアのポートハーコートは政治的不穏と貧困のために治安が悪く、さまざまな暴力事件が頻発しています。また外国人の誘拐が多発しているため、当チームも22時から朝6時までの間は外出禁止でした。平日は7時半に宿舎を出て、回診後に手術開始を開始します。通常の勤務終了時間は17時半ころですが、医師チームは手術が終らないと帰宅できないので、終了時刻が22時以降になった場合には病院に泊まらなくてはなりません。2008年1月初めに、一時的にアメリカ株価低下を引き起こした原油に関わった騒動が起こったと聞いていたので、外科的外傷がさぞ多いであろうと覚悟して赴きましたが、予想に反して最初の2週間は比較的落ち着いていました。後半の3週間強は3日に1例程度で、銃創や刺創による急性腹症や胸部外傷などがありました。結局病院に泊まったのは2回、早朝の出動は2回でした。約6週間の間に外科では127例の手術を行いました。予定手術は主に開放創に対するデブリードマン*や皮膚移植、顎外傷後患者の胃瘻造設、人工肛門閉鎖術など、緊急手術は気管切開、切断四肢断端形成、異物除去(主に銃弾)、脾臓摘出術、消化管切除および吻合術などです。急患の80%が交通事故による骨折患者でしたが、中には労働災害による四肢損傷・切断もあり、整形外科医と共に動脈・腱・神経再建を行うこともしばしばでした。

  • 壊死した組織を切除し、他の組織への影響を防ぐ外科処置

週末や休暇はどのように過ごしましたか?

ポートハーコートに派遣されている日本人の海外派遣スタッフと

短期間の派遣だったため休暇はなく、週末も平日同様に仕事していました。もちろん予定手術はやや少なめにしてありましたが、緊急手術が入るのは当たり前という感じです。日曜日は9時ころに出勤し、早く手術が終了した場合には宿舎の近くのプール付きバーに行って泳いだり、ランチやビールを楽しんだりして気分転換しました。宿舎の近くにDVDのレンタルショップがあるので、ときどき借りて来て土曜の夜に皆で観たりしました。それ以外には友人や家族とメールしたり、インターネットで日本のニュースを調べたり、自分の部屋で音楽を聴いたりして、仕事とは関係ないことをするようにしていました。はじめの2週間は外出する気になれませんでしたが、慣れて来た頃に主にアルコールを買いに行ったりもしました。ビールもワインも手軽に楽しめる価格でした。

現地での住居環境についておしえてください。

それぞれ個室が割当てられたので、プライバシーに関するストレスはありませんでした。ベッドには蚊帳が標準装備されていたのでマラリア対策は十分でしたが、追加で持参した蚊取り線香を使用しました。効果は抜群でゴキブリも退治できました。朝だけは涼しくて快適でしたが、特に夕方から夜にかけては熱がこもって暑く、電力と温水確保のためのジェネレーターが作動する音が結構響くので、ぐっすりは眠れませんでした。食事は月曜から土曜日まで昼食・夕食は賄いがあり、クスクス、スパイシーな野菜煮込み、グリルチキンなどが美味しかったです。キッチンとダイニングはおおむね清潔でしたが、アリなどの虫が多いのはどうしようもなかったです。洗濯も日曜以外はやってくれ、だいたい2~3日で戻って来るのでこまめに着替えても大丈夫でした。

良かったこと・辛かったこと

外国人派遣スタッフと一緒にいると普段話せないことや感情的なことも話しやすくなり、オープンになれるので気が楽でした。年齢も習慣も違う人たちといることで、より自分のことを冷静に考えることができるのもいい点でした。めったにないことですが他に日本人スタッフが2名いたので、英語での会話に疲れた時には日本語で話すことができたのもストレス発散に良かったです。仕事の面では「いかに高度画像診断に頼り切って、患者の身体所見を取ることをおろそかにしていたか」を再認識できました。

辛かったのは気管切開部からの大量出血で患者を失ったことです。結局出血点がどこかわからずじまいで、なすすべもなく亡くなってしまいましたが、「どこからの出血で、どうすればよいか」という議論に自分の語学力ではついて行けなかったことは残念でしたし、反省させられました。

派遣期間を終えて帰国後は?

留学前に勤務していた金沢大学医学部付属病院に復帰します。しばらくの間は血管外科の通常の仕事をして体を慣らそうと思っています。外科医は正確な診断と手術ができなくてはいけませんので、ある程度のレベルを維持しなくてはならないですし。MSFに参加することにより日本ではできない貴重な経験ができたので、今後は1年に一度程度は、機会があれば参加したいと思っています。

今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

生活や仕事面は不安に感じることはいろいろあるでしょうが、行ってみたら何とかなります。長期にわたる派遣であればあるほど、CDやDVD、ゲーム類、好みの食べ物など(特に日本の食材)はできるだけ持参した方がいいです。