特集

国境なき医師団 日本が行く2024

ミャンマー、マレーシア、バングラデシュ──活動地からの声

2024.11.27

国境なき医師団(MSF)日本のスタッフは、2024年の6月から7月、ミャンマー、マレーシア、バングラデシュの活動地を訪問しました。
 
MSFはこの3カ国で、主にロヒンギャの人びとに対して医療・人道援助活動を行っています。2024年はミャンマーでロヒンギャが国軍の掃討作戦により国を追われてから7年。無国籍のロヒンギャは、逃れた先のバングラデシュやマレーシアでもさまざまな困難に直面しています。一方、ミャンマーも2021年の軍事政権の発足以降、各地で衝突が起こり、人道状況は深刻化しています。
 
日本からも遠くないアジアの国々で、いま何が起きているのか。MSF日本のスタッフが訪れた3カ国から、人びとの声を届けます。
国境なき医師団 日本が行く
MSF日本のスタッフが活動地を訪れ、取材をしたことを表すロゴマーク。MSF日本独自の取材記事になります。
今回、活動地を訪れたMSF日本のスタッフはこちら
事務局長 村田慎二郎
2005年よりMSFの海外派遣スタッフとして、スーダンやシリアなどで活動に従事した。2020年、MSF日本の事務局長に就任。2022年にはバングラデシュ、コックスバザールのロヒンギャ難民キャンプを視察した。今回はミャンマーの最大都市ヤンゴンと西部ラカイン州のプロジェクトを訪問。
広報部コミュニケーション・オフィサー 今津みなみ
広報部エディトリアル・プロダクションチームで活動ニュースやSNSの編集・執筆などを担当。MSFの活動地取材は2024年の能登半島地震に続き2回目。マレーシアとミャンマーを訪れ、ミャンマー西部ラカイン州のプロジェクトも視察した。
アドボカシー・医療渉外チーム 渉外担当シニアオフィサー 堀越芳乃
国連機関やNGOを経てMSF日本に入職。日本の政府機関や他の援助機関、学術・研究機関などとの協議や関係構築に従事する。2022年は事務局長の村田とともにロヒンギャ難民キャンプを視察。今回はマレーシアとミャンマーを訪れた。
広報部メディア担当マネジャー 舘俊平
報道機関への情報発信をはじめとするメディア対応に従事。作家・クリエイターのいとうせいこうさんの現地取材の同行も担当し、今回はバングラデシュを訪問。これまでに訪れたMSFの活動地は11カ所となる。

フェンスの中のロヒンギャ──Behind the Wire

MSF日本の事務局長、村田慎二郎はミャンマーを訪問し、最大都市ヤンゴンと西部ラカイン州のプロジェクトを視察しました。ラカイン州から状況を伝え、ロヒンギャの人びとが置かれた苦境に今こそ沈黙を破るべきだと訴えます。

事務局長 村田慎二郎

7月上旬にミャンマーを訪れました。ミャンマーの人びとが苦しい暮らしを送るなか、とりわけ厳しい状況に置かれているのが、ロヒンギャです。彼らが多く暮らすラカイン州では、2023年後半以降、暴力の激化でMSFの医療活動にも深刻な影響が出ています。私がラカインを訪問した時、8カ月ぶりに1カ所だけ、移動診療が再開されました。診療所では数百人が診察を待ち、その多くは女性でした。その様子は、今回の動画に収められています。

(動画:3分)

ロヒンギャ——人として自由ではない人びと

現在、世界にはおよそ280万人のロヒンギャの人びとがいます。その中の、推定99%に及ぶ大多数は、基本的人権や自決権を否定する有害な政策によって閉じ込められ、社会の周辺に留め置かれています。
 
世界のロヒンギャの39%は、バングラデシュとミャンマーのフェンスで囲まれたキャンプに住んでおり、生活、教育、医療へのアクセスはほぼありません。また、それに対する解決策も提案されていないままです。マレーシアでは、国連高等難民弁務官事務所(UNHCR)の難民登録を受けた人びとでさえ、雇用や教育を受ける権利を持っていません。ロヒンギャに対する根本的な封じ込めと自由の欠如は、彼らの心身の健康に深刻な影響を与え、民族としての存在を脅かしています。
 
現在MSFはさまざまな活動地で、解決策を見いだすことができないまま、ロヒンギャを絶望的な困窮に陥れるための制度が増え続けているのを目の当たりにしています。また、国際社会は、ロヒンギャの人びとが逃れた先ではなく、ミャンマーにおいて解決策を見出そうとする傾向にあります。

ロヒンギャが生きるあらゆる場所で、より多くの外交努力と政策の選択が一刻も早く求められています。

ロヒンギャ難民危機に関する最新報告書はこちら:『Behind the Wire: Impact of state of containment and exclusion strategies on the Rohingya』(英文)

ミャンマー:危機を生きる人びとはいま

2021年2月の軍事政権の発足以降、ミャンマーの人びとは絶え間ない困難に直面しています。国軍と武装勢力や少数民族勢力との衝突が各地で起こり、医療への影響も深刻です。最大都市ヤンゴンと西部ラカイン州のMSFの活動現場から伝えます。

