海外派遣スタッフ体験談

医療も生活も、日本では体験できないことばかり:上村 三徳

2018年05月25日

上村 三徳

職種
手術室看護師
活動地
イエメン
活動期間
2017年8月~2018年2月

Qなぜ国境なき医師団(MSF)の海外派遣に参加したのですか?

以前から海外でのボランティア活動に対して興味を持っていました。高校生のころ、看護師としてもボランティア活動ができることを知り、看護師を志しました。

大学卒業後は手術室看護の道へ進み、知識と技術を学んでいきました。経験を積んで手術室看護師としての自信がつき、海外ボランティア活動への参加を決心。その後いろいろな団体を調べました。

元々MSFの名前だけは知っていましたが、ネットやSNSで活動内容を知って非常に感銘を受け、さまざまな国の人と医療活動を行うことに魅力を感じたこと、また手術室看護師のポジションがあることを知り、参加を目指しました。

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか?どのような準備をしましたか?

派遣までの間は、手術室看護師としての直接介助・間接介助の知識や技術の再確認、滅菌物や滅菌機器、特にオートクレーブ(高圧蒸気滅菌装置)の取り扱いの再確認、手術看護基準の確認などをしていました。また今回は指導者としての役割も担っていたため、日本人の経験者にこれまで現場でどのような指導やトレーニングをしていたかなどを聞いて、現場で起こりうることを想定して準備していました。

英語は毎日聴くようにしていました。料理中にBBCニュースを聴いたり、毎日最低1時間は海外のドラマを字幕なしで観たり、週末は日本在住の外国人の友達と交流したりしました。

出発前には派遣地の文化や情勢などを調べました。

Q今までどのような仕事をしてきましたか?また、どのような経験が海外派遣で活かせましたか?

新卒から今まで、手術室看護師として勤務してきました。今はほとんどの病院で、滅菌・洗浄業務は滅菌技師が管理していますが、自分が新卒で手術室に勤務していた頃は滅菌作業も手術室看護師の業務の一環であったため、手術器具の洗浄方法・取り扱いや滅菌作業の実際を知っていました。

海外派遣では手術室看護師だけでなく、滅菌技師や手術室の清掃員への指導や研修もあったため、その経験が役に立ったと思います。

Q今回参加した海外派遣はどのようなプロジェクトですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?

手術中のようす
手術中のようす
イエメンの首都サヌアの南部にあるアルカイダ地区で、外傷専門の病院にて活動しました。銃創患者、交通外傷患者や緊急帝王切開、急性虫垂炎の患者が多く、また紛争による受傷者が運ばれてくることもしばしばありました。

救命部・病棟・集中治療室(ICU)・新生児室・産科・外来・手術部・コレラ治療センター(CTC)を備えている病院であり、私の主な役割としては、手術室のスーパーバイザー(管理者)として、現地の手術室看護師、滅菌技師、清掃員らの業務の質向上とマネジメントをしました。また、現地スタッフのスーパーバイザーが自律的に手術室スタッフの質向上と教育が出来るようにサポートをすることも仕事でした。このほか、病院増築に伴う手術室内の整備や見直し、スタッフの採用、シフト管理などにも携わりました。
 
手術室メンバーは、外国人派遣スタッフの私と外科医が1人、現地スタッフとして手術室看護師が9人、滅菌技師6人、清掃員4人、外科医2人、整形外科医2人、麻酔科医2人、麻酔医アシスタント5人でした。
外国人派遣スタッフと現地スタッフで協力し<br> 宿舎周りの清掃活動<br>
外国人派遣スタッフと現地スタッフで協力し
宿舎周りの清掃活動
手術室は、増築前には1つしかありませんでしたが、1日の平均症例数は約15件で、2017年度の手術件数は3800件以上あり、軽傷が多いものの、ほぼ毎日夜間の緊急オペも行っており、忙しい病院でした。

手術室スタッフは基本的に知識や技術が高く、毎日忙しいのに弱音を吐かずに自分たちの役割を果たす姿勢や、研修へ積極的に参加するなど、学ぶ姿勢にとても感銘を受けました。
 
それでも、いまだに専門的な知識や技術をトレーニングする必要性はあり、現地の手術室看護師のスーパーバイザーと協力して研修を計画・作成し、実施し、また手術室増築に伴う手術室の管理や見直しを行いました。
Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか?また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?

