所属組織の声

所属医師が国境なき医師団に参加 その決断を応援する理由とは

  • 魚沼基幹病院

    鈴木榮一 病院長、加嶋克則 産婦人科部長 & 鈴木美奈 産婦人科医

    アフガニスタン、ナイジェリア、エチオピア、マラウイ。産婦人科医の鈴木美奈は、これまでに4カ国で国境なき医師団(MSF)の活動に参加してきた。2016年からのべ7回の派遣、合計26カ月に及ぶ。鈴木はこの間、勤務する魚沼基幹病院に在籍しながらMSFの海外での活動を続けている。

    MSFに参加する医師の多くが、海外で活動する際には勤務する病院との折衝に苦労しているのが現状だ。実際に職場を離れる決断をする医師も少なくない。そのような中、鈴木はどのように勤務先病院の理解を得、長い期間にわたりMSFの活動に参加することができたのか。病院長と産婦人科部長に伺った。

    (左から) 魚沼基幹病院の鈴木病院長、鈴木産婦人科医、加嶋産婦人科部長

病院長の視点から

「スキルアップして戻ってきてもらい、病院全体の質の向上を」

鈴木榮一病院長が2021年に赴任した当時、鈴木美奈はナイジェリアで活動中だった。着任した病院で、医師の一人が海外へ行き長期に不在——。そのことについて抵抗感などはなかったのだろうか。病院長はしかし、鈴木美奈の海外での活動を特別なこととは感じていない。むしろ病院として、勤務するスタッフ全員が自己研鑽ができる環境をつくることが使命と話す。

「鈴木美奈先生に関しては、私が赴任する前から国際貢献活動をしていると聞いてましてね。いまも、しばらく会わないなと思ったら、“帰ってきました!”と戻ってくる、そんな感じですね」

魚沼基幹病院には2015年の開院以来、“自己啓発休業制度”というしくみがある。医師だけではなくあらゆる職種のスタッフが、スキルアップのために休職し、大学院で学んだり、資格を取ったりすることを積極的に支援している。

「この制度に、海外貢献活動も含まれているわけです。病院勤務だけをずっとしていると、スキルアップが難しいこともありますよね。そこで、この制度でスキルアップして戻ってきてもらい、その後継続的に病院で勤務してもらう。それで病院全体としての質も向上するという発想です」

魚沼基幹病院は、高度医療、急性期医療、救急医療を東京都よりも広い医療圏に提供することと併せて、地域医療に貢献できる人材を育成するという目標を開院当初から掲げている。

「自己研鑽といっても、スタッフの数はきちんと確保して患者さんなどに迷惑をかけないようにしなければなりません。だから私は、診療実績も大切だけれどもなによりもこの病院で働きたいと思ってくれる先生たちに来てもらうことが一番重要だといつも伝えています。意欲ある先生を多く集めて、医局に入ってもらうこと。そうすれば患者さんや診療に負担をかけることなく、自己研鑽したい人たちを応援できます。

鈴木先生のように海外貢献をすることもできるし、海外留学をすることもできる。そのようなことを発信することで、夢のある人が魅力を感じて、この病院へ来てほしい。何より本人のやる気が大事です。そのやる気を、病院として応援していきたいと思います。ついさっきも看護師の来年の募集をかけたらあっという間に定員を超えたと聞いて。そういうのを聞くと嬉しいなあ」

人材確保と人材育成を使命としている一方で、やはり病院としては診療が第一である。鈴木病院長は人材の確保を通して、病院スタッフが海外派遣などのスキルアップに積極的に挑戦できるような環境をつくっている。

鈴木榮一病院長

産婦人科部長の視点から

「不在をカバーするために上がったチーム力」

一方、医師が一人抜けた産婦人科の現場ではどのように日々の診療や出産、手術などを管理しているのだろうか。産婦人科をまとめる立場であり、鈴木と10年来の同僚でもある、加嶋克則産婦人科部長と鈴木美奈が語った。加嶋部長は、鈴木がMSFに入るために前職場を離れる決断をした時に魚沼基幹病院への入職を勧めた、鈴木のよき理解者であり、協力者だ。

加嶋部長は鈴木がMSFからの初回派遣でアフガニスタンに行くことになったときの心境を、短い言葉で語った。
「ああ、本当に行くんだな、語学も通じないところで働くなんてすごいなと思いました」

鈴木の不在を埋めるためのノウハウを尋ねると、こう返ってきた。
「病院のシステムによるものというより、美奈先生の人間性から応援したいと思う気持ちが大きいと感じます。美奈先生が抜けている間、人員の補充はしないので、不在の間のスタッフの数は、単純にいつもの人数マイナス1になります」

