海外派遣スタッフの声

寄付者からスタッフに 人事・財務経験生かして55歳で夢を実現:川村 睦美

ポジション
アドミニストレーター
派遣国
イラク
活動地域
エルビル
派遣期間
2018年1月~2018年4月

なぜ国境なき医師団(MSF)の海外派遣に参加したのですか?

MSFについては、独立・中立・公平の原則や理念に感銘を受け、ずっと尊敬していました。10年ほど前に、夫と共にわずかな寄付を始め、当初は「MSFで仕事ができるのは医療関係者だけ」と思っていたんです。しかし、非医療スタッフも募集しているということを数年前に知り、「いつかチームの一員になれたらいいなぁ」と漠然と思っていました。また、同じ時期にNGOでボランティアをする中で、人道支援の道へ進みたいという気持ちが強くなっていったのもきっかけのひとつです。 

派遣までの間、どのように過ごしましたか?どのような準備をしましたか?

スタッフと一緒に。© MSFスタッフと一緒に。© MSF

まず、東京のMSF事務局で行われた派遣前研修「ウェルカム・デイズ」に参加し、その後、フランスでも事前研修を受けました。フランスの研修では、「ウェルカム・デイズ」で「予習」したことがとても役に立ちました。あとは、MSFのホームページでスタッフの体験談を読んだりして、イメージを膨らませました。実際に派遣先が決まってからは、現地の業務についての資料に目を通し、プロジェクトが置かれている状況を把握するよう努めました。

それから、同じ派遣国で活動経験のある日本人スタッフを事務局から紹介してもらったのはありがたかったです。持っていったほうがいいものや、現地での生活環境などについて日本人の視点からアドバイスをもらえたのは大いに役立ちました。 

今までどのような仕事をしてきましたか?また、どのような経験が海外派遣で活かせましたか?

これまで、人事・財務業務を中心に、船会社、貿易会社、私立大学、職業訓練校などで仕事をしてきました。MSFに応募する直前は、ドバイの日系企業で6年ほど、人事・財務業務の他、事務所長のパーソナルアシスタント、営業事務などを担当していました。このときに、ビザの手続きや航空券手配などに携わった経験が、今回のポジションに役に立ちました。また、まさに人種のるつぼであるドバイで、出自・文化の異なる人びとと共に働き、時には強い態度で交渉した経験は、MSFの活動に溶け込むための基盤になったのではないかと感じます。こういった経験があったからこそ、多国籍チームで働くにあたり起こりうる状況(人間関係や日本人とは違う考え方など)をある程度予測し、対応できたとも思います。

また、アジアをバックパッカー旅行したことや、中東でのキャンプ旅行の経験(バケツシャワーやテントでの調理など)も意外に役に立ったと思います。今回のプロジェクトでは、恵まれた生活環境でしたが、限られた条件の中で生活しなければならない地域もありますから。

「ゴキブリいっぱいの部屋にも泊まったことあるし、バケツシャワーもOKだし」となれば、ちょっと不便な場所でも完全な拒否反応を起こさずに過ごせるのではないでしょうか。パニックにならずに、「まあ、こういうこともあるよね」と、余裕を持って対応できることは、MSFの活動においては大いにプラスになると思います。 

今回参加した海外派遣はどのようなプロジェクトですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?

私が派遣されたのは、イラクのクルド人自治区の首都エルビルにある「コーディネーション本部」でした。海外派遣スタッフは、12ヵ国から14人、現地スタッフは30人ほど。イラクの首都バグダッドにも、もう一つのコーディネーション・チームがいて、連携して業務を行っていました。

私が担当していたのは、イラクに滞在する全スタッフの動きを管理・調整する業務です。動向予定表のアップデート、ビザ状況の把握、クルド自治区の住居者カード申請、航空券・ホテル(宿舎)の手配などが含まれます。海外は通常、コーディネーションを経由して各プロジェクトへ向かいます。休暇のためにエルビルに少し滞在するスタッフもいたり、ヨーロッパの事務局からゲストが訪問したりと、とにかく毎日のように人の出入りがあります。また、イラクでクルド自治区を行き来する際には、チェックポイントで通過許可証が必要となりますが、チェックポイントによって使用できる許可証が異なり、私の滞在中だけでも許可証の手続き方法が頻繁に変わるため、有効期限前に書類を更新するのも一苦労でした。 

働いていたオフィス。7人のスタッフが働いていました。© MSF働いていたオフィス。7人のスタッフが働いていました。© MSF

派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか?また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?

朝7時ごろ起床し、朝食を食べて、8時すぎに事務所に行き、まずはその日のおおまかなスタッフのスケジュールを確認して、アシスタントと重要事項について確認し、午後12時半から1時ごろまで仕事。調理担当のスタッフが作ったおいしいランチを食べて、また仕事に戻るという流れでした。現地スタッフは勤務時間に沿って仕事をしていましたが、外国人派遣スタッフは就業時間があってないようなもので、必要に応じて早く来たり、遅くまで仕事したりすることが多かったです。

