海外派遣スタッフ体験談

安心して病院に来てほしい 性暴力の被害者がケアを受けられるよう啓発

2022年01月19日

園田 亜矢

職種
ヘルスプロモーター
活動地
コンゴ民主共和国
活動期間
2020年10月~2021年6月

ユニセフインド事務所や日本のNGO などでの勤務を経て、2014年から国境なき医師団(MSF)に参加。地域住民に健康衛生教育、病気予防のための啓発活動を行うヘルスプロモーターとして、これまで6カ国で活動。今回の派遣では、性暴力被害者を支援するプロジェクトに従事。(写真:本人中央)

理不尽な立場に置かれた、性暴力の被害者たち

地域の村々を訪ねて啓発活動を行った © MSF
地域の村々を訪ねて啓発活動を行った © MSF
コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)の中央カサイ州では2016~17年に武力衝突が起き、兵士による女性や子どもへの暴力が激増しました。紛争が落ち着いたいまも、武装した強盗などによる性暴力が日常的に数多く発生しています。ショックだったのは、性暴力に遭った女性たちが、被害者であるにも関わらず社会的に非難されているということです。肉体的にも精神的にもダメージを受けた上に、信頼している夫や家族から見捨てられ、地獄のような日々を生きている女性たちがいました。なんて理不尽なことが起こっているのだろうかと、いたたまれない気持ちになりました。
 
MSFは2017年から中央カサイ州で、紛争の被害を受けた人たちへの外科手術や、性暴力被害者の支援、栄養失調治療、移動診療などの医療援助を提供してきました。2019年からは性暴力被害者へのケアに特化して活動しています。
 
ヘルスプロモーターのチームは、地域へ出向き、性暴力に遭ったら病院へ行くよう伝える啓発活動を行っています。私はチームをまとめ、スタッフを育成する役割を担いました。

どうしたら病院に来てもらえるか

人びとが集まる診療所で情報を伝える © MSF
人びとが集まる診療所で情報を伝える © MSF
性暴力を受けた人が社会に非難されるという背景から、多くの被害者は病院に行くことをためらいます。しかし被害者には、傷の治療、望まない妊娠や性感染症の予防、心理療法士によるカウンセリングなど、適切なケアが必要です。
 
安心して病院に来てもらえるよう、「被害に遭ったのはあなたのせいじゃない。あなた自身の心と体の健康を守るために、治療が必要です。病院では必ずあなたの秘密を守ります」というメッセージを広めました。
 
医療支援の存在を知ってもらうためにラジオでメッセージを流したり、住民に影響力のある宗教的リーダーや女性リーダーにトレーニングをして地域でメッセージを広めてもらったり、保健所の妊産婦健診で情報を伝えたり、性暴力被害者の支援をしている現地の団体と協働したりと、さまざまな取り組みを行いました。
 
こうした活動を通して、治療する必要があるという認識が地域住民に広まり、病院に来る人は年々増えています。それでもまだ躊躇して病院へ行けない人が多くいると考えられます。

中学校と連携し子どもたちへ啓発

中学生が自分の言葉で同級生に学びを共有 © MSF
中学生が自分の言葉で同級生に学びを共有 © MSF
この地域では、10代の子どもが性暴力に遭うケースも少なくなく、14、15歳といった年齢で望まない妊娠により学校に通えなくなる子どももいます。また、社会の意識を変えるためには若い世代への啓発が必要です。そこで、チームでは中学校での啓発活動を開始しました。
 
5つの中学校から「アンバサダー」として選ばれた16人の生徒に研修を行い、彼らがその学びを自校の他の生徒たちに共有します。大人からの「指導」ではなく、仲間同士が学びあう形で、性暴力というテーマをタブー視せずオープンに議論してもらいたいという願いから始まりました。子どもたちは「もし友達が被害に遭ったら?」「HIVの感染を防ぐには?」といったことを学び、生徒によるスピーチ大会も開催しました。
スピーチ大会で自らの意見を語る中学生 © MSF
スピーチ大会で自らの意見を語る中学生 © MSF
子どもたちは、性暴力がはびこる社会の現実について、以前に比べて恥ずかしがらずに考え、語れるようになったと教員たちが話してくれました。またスピーチ大会の中で、「被害者を差別するのではなく受け入れられる社会にしたい」という意見を中学生が発表するのを聞き、若い世代が社会通念を変えていく希望を感じました。

現地のスタッフの力で活動が継続されるように

共に活動した仲間たち © MSF
共に活動した仲間たち © MSF
今後、現地のスタッフだけで啓発活動を継続できるよう、チームビルディングとコーチングにも力を入れました。目指す方向や戦略をメンバーと議論、共有することでチーム全体のやる気向上につながることや、フィードバックの重要性などを伝えました。プロジェクトでは、将来的にMSFが活動を終了しても必要なケアが提供されるよう、現地保健省の人材育成や資材支援も行いました。
 
これまでコンゴを含め7つの国で活動しました。ヘルスプロモーターとして地域住民の生活に触れ、彼らと接する中で感じたのは、世界はとてつもなく不公平であるということ、そしてひどく苦しい思いをしている人ほど不平も言わずに歯を食いしばって生きている、ということです。不条理に直面しながらも前を向く人たちの姿に励まされてきました。それが私にとって活動に参加するモチベーションになっています。 
 
 
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