特集

リーダーシップを発揮する女性たち

“できないとあきらめずに、挑戦してほしい”

2022.03.08

プロジェクト・コーディネーター
上西里菜子

ジンバブエ南部に位置する国境の町、ベイトブリッジ。南アフリカ共和国への玄関口であるこの町は、ジンバブエのみならずアフリカ諸国から南アフリカを目指す人びとが通過する場所だ。国境なき医師団(MSF)は2019年からベイトブリッジで医療援助活動を展開。チームを率いるのがプロジェクト・コーディネーターの上西里菜子だ。

大切なのはリーダーとしてどのようにふるまうか—男性だから、女性だからということは関係ありません

ジンバブエ南部に位置する国境の町、ベイトブリッジで医療援助活動チームを率いる、プロジェクト・コーディネーターの上西里菜子 © MSF
ジンバブエ南部に位置する国境の町、ベイトブリッジで医療援助活動チームを率いる、プロジェクト・コーディネーターの上西里菜子 © MSF

ベイトブリッジでの医療活動

2021年3月から、ベイトブリッジで移民の医療援助活動のプロジェクト・コーディネーターをしています。アフリカ大陸は“人が動く”大陸ですが、アフリカの移民の65%はヨーロッパなどではなく他のアフリカの国に移動します。その中でも南アフリカは移住先として選ばれることが多く、ベイトブリッジは人びとがたくさん通過していきます。また、南アフリカから何らかの理由で送り返される人びともこの場所に戻ってきます。
 
さまざまな背景の人びとが交差するこの町では、医療のニーズもまた多様です。MSFの目的は、この場所を通過する全ての人びとが健康でい続けられるようにすること。外来診療をはじめ、慢性疾患の方への薬の提供やHIV患者へのケア、産科医療、マスクや衛生用品の配布、新型コロナの対応サポート、また移動中にさまざまな経験をしているので、心のケアも行っています。
 

多くの人びとが行き交う場所でMSFは医療サービスを提供している © MSF
多くの人びとが行き交う場所でMSFは医療サービスを提供している © MSF

スタッフを支える役割

プロジェクト・コーディネーターは、一言でいうとプロジェクトの代表として全責任を負っている立場です。リーダーにもさまざまなタイプのリーダーがいますが、私が目指しているのは、チームメンバーに奉仕するような形のサーバントリーダーと呼ばれるような人。例えば、プロジェクトが一つのショーだとすれば、ショーを演じるのはスタッフの人たちです。そのショーがうまくいくように陰でしっかりと支えるのが私の役割だと思います。
 
日々の仕事の中で大切にしているのは、話をすることです。ミーティング以外の場所でも積極的に声をかけています。お母さんの調子がよくないと話しているスタッフがいた場合は、数日後に声をかけて様子を聞いています。
 
プロジェクト・コーディネーターである以上は、財務、人事、リスクマネジメントなどで、難しい決断をしなければならないこともあります。また、MSFの医療・人道援助活動の水準を守っているからこそ、医療活動が成り立っています。そこに関して自分は厳しいと言われますが、日常的なコミュニケーションを積み重ねていくことで信頼関係ができて、新しい挑戦もできるのだと考えています。
 

大胆な戦略変更

2021年3月に着任したときは、プロジェクトの目的や目標が明確ではなかったため、最適に運用されているとは言えませんでした。すぐに戦略を練り直し、実行に移しました。最初はどのような反応が返ってくるか不安もありました。何より変えることでスタッフのモチベーションが下がることが心配でした。ただ、リーダーの存在理由はプロジェクトをどのように成功に導くかです。その軸を信じて、実行に移していきました。
 
スタッフも最初は驚いたと思いますが、数カ月経つと変化が見えてきました。スタッフの表情や仕事ぶりが生き生きとしてきたんです。一人一人に役割を与えたことで、「自分が役に立っている」「貢献している」という意識が芽生えたのだと思います。地元の人からの信頼や評判も上がり、ポジティブな声を聞くことも増えました。結果としてプロジェクト自体も1年延長されることに。ただ、今もまだ実現したいこと、できたらいいなと思うことはたくさんあります。
 

リーダーとして大切なこと

国によっては女性が男性の上に立つことが好ましくないとされる場合もあります。文化的にも個人的なレベルでもそのようなことはあるでしょう。そういった場面では苦労しますよね。でもだからといって態度を変えるのではなく、大切なのはそこでリーダーとしてどのようにふるまうか、でしょう。それを学ぶ機会になると私は考えています。
 
意思決定の場では、そもそも全員が賛成できることは少ないものです。その際に一方的に説き伏せるのではなく、どのようにコンセンサスをとっていくかが重要です。みんなの意見を聞き、できるだけチームの一人一人が意思決定に参加できるように導いていく。それがリーダーのあるべき姿だと思いますし、男性だから、女性だからということは関係ありません。
 
私も最初はMSFで自分に何ができるかわかりませんでした。でもとにかく応募してみた。そこからいろいろな情報や出会いがあり、自分の道が広がっていきました。自分にはできないとあきらめてしまわずに、挑戦してほしいと思っています。
 

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【イベント報告】オンライン講演会「知られざる苦難 生きるために南アフリカを目指す人びと ~ジンバブエから生中継~」(2021年5月27日開催) 

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