仕事が忙しく、買い物に行く時間が取れませんでした。夕方6時ごろに近くのスーパーマーケットで必要なものを購入し、いったん宿舎に持ち帰って再度事務所に戻って仕事することもありました。私が住んでいた宿舎では、別に決めた訳ではないのですが、みんなで夕食を作ることが恒例になっていて、スタッフの出身地によって「今日はパキスタン料理、明日はフィリピン料理」と世界のおいしい家庭料理を味わうことができたのは最高の思い出の一つです。お世辞ぬきで、どれも本当においしかった!私は料理が好きなので、夕食作りに貢献したかったのですが、残業することが多く、残念ながら同僚の作ったものをいただくことの方が多かったです。私が遅くまで事務所に残っていると、「ムツミ、何時に帰ってくる?ご飯できてるよ!」と携帯にメッセージをくれ、宿舎に帰ると夕食を温め直してくれる同僚に恵まれ、涙が出るほどうれしかったです。週末も仕事をしていることが多かったので、買い出しをして、ちょっと休んで1日が終わり…ということが多かったですが、たまには外食に出ることもあり、良い気分転換になりました。 

楽しみだったスタッフによるお国料理、この日はパキスタン風シチュー。© MSF楽しみだったスタッフによるお国料理、この日はパキスタン風シチュー。© MSF

現地での住居環境について教えてください。

現地で「Villa (ヴィラ)」と呼ばれる一軒家を数軒借りて、スタッフ用の宿舎にしていました。スタッフ一人一人に個室が与えられ、バス・トイレ、キッチン、リビングは共用でした。個室でプライバシーが守られ、一人になれる場所があったことはありがたかったです。私が住んでいた宿舎には、私を含めた4人が住んでいました。常にお湯も電気もあり、Wi-Fiもサクサクつながりました。地下に卓球台があり、同僚と「卓球選手権ごっこ」をするのが楽しみでした。

宿舎は事務所から歩いて数分と大変便利で、周りは静かな住宅地という好環境。平日には、掃除と洗濯をしてくれるハウスキーパーがいたので、私たちは仕事に打ち込むことができ、本当に感謝の気持ちでいっぱいでした。今回がMSFで初めての活動でしたので、他の場所と比べることはできませんが、それでも恵まれた環境であったことは間違いないと言えます。 

十分なスペースで快適だった宿舎の部屋。© MSF十分なスペースで快適だった宿舎の部屋。© MSF

活動中、印象に残っていることを教えてください。

全スタッフの動きを管理することで、プロジェクトの構成やスタッフが派遣されてから帰国するまでの流れ、スタッフをプロジェクトへ送るために必要な事柄など一連のプロセスを学ぶことができたのは大きな収穫でした。

しかし、苦労したこともあります。イラクは実質、1つの国の中に2つの国が共存している状態です。イラク側とクルド自治区の移動には、チェックポイントで通行許可証が必要ですし、ビザの手続きも、何の前触れもなく政府が突然やり方を変えるのには閉口しました。昨日OKだったことが今日はダメと言われるのです!スタッフが空港で足止めや、ビザの更新がうまく行かないということは、すなわちスタッフがプロジェクトへ行けないということ。必要な場所で医療サービスを供給できないということです。やきもきする場面が何度もありました。

初めての活動ということもあり、自分の業務でいっぱいいっぱいで、アシスタントへのサポートが十分ではなかった場面もありました。また、良かれと思ってやったことをネガティブにとらえられたり、業務で必要なので尋ねたことを個人攻撃と取られたりと、ショックを受ける出来事もありました。落ち込みましたが、悲観したり自分を責めたりするのではなく、「じゃあ、あの時どうすれば良かったのかな?」と改善点を見つけ、学びの機会ととらえるよう努めました。また、業務の性質上、週末もメールチェックが必要で、忙しかったこともあり、丸一日休める日がなかったのは正直少しつらかったです。(だからこそ、このポジションは3ヵ月と派遣期間が短いのですが)

イラクの現地スタッフは優秀な人が多く、謙虚で穏やかでホスピタリティーにあふれ、一緒に仕事ができて光栄でした。ですから、イラク人すべてがテロに関わっているような誤解や差別を見聞きすると、憤りを感じるとともに心から悲しくなります。私はチャンスがあれば、彼らの多くが、いかに心やさしく平和を好む人びとであるか、周りの人に伝えています。現地で見たことを伝えることも、私たちにできる活動の一部だと考えています。 

任期を終えて帰国する際のケーキパーティーは、誰かが帰国する時の恒例行事!© MSF任期を終えて帰国する際のケーキパーティーは、誰かが帰国する時の恒例行事!© MSF

今後の展望は?

今後もNGOでの活動を通して少しでも社会に貢献していきたいです。MSFにまた参加する機会があれば、次回は現場により近いプロジェクトのレベルで活動できるといいなと思います。 

今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

私は54才でMSFに応募し、55才で初の活動に参加しました。40代、50代でMSFの活動に共感し興味をお持ちのみなさん!参加できる条件がある程度そろっているのに躊躇(ちゅうちょ)されているのであれば時間がもったいないです!思い切って一歩を踏み出してみることをお勧めします。

コミュニケーション力や異文化適応力が求められるのは言うまでもないですが、マネジメントの経験(あるいは能力)とリーダーシップ・スキルを持っていることが望ましいと感じました。

現場ではやることが多岐にわたり、一筋縄でいかないことや急な変更も多々あります。なんといっても健康(身体と精神面の両方)が第一です。日頃から適度な運動で身体を鍛え、持久力をつけることをお勧めします。また、活動中にも続けられる、自分の好きなエクササイズやトレーニング法、リラックス法があると良いのではないでしょうか。