海外派遣スタッフ世界の現場から

限られた資源で 「患者さんを何としても助けたい」

赤羽 宏基

ポジション
産婦人科医
活動地
南スーダン
活動期間
2019年6月〜7月

長年興味のあった国際保健のフィールド。初めて国境なき医師団(MSF)の活動に参加し、医療の行き届いていない地域があることを痛感。限られた資源の中で、いかに患者さんを助けることができるのか。壁にぶつかりながらも、考え抜いた2カ月だった。

参加のきっかけ

MSFの同僚たちと © Hiroki Akaba/MSF

MSFの同僚たちと © Hiroki Akaba/MSF<br>

もともと、途上国における医療現場での活動に興味がありました。MSF参加前に、国立国際医療研究センターにて産婦人科研修3年と国際保健業務1年を経験しました。国際保健業務では、カンボジアやザンビア、モンゴルなどの途上国の保健課題に対するプロジェクトの運営を支援しました。将来的に、国際保健のフィールドでキャリアを築いていきたいと考え、そのためにも実際の臨床現場をもっと肌で知る必要があると思い、MSFの活動に参加しようと考えました。

今回は、退職とイギリス留学との間の期間を使って参加しました。職場の同僚たちには、快く送り出していただきました。また、家族は心配していたようですが、特に反対などもなく、活動参加を応援してくれました。 

限られている資源の中で

産婦人科医として、院内における周産期医療のマネジメントおよび高度医療行為の実施を行いました。初めての活動であったため、まずは現場の医療に慣れる必要があると考え、出来るだけ病棟に顔を出すようにしました。処置や手術、複雑な分娩症例などは私が担当しました。実際の業務に徐々に慣れ始めた頃には、経験豊富な海外派遣スタッフである助産師と共に、現地スタッフの教育についても考えるようになりました。現地スタッフに、処置や手術をする機会を与えるよう心掛けました。一方で、緊急帝王切開は私しかできないため、夜間や休日なども病院に呼ばれ、緊急手術の対応をすることがよくありました。

現地で最も頭を悩ませたことは、日本よりも重症の患者さんが多い一方で、日本よりも医療資源が限られているということです。輸血製剤や医療アクセスの問題など、日本と多くの違いがある中で、限られた資源で、いかに患者さんを治療するかと考えました。 

帝王切開によるリスク

MSF病院で産まれた赤ちゃん © Peter Bauza<br>
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MSF病院で産まれた赤ちゃん © Peter Bauza


南スーダンの女性は、一般的に6~7人の子供を出産します。しかし、一度帝王切開をしてしまうと、それ以降の妊娠・出産に関して様々なリスク(子宮破裂や癒着胎盤など)が生じてしまうため、極力、帝王切開による分娩を避けます。帝王切開の適応が日本と異なるため、逆子、双子、前回帝王切開などであっても、原則全て経腟分娩で対応しました。

結果的に日本よりも(約20%)、この病院での帝王切開率は低い(約3%)のですが(H29年厚生労働省静態調査とMSFのプロジェクトレポートより引用)、安全を期して早めに帝王切開をすれば赤ちゃんの予後も良かったのかなと思う症例もあり、複雑な心境になりました。とはいえ、帝王切開ばかりしてしまうと、次回以降の分娩に対する母体のリスクが上がります。今回の分娩での赤ちゃんの命と、今後も繰り返し妊娠を経験するであろう母の命を同時に考えなければいけないという、少し厳しい選択を迫られる時もありました。 

輸血製剤が足りない

輸血を受ける子ども © Peter Bauza

輸血を受ける子ども © Peter Bauza

現地では、産科医療にとって非常に大事な輸血の機会も限られています。現地では、献血の文化があまり受け入れられておらず、MSFによって運営されている血液バンクは、常にストックが乏しいのが現状でした。

そんな中、一人の患者さんが搬送されてきました。自宅分娩後に出血が増えて意識が朦朧として搬送された20歳の女性。来院した時には、既にヘモグロビンの値も低く、出血が止まらない状態になっていました。直ちに輸血を要請しましたが、その時、血液バンクに全く輸血製剤がありませんでした。患者家族に連絡をして親戚に集まってもらい、なんとか輸血を確保しました。一命は取り留めたものの、輸血までの時間がかかった影響か、止血した後も患者さんの意識は戻りませんでした。最後は、そのまま家族に引き取られて、自宅退院となりました。もし十分に血液があれば患者さんの予後は変わっていたかもしれません。 

病院が遠い……患者さんの苦悩

MSFの病院で治療を終えた息子を抱えて自宅に戻る母親<br>
 © Peter Bauza<br>

MSFの病院で治療を終えた息子を抱えて自宅に戻る母親
© Peter Bauza

我々医療者は、病院で患者さんが来るのを待っていますが、実はそこに到達するまでが非常に大変なのだと思い知らされました。

まず、患者さん自身が病院受診を決定するまでに時間がかかります。途上国では、体調が悪くなっても病院に受診せずに自宅で様子を見たり、伝統医療を頼ったりすることで受診のタイミングが遅れることがあるのですが、南スーダンにおいてもそのような傾向が見られました。自宅分娩後に体調が悪くなり、貧血が進んでから搬送されてきた患者さんがたくさんいました。

地理的な要因で受診が遅れることも多いです。南スーダンはとても広い国で、診療所までの距離も遠く、診療所から病院に患者さんを搬送するのも、とても時間がかかります。さらにインフラ整備も不十分で、車を所有している人もほとんどいないため、病院まで辿り着けない人が多いのです。例えば、雨が降ると、道は川のように変貌してしまいます。実際に雨が降った日の夜は、病院で待機していても、陣痛を訴える患者さんが全く来ませんでした。受診が遅くなるさまざまな背景が分かっていくにつれ、患者さんに対して、「なぜもっと早く来なかったのか」という考えは徐々に消え、「ここまで来てくれたのだから、何としても助けよう」という気持ちに変わりました。 

またいつか現場に

© Hiroki Akaba/MSF

© Hiroki Akaba/MSF

今回の活動を経て、世界にはまだまだ適切な医療の行き届いていない地域があるのだと痛感しました。同時に、その課題の克服はとても難しいものだとも感じました。働いているスタッフの診療レベルの向上だけでなく、医療器具や薬剤の供給や、電気や水などのインフラ整備なども、現地で医療を届けるには必要な支援だと感じました。

活動を終えた現在は、イギリスのロンドン公衆衛生大学院で、公衆衛生と医療経済学を学んでいます。『ある集団に対して、限られた資源で、いかに最大限に健康レベルを向上させることができるか』をテーマに、「輸血製剤や薬剤、スタッフなどいろいろな制約がある中で、いかに患者さんの命を守るか」という、今回の南スーダンでの現場経験を振り返りながら、勉強を続けています。本当に現地スタッフの方がたには、多くのことを学ばせて頂きました。

MSFの使命は、南スーダンのような地域の医療レベル向上のために最前線に立ち、現場に医療を届けるだけでなく、生の状況を伝えることにあると思います。私もMSFで活動した一員として、今回経験したことを多くの人に共有し、少しでも現地の状況を知って頂けたらと願っています。また、培った経験や学びを、現場に還元できるよう、今後も精進していきたいと思います。 

 
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