海外派遣スタッフの声

相手の立場に立ち、信頼関係を築くことが活動の鍵:團野 桂

ポジション
内科医
派遣国
バングラデシュ
活動地域
コックスバザール州
派遣期間
2018年1月~7月

国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?

今回の派遣は7回目です。前回派遣のイエメンから2017年12月に帰国後、1ヵ月間の休暇を経てバングラデシュに赴きました。
前回のイエメンは紛争地域で、また3ヵ月という短期間だったため、満足のいく活動が出来ませんでした。イエメンでは、反政府派が占領していた北部地域のプロジェクトに参加するはずでしたが、参加できませんでした。目的地までの移動には、イエメン政府とサウジアラビア軍の許可が必要でしたが、許可が下りなかったからです。最終的には当初の予定になかった、別のプロジェクトに参加することになってしまいました。

MSFの活動はどれもそうですが、新任地に赴任後最初の1ヵ月は、環境に適応することに費やされます。その期間に現地の状況を把握し、スタッフとの人間関係を構築します。また、内科疾患の治療においては、治療の経過を診たり、患者さんとそのご家族に対して健康教育を行ったりするには最低3ヵ月かかると考えます。現地スタッフの育成にも、同じ位時間が必要です。プロジェクトが決まるまでに待機しなければいけない期間もあったため、心残りのある活動となってしまいました。

前回のイエメンの教訓を踏まえて、今回の派遣では、紛争地ではない場所で、3~6ヵ月という長期間での派遣期間を希望しました。

派遣までの間、どのように過ごしましたか?どのような準備をしましたか?

 派遣までの間は、年末年始を家族でゆっくり過ごしました。また、MSF以外の組織で、国際保健医療に携わっている方々と交流する機会にも恵まれました。

過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか?どのような経験が役に立ちましたか?

 MSFプロジェクトにおける海外派遣スタッフの役割がより理解できるようになったので、今回のプロジェクトにスムーズに参加できました。また限られた資源の中で医療を行う創意工夫や、これまでの経験から得た、自分自身のストレスを管理する方法などが役に立ちました。

今回参加した海外派遣はどのようなプロジェクトですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?

 今回のプロジェクトでは、ロヒンギャ難民キャンプ内にある1次医療機関と2次医療機関を運営し、またキャンプ内の地域保健活動も行っていました。私は次医療機関で、医師を総括して監督する役割を担いました。スタッフには医師14人と、医師アシスタント13人がいました。

病院内には救急医療室、小児科病棟、新生児病棟、隔離病棟、産科病棟、精神科クリニックがありました。救急医療室と小児科病棟では、下部気道感染症、気管支喘息、気管支炎、髄膜炎、下痢症、皮膚感染症、皮膚膿瘍などが主な疾患でした。新生児病棟では、新生児敗血症、新生児仮死、低体温症、低血糖症、隔離病棟では急性下痢症、急性肝炎、流行性耳下腺炎、水痘、ジフテリア、麻疹などが、主な疾患でした。

出勤前の風景、他のスタッフとともに出勤前の風景、他のスタッフとともに

派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか?また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?

朝5時半に起床、朝食後は7時過ぎに宿舎を車で出発し、8時前にキャンプ地内の病院に到着していました。10時からの病棟回診以外にも、個々の症例相談、スタッフの指導、外部機関への症例紹介、薬局や検査室との連携、人事関連事案やロジスティック関連事案の検討など、目まぐるしく働いていました。

午後は、2時過ぎに昼食を取った後、夕方5~6時までに院内で働いていました。帰宅後は7時頃夕食を取り、8~9時まで自室で翌日の準備などをしてから、就寝でした。 

レストランで食べた伝統的なバングラデシュ伝統料理。手で食べるのもたいぶ慣れてきました。レストランで食べた伝統的なバングラデシュ伝統料理。手で食べるのもたいぶ慣れてきました。

現地での住居環境について教えてください。

宿舎は5階建ての建物を貸し切り、30~40人の海外派遣者が共同生活をしていました。部屋は相部屋で、バスルームは共同でした。海外派遣スタッフがよく入れ替わるため、ルームメイトは4回変わり、5人と生活を共にしました。 

