海外派遣スタッフ世界の現場から

治療を完遂できなかった悔しさ 患者「理解」の大切さ学んだ

松浦 潤

ポジション
小児科医 
活動地
南スーダン
活動期間
2020年6月~7月

国際協力の現場を志し、大学卒業後に医学部に入学。新型コロナウイルス感染症の影響で短縮された活動期間ながら、南スーダンで多岐にわたる小児疾患の治療に従事した。

世界中で働ける医師に 大学を出てから医学部へ 

南スーダンのプロジェクトオフィスの前で © MSF

南スーダンのプロジェクトオフィスの前で © MSF

学生時代から、国際協力に関わる仕事がしたいという思いがありました。東南アジア、南米、アフリカなどでバックパッカーをしていたこともあり、漠然と途上国で働きたいと思っていました。生物学専攻の大学を卒業した後に、医師になれば世界中どこでも働けると考え、医学部に入り直しました。

初期研修修了後、東京の国立国際医療研究センター小児科で後期研修を行い、そこで国際医療協力の仕事をする機会がありました。ザンビアやベトナム、カンボジアなどで保健システム強化、感染症対策、新生児医療などに関わる経験をし、その中でもっと医療現場を経験したいと思うようになりました。

その後、滋賀県の病院で小児救急・成人救急診療を経験し、さらにタイに半年間留学し熱帯医学を勉強した後、MSFに小児科医・救急医として登録されることになりました。
 

コロナ禍での活動開始

ようやく到着した活動地の病院 © MSF

ようやく到着した活動地の病院 © MSF

最初の派遣地として決まったのは、南スーダン。3月中旬に出発予定でしたが、新型コロナウイルスの流行を受けてフライトが激減し、出発が延期になりました。また5月には南スーダン入国のためPCR検査の陰性証明書が必要になり、なかなか現地に飛ぶことができませんでした。

やっと首都のジュバに着き、隔離を終えた6月末から活動を開始しました。MSFは南スーダンの地方病院の小児・周産期部門を支援しており、私は小児科医として主に小児病棟、新生児病棟、ICU、救急外来での診療のサポートを行いました。

初めての派遣だったので、まずは現地の医師たちと一緒に診療することから始めました。毎朝の病棟回診に参加し、難しい症例についてディスカッションしました。CTやMRIなどの診断機器はなく、レントゲンも平日午後の決められた時間にしか撮れない状況だったので、エコー診断を積極的に活用し、指導しました。また新生児蘇生のシミュレーショントレーニングを助産師や準医師(Clinical Officer)を対象に行いました。 

悔しい思いも 印象に残った腎臓病の男の子

悔しい思いをしながらも、現地スタッフと<br>
力を合わせて診療にあたる © MSF

悔しい思いをしながらも、現地スタッフと
力を合わせて診療にあたる © MSF

特に多かった疾患は、未熟児の呼吸障害や感染症などの新生児疾患や、肺炎、胃腸炎に伴う脱水、栄養失調、破傷風などです。また、雨季の始まりでマラリアの患者さんが徐々に増えてきていました。

1週間に数人は患者さんが亡くなってしまうような状況で、何度も悔しい思いをしました。特に印象に残っているのは8歳の男の子です。腎臓の病気で入院しており、さまざまな治療を行いましたが良くならず、徐々に腎臓の機能が悪くなり、呼吸状態も悪化していきました。ICUで治療を行い、いよいよ重篤な状態となり、最後の一手となる治療を開始した矢先、家族が患者さんを連れて自宅に帰ってしまいました。

聞くと、「もう命が短いなら自宅に連れて帰って家族と最期を過ごしたい」とのことだったようです。その後の治療プランをいろいろと考え、なんとか良くなってほしいと思っていた私は、とても悔しく残念な気持ちになりました。患者さんと家族への説明が不十分だったことを思い知らされました。
 

患者さんに「理解してもらう」大事さ

早く仕事が終わった日はチームの仲間と付近を散歩
© MSF

早く仕事が終わった日はチームの仲間と付近を散歩 <br>
© MSF

このように、患者さんが危篤状態になったときに、家族が家に連れて帰ってしまうことが何回かあり、毎回やりきれない思いでした。現地の医療スタッフは経験もあり、物資がない中でも最大限の治療を行っています。しかし今後は入院する際に、きちんと病状や治療計画を説明し、時間を取って患者さんや家族と話し合いを繰り返し、治療を「理解」してもらう大切さを痛感しました。

他には、患者さんの受診が遅いことも問題でした。例えば、日本であれば足の骨が折れたらすぐに病院に行くと思います。しかし活動中に、足の付け根の骨が折れた小学生の女の子が、1週間も経ってから病院に来るようなこともありました。またマラリアでも、意識がなくなってからようやく動き出して、病院に着く頃には重篤な症状になっている患者さんが多くいました。

受診した患者さんに「こういう場合は病院に来て」と、「危ないサイン」がどういうものであるか教える、ヘルスプロモーション(健康教育)が大事だと感じました。
 

限られた時間でも最大限のコミュニケーションを

新生児チーム © MSF

新生児チーム © MSF

滞在中は現地スタッフと良い人間関係をつくることを第一に心がけました。時間が空いているときはなるべく病棟やERに顔を出し、スタッフや患者さんとコミュニケーションをとるよう努めました。スタッフにアドバイスをする際は上から目線にならないように言葉を選び、患者さんと話すときは、言葉は通じなくても極力丁寧な態度を心がけました。

小児科後期研修で身につけた新生児医療の経験はとても役立ったと思います。一般小児科領域では、マラリアや破傷風、栄養失調など日本ではほとんど経験しない疾患も数多くありますが、新生児疾患は日本も南スーダンも大きくは違いませんでした。また、エコー診断を多用したため、日本で身に付けたエコーの技術は非常に役立ったと思います。

その一方で、個々の患者さんへの対応に関しては、自分の経験不足や知識の曖昧さによって判断に迷うことがあり、さらに経験を積む必要性を感じました。診断がつかない時は、欧州にいる専門家にオンラインで相談する、テレメディシンを使ってアドバイスを受けることもありました。多様な検査を行うことができないのでなかなか診断をつけるのは難しいですが、治療法や方針の確認や別の視野から意見をもらえてとても助かりました。
 

倉庫いっぱいの資材で寄付の力を実感

人や物資を運ぶランドクルーザー © MSF

人や物資を運ぶランドクルーザー © MSF

滞在中、首都のジュバと任地のアウェイㇽ両方で、MSFの倉庫を見に行く機会がありました。倉庫いっぱいにさまざまな医薬品や資機材のストックがあり、支援者の方々のサポートを実感しました。

仕事中も、特に医薬品や物品が不足して困るようなことはありませんでした。ご支援いただいた方には心から感謝します。今回はコロナによる出発の延期で約3週間と短い活動になりましたが、たくさんのスタッフや患者さんと出会えて学ぶことが多い派遣でした。また都合が許せば次の派遣を考えています。 


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