国際女性デー
タブーを乗り越え、前向きに──「性の健康」に取り組む女性たち
2023.03.08

リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の良好な状態は、すべての人びとにとって、生活の質を高めるために大切なことです。しかし、世界のシスジェンダー*やトランスジェンダーの女性や少女たちがそれを手に入れるためには、いまも無数の課題が存在します。
国境なき医師団(MSF)は、近年この問題にさまざまな方法で取り組んでいます。ギリシャ、ホンジュラス、ジンバブエのプロジェクトでは、女性自身の主体性とコミュニティのサポートを強めることで、女性はリプロダクティブ・ヘルスのニーズに積極的に関わることができ、社会にも影響を与えることができると分かりました。
どの国でも、女性や少女、男性、保護者、地域の人びとが、この変化に参加し、現実を変えていく力強いストーリーを持っているのです。
*自分自身が認識している「心の性」と、生まれ持った「体の性」が一致している人
リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)とMSFの取り組みとは?
避妊や性感染症の予防、産科ケア、安全な中絶ケア、カウンセリング、セルフケア支援ツールはすべて、女性が身体的な痛みや心の苦しみから解放され、活発で前向きな性生活を送るために大切な役割を果たします。しかし、コミュニティ全体や友人・家族、そして女性自身に内在するタブーや恐怖が、かえって女性の幸福を阻む障害となることもあります。
また、未婚の女性や青少年、少女、セックスワーカー、LGBTQI+コミュニティの女性、すでに差別された状態で暮らしている人たちは、特に情報、ケア、支援から排除される可能性があります。MSFは世界各地で、さまざまな境遇の女性の「性の健康」を支援する活動を行っています。

声を上げる──保護を求めるトランスジェンダー女性のために

Ⓒ Maro Verli/MSF
キューバからギリシャへ
長い間、人びとは迫害のため故郷を追われ、遠く離れた場所に保護を求めてきました。トランスジェンダーの女性たちの小さなコミュニティが、時間をかけてキューバから安全なギリシャに逃れてきたように──キューバ出身のジュリさんは、黒人でトランスジェンダーの女性として、より困難で危険を伴う旅を経て、ギリシャに逃れました。いま、彼女たちは以前より安全な場所にいますが、新しい土地で医療を受けるのには苦労しています。
ここに来たトランスのほとんどは、薬を持っていません。性感染症も経験します。人生とはそういうものです。でも、医療面のサポートはなかなか見つからないんです。
ギリシャ ジュリさん(仮名)──キューバ出身のトランスジェンダーの女性
疎外された人びとへ支援を

都市部のアウトリーチ活動も行っている
Ⓒ Maro Verli/MSF
ジュリさんは、「リプロダクティブ・ヘルスを優先し、自分自身を守ること。これを仲間に伝え、励ますことが私の使命です」と語ります。
セックスワーカーの「性の健康」のために立ち上がる

女性たちが前向きになれるように
「MSFに出会えてよかった」
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若い頃から多くの困難を乗り越えてきたナディアさん。いまは自分の「性の健康」に大きな価値を置いている Ⓒ Laura Aceituno
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サンペドロスーラ診療所では、心理・社会的支援も提供している Ⓒ Laura Aceituno
2年近く診療所を訪れているナディアさんは、幼い頃から虐待や依存症など、人生の中で多くの困難を乗り越えてきました。「MSFの診療所に出会えてよかったです。ここでは何でもそろっていて安心です。HIV/エイズや梅毒、性感染症の予防と管理から、家族計画、心のケアや福祉との連携まで……」とナディアさんは話します。
また、MSFのアウトリーチ活動を担うチームは地域を訪問し、不信感や誤った情報を克服するための支援を行っています。
自分自身を大切にしなかった時期が一番苦しかった。すべてのものには値段がありますが、自分を大切にすることはお金に変えられないほど貴重だと気づきました。
ホンジュラス ナディアさん──サンペドロスーラのセックスワーカー
10代の母親たちへ、医療と社会支援を届ける

Ⓒ Dorothy Meck/Afro Vision Trust
「ティーン・マムズ・クラブ」の結成
ジンバブエの10代の女性にとって、妊娠はタブーであるにもかかわらず、自分自身の体と人生に関わる決断について、意見を言う機会はほとんど、あるいは全くありません。適切な情報やケアを受けることもゼロに近く、探すことさえあきらめてしまう人も多いのです。
2020年、新型コロナウイルス感染症のロックダウンにより学校は閉鎖され、仕事、収入、移動が制限される中、ジンバブエでは予定外妊娠が急増しました。ムバレとエプワースにあるMSFの思春期のリプロダクティブ・ヘルスプログラムが行われている地域でも、予定外妊娠の増加が見られたのです。そこでMSFは、妊娠中の少女たち特有のニーズに応えるため、「ティーン・マムズ・クラブ」を結成しました。
仲間ができて、知識も増えた
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クラブには120人以上の女の子が在籍し、リプロダクティブ・ヘルスや復学、収入を得るためのスキルなどについて学んでいる Ⓒ Dorothy Meck/Afro Vision Trust
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妊娠中の危険な兆候について説明されたチラシを手にする参加者 Ⓒ Dorothy Meck/Afro Vision Trust
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子どもの世話をしながらクラブに貢献しているマーベラスさん(左)。母のジャクリーンさん(右)はマーベラスさんの成長を誇りに思うと話す Ⓒ Dorothy Meck/Afro Vision Trust
このクラブでは、妊娠中の少女たちが妊娠初期のリスクを軽減できるよう支援し、若い母親が避妊や安全なセックス、妊娠、出産、親になること、心のケア、学校や進路に関する知識を身につけることを目的にしています。また、少女たちがリプロダクティブ・ヘルスケアを受けることを困難にしている考え方やタブー、高額な医療などの社会的障壁を取り除くことも目指しています。
新学期間近のマーベラスさんが妊娠したと知った際、両親はショックを受けました。マーベラスさんは「どうしたらいいか、誰に頼ればよいのかさっぱり分かりませんでした」と話します。それでも、ティーン・マムズ・クラブを見つけたおかげで、自分と同じ境遇の仲間に出会い、早期妊娠のリスクについて学び、避妊や安全なセックスや妊娠にまつわる問題について知識を得ることができました。マーベラスさんは、その経験に触発され、今ではクラブのピア・エデュケーターとして活動しています。
このクラブの結成は、コミュニティ内の妊産婦死亡の減少に大きな変化をもたらしました。支援を受けた人たちは、今ではメッセージを広める役となって活動しています。
ジンバブエ マーベラスさん──ティーン・マムズ・クラブのピア・エデュケーター

トップ写真:ジンバブエの「ティーン・マムズ・クラブ」で、ピア・エデュケーターとして活動するマーベラスさん Ⓒ Dorothy Meck/Afro Vision Trust
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