コミュニケーション・オフィサー  今津みなみ

ヤンゴン市内の結核病院を訪れ、MSFのスタッフに状況を聞きました。2021年の軍事政権の発足以降、治安の悪化により、人びとが医療を受ける機会は大きく妨げられています。それでも、さまざまな制約や困難に直面しながらも、患者さんや地域の人びとに貢献すべく医療活動に取り組む現地スタッフの姿に感銘を受けました。あるスタッフが語った、ミャンマーの人たちへ向けたメッセージは今もずっと心に残っています。

【連載】ミャンマーに生きる──「あの日、すべてを失った」 最大都市ヤンゴンの結核病院から

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渉外担当シニアオフィサー  堀越芳乃

私たちがミャンマーを訪れた7月上旬。ラカイン州のロヒンギャの人びとが多く暮らす地域では紛争が激化していました。紛争から逃れてきた男性は、涙を流しながら、たくさんの人が殺されたと私たちに語りました。まずは紛争下においても人道アクセスが確保されるよう、関係国、ドナー国及び国際機関による、全ての紛争当事者に対する継続的な働きかけを求めます。

【連載】ミャンマーに生きる──戦闘の再燃したラカイン 絶え間ない恐怖にさらされるロヒンギャの人びと

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マレーシア:危険な旅の末に──ロヒンギャが直面する苦難

ミャンマーやバングラデシュから、マレーシアへ——。ロヒンギャの人びとは、過酷な旅を経てたどり着いたマレーシアにおいても、医療や保護を受ける際にさまざまな障壁に直面しています。ペナン州のプロジェクトを訪れたMSF日本のスタッフが、診療所で働くMSFのチームに話を聞きました。

渉外担当シニアオフィサー  堀越芳乃

過酷な船旅や、陸路での移動を経てマレーシアに逃れたロヒンギャの人びとは、同じ人間とは思えない扱いや暴力を受け、飲まず食わずの日々を経験していました。あのような経験は誰にもしてほしくはありませんし、すべきではありません。私は2001年にバングラデシュのキャンプを初めて訪問して以来、ロヒンギャの人びとを取り巻く状況に関心を持ち続けてきました。ロヒンギャの人びとの状況はアジアの抱える大きな人道問題として対処すべきです。ロヒンギャの人びとが尊厳を持って生きていけるよう、当事国、周辺国、ドナー国、そして国際社会によるさらなる取り組みを求めます。また、私たち一人一人がこの問題に関心を持ち、「関心を持って見ていること」を示していくことも必要だと思います。

「私たちは地球上で望まれない民族」──逃れたマレーシアでも苦境に立たされるロヒンギャ

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コミュニケーション・オフィサー  今津みなみ

あるロヒンギャの女性ボランティアスタッフは「私たちには人間としての尊厳や権利、仕事や教育の機会、精神的・肉体的に保護されること。そのすべてがありません」と語りました。それでも今はボランティアとしてロヒンギャのコミュニティを支援できることに喜びを感じる、とも。ロヒンギャの人びとは、移動や教育、雇用、医療を受けることなど人間としての権利そのものが奪われています。この状況を一人でも多くの人に知ってもらい、変化のきっかけになればと思います。

「もし自分が国を追われ、逃げることになったら」 国境なき医師団のスタッフが語る、ロヒンギャのこと

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バングラデシュ:いとうせいこうさんが見た、ロヒンギャ難民キャンプ

武力弾圧を受けたロヒンギャの人びとが、ミャンマーからバングラデシュへ大規模な避難をしてから今年で7年。バングラデシュ、コックスバザールにある世界最大の難民キャンプを訪れた作家・クリエイターのいとうせいこうさんが、ロヒンギャについて語ります。

メディア担当マネジャー 舘俊平

いとうせいこうさんの取材に同行し、コックスバザールのロヒンギャ難民キャンプを訪れました。この場所は「メガキャンプ」とも呼ばれ、周辺キャンプを含めると100万人近い難民が暮らしています。今も人口は増え続け、ここで生まれた子どもたちもたくさんいます。この場所がメガキャンプとなって7年。ロヒンギャの人びとの置かれた状況は、改善するどころか、世界の多くの紛争の陰に隠れ、関心を集めにくくなる傾向にあります。日本を含む国際社会は、当事国とともに、問題の解決を早急に探る必要があると思います。

「無関係ではいられない」──いとうせいこうトークイベント:ロヒンギャ難民キャンプをたずねて

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作家・クリエイター
いとうせいこう
 
1961年、東京都生まれ。編集者を経て、作家、クリエイターとして、活字・映像・音楽・舞台など多方面で活躍。2016年以降、アジアやアフリカ、中東などのMSF活動地を多数訪れ、多くのスタッフや患者に話を聞き、捉えた現実や抱いた思いを著書やイベントなどで発信し続けている。今回訪れたバングラデシュのロヒンギャ難民キャンプについて、ルポルタージュを執筆中。第一回目はこちら:いとうせいこうの「国境なき医師団」をそれでも見にいく~戦争とバングラデシュ編(1)

バングラデシュ、コックスバザールのロヒンギャ難民キャンプ。起伏の富んだ丘に、竹とビニールでできた仮設住宅が立ち並ぶ Ⓒ Saikat Moujumder
バングラデシュ、コックスバザールのロヒンギャ難民キャンプ。起伏の富んだ丘に、竹とビニールでできた仮設住宅が立ち並ぶ Ⓒ Saikat Moujumder

トップ画像:フェンスの中のロヒンギャ──Behind the Wireイラスト Ⓒ Chiaki Suzuki

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