滅菌技師にオートクレーブの指導をする筆者(右)
滅菌技師にオートクレーブの指導をする筆者(右)
基本的には週休1日で、セキュリティー上、外出が出来ないため病院と宿舎を行き来する毎日でした。

勤務スケジュールとしては、毎日のセキュリティ・ミーティング、医療ミーティング後、医師と病棟を回診し、手術のスケジュールを確認。手術室に戻り手術を受ける患者の順番を決定して手術を行っていきます。ただし、大抵は急患により予定が崩れるため、ほぼ毎日、時間内に手術が終わらないという状況でした。また、派遣中には空爆により、一度に多数の負傷者が運び込まれる事態が発生していたため、非常に忙しく慌ただしい日々を過ごしていました。
宿舎で仲間とゲーム
宿舎で仲間とゲーム
管理業務においては、毎月のシフト作成、スタッフの評価、増築による手術室の整備とスタッフの増員、月々の部署のデータやレポートの作成、スタッフへの研修などを行いました。

休みは金曜日で、外出が出来ないため、宿舎で他の外国人派遣スタッフとピンポンをしたり、映画を鑑賞したり、料理を作ったりなどして過ごしていました。
Q現地での住居環境について教えてください。

ゲストハウスで仲間と誕生日会
ゲストハウスで仲間と誕生日会
イエメン式の4階建てのアパートのような宿舎で生活していました。部屋数も多く、個室でトイレ(和式に近い形)・シャワーが各フロアにあり、食事はリビングで、外国人派遣スタッフと一緒にとっていました。また、テラスやTVルームもあり、週末にはみんなで映画鑑賞をしたり、時々、現地スタッフも誘いBBQをしたり、コミュニケーションの場としても最適でした。

簡易的なジム(ランニングマシーンとバイク)もあり、外出できない分、エクササイズをするスタッフもいました。住居にはインターネットを設置していましたが、速度は遅く、ネット自体もブロックされていることもありました。
Q活動中、印象に残っていることを教えてください。

手術室スタッフとともに
手術室スタッフとともに
銃創患者の処置や手術、負傷者が一度に多数出る集団災害発生時のトリアージ(※)、コレラ・ジフテリア・破傷風の診断や治療、手術室のスーパーバイザーだけでなく看護師長として3週間病院のマネジメントをし、またイエメンや他のさまざまな国から参加している外国人派遣スタッフとの生活など、今まで日本で経験できなかったことが多く、とてもやり甲斐を実感できました。

日々忙しい中でも、毎日の回診で患者さんと接する時間があり、とてもフレンドリーで優しく、どんなに傷ついていても毎日笑顔で迎え入れてくれる彼らに救われることばかりでした。
仲良くしてくれた患者の男の子と
仲良くしてくれた患者の男の子と
苦労したことは、看護師長が休暇に入ったときに、そのポジションをカバーしていたことです。今回は自分にとって初の活動であり、これまで看護師長のようなポジションを経験したこともなかったため、困惑しました。

その時期、看護師の外国人派遣スタッフが私以外おらず、カバーせざるを得ない状況でした。各部門の管理や指導・研修の日程決め、問題が起きた時の対応、シフトの管理や毎月行う病院全体のデータ収集とレポート作成など、とても多くの事を行なわなければなりませんでしたが、何とか大きな問題は起こらず、3週間やりきることが出来ました。とても大変でしたが、逆に非常にいい経験にもなりました。
 
※重症度や緊急度などにより治療の優先順位を決めること

Q今後の展望は?

今後も参加を考えています。まずは、今回の派遣前に勤めていた病院にて、半年以上は手術室看護師として働く予定です。今回の初参加で自分に足りない部分も分かったので、それを修正・学習しながら次の活動に備えていきたいです。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

不安なことや分からないことも多いと思います。私も英語力に不安を抱えていましたが、派遣経験者の先輩の一言で応募に踏み切る勇気をもらいました。まずはその一歩を踏み出してみてください。

MSFの海外活動に参加することとは、決して簡単なことはなく、安全とも言えません。しかし、海外派遣での経験や知識、他文化の理解や多くの友など、新たに得るものは多く、自分が成長できる喜び、日本の良さもより感じることが出来ます。

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