事務局職員インタビュー

人道援助のキャリアを重ねて国境なき医師団へ 挑戦し続けるカルチャーが魅力

  • アドボカシー・医療渉外チーム
    渉外担当シニアオフィサー 堀越 芳乃

    学生時代から人道援助に携わる仕事をしたいと願い、国連機関やNGOでキャリアを積んできた堀越芳乃。これまで援助分野で重ねてきた経験を生かし、国境なき医師団(MSF)では日本の政府機関や他の援助機関、学術・研究機関などとの協議や関係構築に当たっている。

高校時代から思い描いていた国際協力でのキャリア

父親が仕事で東南アジアや中南米によく行っていて、子どものときに家族で東南アジアへ旅行したことがありました。そのとき、自分と同じぐらいの年の子どもが、洋服も満足に着ていないで、妹や弟を抱きながらお金をちょうだいと言っているのを見て衝撃を受けました。その後、高校のときに国際協力という仕事を知り、この分野で働いてみたいと思ったことが始まりです。

大学では国際的な問題を考えるサークルで活動したり、国連機関でインターンを経験しました。卒業後は米国の大学院に進学し、国際政策学を専攻しました。大学生の頃から子ども、女性、難民といった人びとへの支援に興味があったので、「ジェンダーと開発」というプログラムも学びました。

卒業後、南米のガイアナにある国連機関で国連ボランティアとして2年間働き、現地に複数あった国連機関のコーディネートをする部署で仕事をしました。それぞれの機関がどう役割分担するのかを学ぶことができ、その後のキャリアでも大きなメリットとなりました。

南米のガイアナで国連ボランティアとして活動した

高まった緊急人道支援への関心

帰国後は日本の組織で国際協力をしてみたいと思い、日本のNGOに入りました。MSFと比べると活動規模も小さなNGOで、海外駐在員も国ごとに1人か2人でしたので、東京にいながらも海外の現場と一緒にプロジェクトを運営している感覚で仕事ができました。地雷対策ではアンゴラやスーダンでの活動に取り組み、緊急支援ではハイチの地震(2010年)、パキスタンの洪水(2010年)、東日本大震災などを担当し、10年ほど勤務しました。

こうした仕事をするなかで、紛争下や紛争後など情勢が安定していない状況で、人道的な観点から緊急支援をすることに興味があるとあらためて感じました。その頃、組織のあり方として共感していた団体の一つがMSFで、ちょうどMSFが人材を募集しており転職することを決めました。

前職ではスーダン・南コルドファン州の活動を担当

政府、援助機関──さまざまな関係者に働きかける

MSFで取り組んでいる仕事は主に3つです。1つ目がアドボカシー活動(政策提言)。MSFが援助活動の現場で直面する問題を解決するために、政府機関、援助機関、医療団体、研究者など、さまざまな関係者に働きかけを行っています。また、それらの関係者からMSFの活動について質問があった場合には対応を行います。

例えば、2014年に西アフリカでエボラ出血熱が広がったときは、以前からエボラ出血熱に取り組んできたMSFに、国際協力に携わるさまざまなところから関心が寄せられました。私は国連機関や他のNGOと比較しながら、MSFならではの特徴や体制について紹介するとともに、MSFが直面する課題、国際社会に求めることなどについて説明しました。

2つ目が政府資金の担当です。MSFでは、活動資金の95%が民間の寄付でまかなわれていて、政府資金は1.2%だけです。活動地において独立性と中立性を保つことが可能であると判断した場合に限り、政府資金を受け入れています。現在はスイス、カナダ、日本の3カ国からのみ、特定の国やプロジェクトのみ使うことを目的に資金の提供を受けています。

政府からお金を受けることで、活動資金を得るだけでなく、MSFの考えや戦略を政府機関などへ伝え、より多くの協力と理解を得ることにもつながります。アドボカシー活動においても、資金に関する協議においても、相互理解を促進することが関係構築において大切だと考えています。

3つ目は2020年から始まった「人道援助コングレス東京新規ウィンドウで開く」の開催です。これは人道援助に関する問題について討議する会議で、欧州のMSFでは以前から行われていました。日本において国際協力に携わる人びとと人道援助に関する問題について話し合い、また関係者がどのような点に関心を持っているのか、私たち自身がより理解するための機会が必要だと日頃から感じていて、日本のMSFでもやってはどうかと提案したところ、皆から「いいね、いいね」と言われ、私が担当せざるをえなくなりました(笑)。

2021年は、赤十字国際委員会が趣旨に賛同し共催で行いました。毎回、テーマを決め、パネリストやモデレーターを依頼して、会議を作っていきます。そのプロセスそのものが自分にとってとても勉強になります。他の機関の関係者とも知り合うことができます。運営は大変ですが、実施する価値があると思っています。

2019年に実施した人道援助に関するセミナー。
2020年、2021年の人道援助コングレス東京はオンラインで開催した

援助活動と証言活動の両立を追求する、唯一無二の人道援助組織

人道援助に興味がある自分にとって、MSFが魅力的なところがいくつもあります。MSFが設立されてから50年が経ち、紛争の形や、援助が必要な人を取り巻く環境も変わっています。そのなかでMSFは憲章を掲げ、変わらない理念のもとで医療や健康に特化した緊急人道援助活動をしています。自分たちがやるべきだと思うことだけを、独立性や機動性を担保しながら行い、国際社会に対する発言力や影響力も持っています。

また、援助活動をするだけでなく、証言活動も柱にしています。こうすべきだという高い理想を発信すると同時に、どの団体よりも過酷なところで現場のオペレーションをやっているわけです。援助活動をしながら、状況を改善するための情報発信もするのは時にリスクを伴いますが、ひるまず両立を追求しています。

MSFには状況に応じて方針を変えたり、新しい方法を採用したりする柔軟さもあります。例えば、2015年にアフガニスタンでMSFの病院が攻撃された際には、当時あまり知られていなかった国際事実調査委員会による調査を求めるなど、斬新な取り組みも行います。

大学の講演で国境なき医師団の活動を伝える

MSFには、失敗を恐れずにチャレンジすることが大切というカルチャーがあるように感じます。また、組織がフラットで、思ったことを言いなさいというカルチャーも大きいと思います。マネジメント層もやる価値があると思えばチャレンジさせてくれているように感じます。

国際協力に携わっている人たちから、「MSFは憧れるけれど自分には無理」と言われることがあります。たしかに募集が出る職務内容は専門性が高いので、尻込みしてしまうのだと思います。ただ、最初から100%できるというより、この人ならできそうだという思いでMSFは人を採用しているのではないかと思います。少しでもやりたいことがあったら、ぜひチャレンジしてもらえたらと思っています。

事務局職員募集に関するよくあるご質問

Q 語学力はどの程度必要ですか。

原則として、ビジネスレベル(会議で意見を言える、英語で簡単なレポートを書ける程度)の英語力が必要です。

Q 医療・人道援助にまつわる専門性は必要ですか。

募集職種によりますが、入職の段階では必ずしも求められません。しかし、入職後ぜひ興味を持って勉強し、人道援助への理解を深めてください。国境なき医師団では、海外現場から帰国したスタッフによる報告会や、さまざまなレクチャー、外部向け講演会などを催しています。

Q 入職後の研修について教えてください。

オリエンテーション(座学)とオン・ザ・ジョブ・トレーニングを組み合わせた研修が1カ月程度行なわれます。その他、自身のスキルを高めるため、外部研修などに参加できる「自己啓発援助制度」もあります。

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