海外派遣スタッフ体験談

国際協力で活動するのに必要な力は?:田岡 知明

2018年01月19日

田岡 知明

職種
看護師
活動地
バングラデシュ
活動期間
2017年9月~10月

Q国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?

MSFには2008年から参加しており、今回が7度目です。前回の活動は2014年でした。今年の6月に公衆衛生の修士課程を卒業したばかりで、そこで学んだことを今後の活動で活かしていきたいと考えていました。

4歳の娘がいるため、父親のしている国際協力の仕事の意味が分かるまでは一緒にいてあげたいと考えており、単身での長期派遣は難しいと思っていました。そんなとき、タイミングよく短期での緊急援助の派遣要請があり、今までのMSFの経験や公衆衛生学部で学んだ知識を活かせると思い参加を決めました。

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか?どのような準備をしましたか?

国際援助に参加していくにあたり、より専門性を高めるためにタイ国のマヒドン大学公衆衛生学部で修士を取得しました。公衆衛生学部では、統計・疫学の習得にとどまらず、保健医療プロジェクトの立ち上げから、運営管理、評価まで一貫したプロジェクト運営について習得しました。

また、授業で学ぶマネジメントとは別に、学部ではクラスリーダーとして、文化や習慣の違ったさまざまな国籍のクラスメイトを1つにまとめあげてきました。ここで得られた経験と習得した能力は、国際援助の多様な活動で必ず役立つと考えています。

Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか?どのような経験が役に立ちましたか?

難民キャンプ内にて
難民キャンプ内にて
緊急援助は、インドネシアのスマトラ島沖地震、またスリランカ内戦終結のときにプロジェクトの立ち上げから参加していたので、仕事の流れについてはイメージがあり、今回もプロジェクト全体が見渡せたと思います。

診療所の設立・運営については、スマトラ島沖地震とスーダンでの栄養失調児の援助のときに、移動診療所の設立と運営をした経験があり、物品管理や配置、患者受け入れの手順、現地スタッフの教育など、迷うことなく実施できました。
 
ロヒンギャ難民キャンプ内には栄養失調児が多く、スーダンでの経験が活かされました。
 
活かされた経験はこれだけでなく、今まで参加してきたすべての経験が積み重ねられ、今回のロヒンギャ難民の援助に結び付いたと思います。
Q今回参加した海外派遣はどのようなプロジェクトですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?

診療所内で活動中の筆者
診療所内で活動中の筆者
ロヒンギャ難民の緊急援助で、プロジェクトは現地調査から始まり、診療所の立ち上げ、入院施設の設立、予防接種の拡充をはかり、日々増えていく難民人口に対応していくというものでした。

私が参加したのはわずか3週間という期間でした。その間に診療所の立ち上げを行いました。具体的には、診療所で働く現地スタッフのリクルート・管理・教育、患者がスムーズに診療を受けて帰れるように、トリアージ・受付・診療・薬剤までの流れの管理、重症患者を診療所から病院に移送するための手続き、薬剤の整理・請求、データ収集など、診療所運営全体を他のスタッフと協力して管理していました。
 
私が参加した当初は、外国人派遣スタッフは私を含め7人でした。その後、続々と増員され3週間後には20人を超えていたと思います。実際に診療所での治療に関わった医療スタッフは、医師1人・看護師2人・助産師1人でした。
 
診療所で働いていた現地スタッフは、医師1人、医療アシスタント2人、看護師4人、薬剤師2人、通訳2人、患者受け入れなどを整理するスタッフが3人でした。
 
診療所には、毎日300人前後の患者が来院していました。その内、3分の1は5歳未満の子ども、3分の2は成人で、女性が多かったです。症例としては、上気道炎・下痢など衛生環境の悪さが原因のものが多かったと思います。
 
銃創などもまれにありましたが、縫合処置が必要なほどの患者はそれほど多くはありませんでした。長期間の移動による足のけがや、シェルター建築中の事故、子どものやけどなどが主でした。
Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか?また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?

朝7時にホテルの食堂で朝食、7時30分過ぎに車に医療物品を積み込み、診療所に向けて出発します。

9時前後にキャンプ内の診療所に到着し、診療を開始。お昼は12時前後に、持参したバナナとビスケットで昼食をとり、午後4時には診療を終了し帰路につきました。6時過ぎにホテルに着き、夕食をとった後、毎日1時間程度のミーティングがありました。翌日の診療所に持参する薬剤や医療物品の準備などもあり、就寝は午後10時前後でした。

実際にキャンプ内で診療を行っていた時間は午前9時から午後4時までの7時間程度でした。現地は連日の猛暑に加え、診療所内は風通しがあまり良くないため、サウナの中で診療をするようなもので、ちょっと動くと玉の汗が止まらない状況でした。

また、車を降りてから診療所まで徒歩で10分程度キャンプ内の道を登って行くのですが、照り付ける太陽の下、暑いだけでなく道が非常にぬかるんでおり、長靴は必携でした。くたくたになって帰ってきて、それからミーティングや薬剤の整理をして……毎日充実感があり、よく眠れました。