活動中、印象に残っていることを教えてください。

MSFの海外派遣スタッフの役割の1つには、プロジェクトを通じて現地スタッフを育成することがあります。そのため、臨床能力だけではなく指導力が必要になります。最終的には、海外派遣スタッフが臨床現場から離れても、現地スタッフのみでプロジェクトが維持されるようにと願っています。
そのことを念頭に置き、現地スタッフのそれぞれの能力・強み・弱点・将来へ希望などを考慮し、指導にあたりました。時間をかけて、現地スタッフとも良い信頼関係を構築できたと考えます。勤務を開始当初は私たちに頼りきりだった現地スタッフが、プロジェクトを離れる頃になると臨床レベルが向上し、互いに教え合うようになりました。以前よりも自信を持って、仕事に取り組む姿勢が見られるようになりました。

内科医だけではなく、公衆衛生の専門知識と経験も生かすことができました。現地の医療システム全体を見渡すにはそれなりの時間をかける必要があります。今回の派遣では最終的に、プロジェクトの医療面全体の機能を把握することができ、他機関(他の国際機関やNGO団体など)との連携の指揮をとることにつながりました。どこにどんな問題があり、誰にどのように相談すればいいかまで指導できるようになりました。 

今後の展望は?

今までの派遣ではほとんど、医師として臨床現場で現地の医療従事者を監督する役割を担っていました。今年に入り、新たに公衆衛生活動のマネジャーも担うようになりました。MSFのプロジェクトで公衆衛生的観点からプロジェクトを運営し、スタッフを監督する役割です。次回はその役割で働きたいです。

また、患者さんやその家族をよく観察し、現地スタッフとよく話をした結果、MSFやその他の外部支援団体が提供する医療サービスに関して、患者さんの受け入れ度・満足度・継続性を追求したいという意欲が芽生えました。それを実現するために、将来は医療文化人類学を学びたいと思っています。 

田園に反射する夕焼け。文化も生活習慣も異なるバングラデシュですが、田園風景を見ると、日本の原風景を見るような、懐かしい気持ちになりました。田園に反射する夕焼け。文化も生活習慣も異なるバングラデシュですが、田園風景を見ると、日本の原風景を見るような、懐かしい気持ちになりました。

今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

MSFプロジェクトにおける海外派遣スタッフの役割は、日本で医療を行うのとは異なります。自分自身の経験や達成感のために仕事をするのは最優先課題ではありません。患者さんの利益は当然のことながら、地域の住人や現地スタッフの利益になることを最終目的にする必要があります。それも短期的に達成できる目標だけでなく、中長期的な視野を持たなければならないと考えます。時には、こちらが良かれと思ったことが、逆効果を生み出してしまうこともあると思います。日本人の価値観と現地の方の価値観が当然、異なるからです。相手の立場に立って考えることが必要です。

現地に派遣されたときは、新任地に到着後すぐに状況を改善しようとするのは控えた方が良いでしょう。改善したい気持ちを抑え、まずは現状を観察し、尊重し、受け入れる。そして現状に至った経緯を把握する。さらに現地の医療システムについての情報を集める。もちろん人命救助が優先される緊急時は、直ぐに改訂案に取り組む必要がありますが、相手を理解することから始めれば、現地スタッフと信頼関係を築くことができ、その後に改訂案を出した時受け入れてくれやすくなります。 

MSF派遣履歴

派遣期間
2017年9月~2018年1月
派遣国
イエメン
活動地域
ラゼー
ポジション
内科医
派遣期間
2017年6月~2017年9月
派遣国
スーダン
活動地域
白ナイル州
ポジション
内科医
派遣期間
2017年3月~2017年6月
派遣国
シエラレオネ
活動地域
コイナドゥグ
ポジション
内科医
派遣期間
2016年9月~2017年3月
派遣国
ニジェール
活動地域
ジャクスコ
ポジション
内科医
派遣期間
2015年6月~2016年6月
派遣国
ウズベキスタン
活動地域
カラカルパクスタン共和国
ポジション
内科医
派遣期間
2014年10月~2015年1月
派遣国
パキスタン
活動地域
カラチ
ポジション
内科医