加嶋克則産婦人科部長

魚沼基幹病院の産婦人科に在籍する医師は全員で8人。鈴木が抜けたときは7人となる。鈴木が抜けたときには他のメンバーがその分の仕事をこなしているため、鈴木は日本で勤務中は当直や何かあったときの対応などを率先して行おうとしてるのだが──。

「でも、みんながいいよ、いいよ、って言って全然やらせてくれない」と鈴木は笑う。「迷惑をかけているわけじゃないからって。本当にもう、感謝しかないです」

海外派遣で抜けたときのチームに与える悪影響は?という問いにも加嶋部長は、「ただ当直の回数が少し増えるだけ。本当にそれだけ」と笑う。

「他のスタッフからの不平不満などは聞いたことがありませんね」

鈴木が海外派遣に出ている間に、病院で勤務する医師たちにも変化が起こったと加嶋部長は言う。

「美奈先生は臨床の経験が多く技術力が高いので、いる時はつい頼ってしまいます。不在の時は、美奈先生が普段行っている手術を他の医師がやることになるので、その医師にとっていい経験になります」

さらに、鈴木の不在がチームのあり方を変えたと話す。

「チームみんなが、美奈先生がいなくても頑張ろうと思ってよりまとまりました。大切なのは組織力、チーム力を上げるということですね。スタッフが海外などに行くために一人抜けても大丈夫ということを可能にするためには、ほかの人がカバーできる能力が必要です。自分はお産しかやらないとか手術しかやらないというように仕事を細分化するのではなくて、皆がある程度何でもできるというようになるのがいいと思っています。その点で、この病院の医師は何でもやるという人が多いですね。そういう人たちが揃うと、たとえ一人がMSFの派遣に行っても大丈夫なんです」

そして、鈴木は思いをこう語った。

「本当に、チームにいるのが特定の分野しかしないスペシャリストばかりだったら、海外派遣に行くのは難しかったと思います。実はそれはMSFの現場でも同じですね。何か一つのことだけに秀でているだけでは通じません。いま日本では仕事がどんどん細分化されているのですが、MSFの現場ではジェネラリストのスペシャリストが求められています」

鈴木美奈産婦人科医

海外派遣スタッフの視点から

「MSFで働いて変わった価値観」

MSFの現地では、医療先進国である日本ではもはや見られなくなった病気を見ることもある。先端の医療環境とはほど遠い現地の病院で診察や手術を行う必要もあるが、そういった環境に身を置くことが仕事のモチベーションになり、医師としての価値観にも変化があったと鈴木は考える。

「以前は医師である自分の価値観を助産師さんや看護師さんに押し付けてきたことがあったかもしれません。20年以上経験してきたからいろいろ分かっているつもりになっていて。 でも、それは違うなと派遣に行くたびに考えさせられます。特に現地の人たちは、私が経験していないことをたくさん経験しているので、逆に教わることも多いんです。その時に、聞くことの大切さを知りました。自分が正しいと思い込んではいけないんだなと。なんでも聞いて、理解し合って、話し合って決めていくっていうのが大切だと学びました。いまは日本でも、むしろ若い子の意見でなるほどと思うことも多いんです。そういう姿勢が変わりましたね。

MSFで海外派遣に行くことについては、最終的には自分の覚悟ができているかどうかです。覚悟がある人は、自分で道を切り開くと思うんです。私もMSFで働くために医局をやめるという決断をして、それを伝えました。すると周りの人たちがなんとか新潟に残りながらできないかと考えてくれて、医局を辞めることなくいまのような働き方ができるようになりました。世間や環境がどうとか言いたいこともあるかもしれませんが、行きたいと思うぶれない心、そういう強い気持ちが何よりも大切です」

インタビュー後、病院の玄関まで鈴木医師と歩いていると、小さな赤ちゃんを抱っこした女性が「鈴木せんせーい!」と近づいてきました。鈴木がお産を取り上げた女性です。「先生またどこか海外に行ってきたんですか?」と笑顔で聞かれている姿を見て、チームの仲間だけでなく、患者さんからも応援されているように感じました。(フィールド人事部 松本)

産婦人科医としてMSFで活動したい方は……
主な業務内容、応募条件など、
詳しくは『産婦人科医』のページへ!

産婦人科医のページを見る

海外スタッフへ応募される方はこちらから

MSFの海外派遣への応募書類は、下記の専用フォームで受け付けています。必ず各職種の応募条件をご確認の上、応募する職種の専用の履歴書(英語自由形式)、志望動機書(英語自由形式)、各職種の必要書類をご確認いただき、ダウンロード、ご準備のうえ、下記応募専用フォームにてご応募ください。

海外派遣スタッフ説明会情報をご希望の方はこちら