Q現地での住居環境について教えてください。

一緒に働いたMSFスタッフと
一緒に働いたMSFスタッフと
緊急援助のため、MSFの宿舎が完成しておらず、任期中はホテル暮らしでした。海岸沿いの比較的大きなリゾートホテルで、MSFの他にも国際協力団体や報道関係者が宿泊していました。

私の部屋は1人部屋で、エアコンがありホットシャワーが出る快適なところでした。ただ、虫が多かったので部屋のドアを開け離しにはできませんでした。浴槽(使わなかったが、一応あった)に巨大なヒルが1匹住んでいて、排水溝から流しても翌日には元の位置に戻っていました……。
 
ホテルには大きなレストランが併設されており、朝夕の食事はそこでとりました。一応メニューがありましたが、できるものは限られ
 
ネットはロビーでつながりました。停電はしょっちゅうでしたが、それでも1分以内に回復したのでそれほど苦にはなりませんでした。
Q活動中、印象に残っていることを教えてください。

私がバングラデシュに来るのは2回目です。初めて来たのは約20年前、1998年の秋、当時まだ私が看護師ではなかった頃、マザー・テレサの施設でボランティアをしていました。インドのマザー・テレサの施設は有名ですが、バングラデシュにも施設はあります。

当時、外国人のボランティアは自分だけでした。空港も今みたいにきれいではなかったし、町も雑然としていて、外を歩いているのは男性ばかりというような状況でした。今回、20年の間に近代化した変化をしみじみと感じました。

ロヒンギャ難民の穏やかな振る舞いには、驚いたというより感動しました。村を焼かれ、家族を失い、散々な目にあって逃げてきており、自分の命を守るのがやっとなのに、きちんと診察の順番を守り、重症の人がいれば不平を言わず先に譲ります。外国人派遣スタッフが難民キャンプのなかを1人で歩いても危ないこともなく、雨の中歩いていたら傘をさしてくれた人もいました。

心苦しかったことは、診療終了の午後4時を過ぎて受診に来た患者に対応できなかったことです。安全管理のルールで、キャンプにいられるのは午後4時までと決められていたことと、現地スタッフに時間外の負担をかけないためにも、4時を過ぎて来た患者は診療を断っていました。後ろ髪を引かれる思いでした。

Q今後の展望は?

派遣の経験を積み重ねて、国際協力により深く関わっていきたいと思います。また、派遣された中での仕事をするだけではなく、帰国後も、MSFの活動をサポートして、国際協力全体をより質の高いものに盛り上げていきたいと思っています。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

現在の仕事や家庭の状況などの理由で、なかなか派遣に踏み切れない方も多いと思います。とりあえず応募してみる、参加してみる、というのは多くの経験者がアドバイスしているので、私は実際に国際協力に参加するうえで何が求められているのか、どんな能力が必要なのか、自分なりに思うところを書いてみます。

さまざまな年齢層の方がMSFの活動に興味を持ってくれていると思います。グローバル化が叫ばれる今日、国際協力で活動していくために必要なことは、マネジメント能力、リーダーシップ、協調性、そして健康だと思います。

語学や専門領域の勉強だけでなく、マネジメント力やリーダーシップを高めるために努力していく必要があると思います。例えばリーダーシップについては、学生であればできるだけ多く学校やサークルで役割を持ち、クラスメイトや友達をまとめていくようなことです。こうした力は机上で勉強しても全く身につきません、積み重ねが大切です!

語学力に関しては、ある程度の能力は必要だと思います。そうは言っても、例えばもし英語が話せることだけで国際協力が成立するのであれば、アメリカ人やイギリス人だけで援助を行えばいいわけです。なぜ、英語が母国語でないアジア人が大勢、国際協力の舞台で活躍できるのか、それを知り、そのために必要な力をつけることが国際協力で働いていくために必要であると思います。

海外派遣に参加したい!というやる気は大切です(これがなければ何も始まらない…)が、ただ参加して自分の力をフィールドで役立ててみたいという気力だけでは不十分。多分これだと不安の方が強く、いろいろな理由をつけて参加に踏み切れないのでは?と思います。

じゃあ、どんな「やる気」が必要かというと、しっかりと国際協力に関する能力や専門性を身に着けて、それに裏付けられたモチベーションが必要だと思います。自分の力が向上することで自信も生まれ、振り返って仕事や日々の生活、家庭の問題を考え直したときに、より前向きに派遣に参加を考えられ、今後の国際協力に関わっていけるのではないかと思います。

MSF派遣履歴

  • 派遣期間:2014年8月~11月
  • 派遣国:シリア
  • プログラム地域:—
  • ポジション:看護師
  • 派遣期間:2011年2月~11月
  • 派遣国:インド
  • プログラム地域:ビハール州
  • ポジション:看護師
  • 派遣期間:2009年10月~11月
  • 派遣国:インドネシア
  • プログラム地域:スマトラ島沖地震対応
  • ポジション:看護師
  • 派遣期間:2009年5月~8月
  • 派遣国:スリランカ
  • プログラム地域:マニック・ファーム
  • ポジション:看護師
  • 派遣期間:2008年6月~10月、2008年11月~2009年1月
  • 派遣国:スーダン
  • プログラム地域:ダルフール、アウェイル
  • ポジション:看護師

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