海外派遣スタッフ体験談

専門領域以外の手術を見て大きな刺激にも:小林 直之

2018年08月07日

小林 直之

職種
外科医
活動地
パレスチナ自治区
活動期間
2018年6月~7月

Q国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?

今回はMSFで5回目の派遣です。外科医として人道援助活動をするうえで、MSFは数ある団体の中で最もシステム化されており、参加しやすいからです。今回は勤務する病院を変わるタイミングで派遣を希望しました。 

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか?どのような準備をしましたか?

3週間ほど、地元病院の手術室に通って心臓血管外科、脳神経外科、泌尿器科などを見学し、手術動画や赤十字国際委員会の発行する『War Surgery』のテキストで準備しました。ガザ、イスラエル情勢はネット、MSF、過去の派遣医師から情報を得ました。 

Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか?どのような経験が役に立ちましたか?

過去の派遣で行った植皮の手技が今回、非常に役立ちました。

現地スタッフが手術開始後30分もすると集中力を失い、執刀者にお構いなく大声でおしゃべりし始めるのは万国共通で、今回もありました。手術中、静粛にするのは日本くらいかもしれません。これも過去の派遣で経験済みだったので、「アウェイの洗礼」と思って意に介さないようになりました。

過去2回のパキスタン派遣でイスラムへの親しみがあり、挨拶「アッサラーム・アライクム(こんにちは)」を覚えたのが、今回のパレスチナでも役立ちました。
 

Q今回参加した海外派遣はどのようなプロジェクトですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?

パレスチナのガザで抗議デモに参加中、イスラエル側からの銃撃で下肢銃創を負って治療したパレスチナ人の患者さんを対象に、急性期を過ぎてからの治療を行うプロジェクトです。

骨折、下肢切断、組織欠損に対して整形外科手術、形成外科手術、リハビリ、心理ケアを行いました。
 
下肢切断後の患者さんのデブリードメント(筆者右)
下肢切断後の患者さんのデブリードメント(筆者右)
活動現場はガザ市内の複数の病院で、PFBS病院では一般外科医の私のほか、ニュージーランド人の麻酔医、フランス人看護師、スウェーデン人看護師、パレスチナ人コーディネーター、麻酔助手、器械出し看護師、外回り看護師など、6~7人のチーム構成でした。

また、シファ病院では香港の麻酔科医、ニュージーランド人看護師、韓国人看護師と一緒でした。1日5~10件のデブリードメント(※)、植皮、創洗浄、ガーゼ交換を行いました。ブラジル人形成外科医、ドイツ人形成外科医、フランス人整形外科医の手術助手も務めました。

※感染を起こした傷や壊死した組織を切除する処置
 
Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか?また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?

現地で誕生日を迎えたフランス人看護師を、写真入りケーキでお祝い
現地で誕生日を迎えたフランス人看護師を、写真入りケーキでお祝い
 基本は朝8時~夕方5時、夜間の緊急はありません。昼食は忙しさにより、とる時間がないときもありました。

金曜、土曜は勤務なし。各国から来ている外国人スタッフと宿舎で語ったり、旧市街、戦没者墓地、教会を見て回ったり、サッカーのワールドカップをテレビで観戦、そのほか、カードゲーム、読書、ネットなどをして過ごしました。
Q現地での住居環境について教えてください。

ガザの宿舎では、別のプロジェクトで活動するMSFスタッフが30人ほどで共同生活をしました。ベッドが2つある部屋で、活動期間が短期のスタッフ(ブラジル、スペイン、アルゼンチン)がルームメートになりました。

部屋は十分広く、シャワー、トイレは清潔で、ランドリーのサービスもありました。食事はセルフサービスで美味でした。夏期で35℃まで気温が上がっても、湿度が50%台で地中海の風が吹き、エアコンがなくても扇風機で十分でした。居住環境は(MSFの基準で言えば)ホテル比較サイトの星4つに相当し、今までの派遣の中で最も快適でした。
 

Q活動中、印象に残っていることを教えてください。

整形外科医、形成外科医の手術を見てコツを教わったのが、よい刺激になりました。一方で、専門医による手術でも経過が悪いケースもあり、後任の派遣医師によると、術式の選択がよくないのでは、と言っていました。一連の経過を見て、多くを学びました。

MSFには、各国から個性的で我が強い派遣スタッフが参加しています。その中でアジア人や日本人のスタッフが欧米のスタッフから尊厳を持って扱われていないと感じることもありました。過去の派遣では不要不急の場面で怒鳴られたこともあります。その背景には、欧米の世界観やその人の考え方に加えて、日本人の英語力、コミュニケーション力の不足があると思います。それでも私が派遣を続ける大きな理由の一つは、国際NGOの医療援助活動において日本人がどのような立場でいるのかを、確認したいからです。

治安面では、1ヵ月のガザ派遣期間中に何度かイスラエルによる爆撃が聞こえました。2014年以降、最も大規模な爆撃もあり、死者2人と報道されました。宿舎から200メートルほどの地点に着弾し、窓、壁が衝撃波で振動しました。今回の派遣で最も緊張が走った瞬間でした。

Q今後の展望は?

派遣地により活動内容は異なりますが、日頃から常に戦傷外科を意識して手術に臨みたいと思います。 

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

派遣に備えて英会話の修練の他、専門領域以外に、楽器や歌など特技があるとよいと思います。また、スタッフの皆が興味がある訳ではありませんが、サッカーは共通の話題の一つです。日頃からスポーツ、ゲーム、趣味、ニュース、国際政治など広く関心を持ち、情報に多く接しておくとコミュニケーションに役立ちます。

最後にあえて言いますが、各国スタッフとの生活では、鼻水をすする音、食物を口に運ぶ際の吸引音、かむ時のくちゃくちゃする音、飲み物をすする音は厳禁です。
 

MSF派遣履歴

  • 派遣期間:2014年6月~2014年7月
  • 派遣国:パキスタン
  • プログラム地域:ハングー
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2013年6月~2013年7月
  • 派遣国:パキスタン
  • プログラム地域:ハングー
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2010年1月~2010年2月
  • 派遣国:ナイジェリア
  • プログラム地域:ポートハーコート
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2001年7月
  • 派遣国:スリランカ
  • プログラム地域:バブニヤ
  • ポジション:外科医

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